おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「ジョーカー・ゲーム」 柳広司

2009年04月30日 | や行の作家
「ジョーカー・ゲーム」 柳広司著 角川書店 (09/04/29読了)

 もう、これは、文句無しに面白い! 超クール!!! 納得の、吉川英治文学賞!って、実は、それが、どれほどの権威なのかはわかりませんが…さっき、有隣堂をブラブラしていたら「オリンピックの身代金」(奥田英朗著・新潮社)の帯にも「吉川英治文学賞受賞」と書いてありました。相当に、クオリティの高い作品に与えられている賞ということですよね。

 第二次世界大戦中、陸軍内部に密かに組織されたスパイ養成校・D機関の卒業生たちを主人公とした短編集。二重にも、三重にも仕掛けが施された極上のエンターテインメント。実は、途中で「これは、設定が甘いんじゃないの?」と突っ込みを入れたい個所がありましたが、著者は、読者のそんな突っ込みはお見通しだったようです。実は、その甘さ自体も仕掛けのうちなのでした。とにかく、考え抜かれたストーリー。文章も、贅肉が無く、スッキリ。
 
 この本には5話が収められていましたが…まさか、ここで終わりじゃないですよね?シリーズ化熱烈希望!!! もっともっと読みたいです!!!

「オチケン!」 大倉崇裕

2009年04月29日 | あ行の作家
「オチケン!」 大倉崇裕著 理論社 (09/04/29読了)

 おいおい、こりゃ、小学生文庫シリーズっすか? と聞きたくなるようなストーリーでした。薄くて、ぬるいコーヒー飲んだような物足りなさ。同著者の「福家警部補の挨拶」(創元推理文庫)はめちゃめちゃ楽しくって、私的には、超・期待の作家だっただけに、ややガッカリ。

 理論社の「ミステリーYA!」シリーズの中の一冊なので、一応、ミステリーなんでしょうが、あまりにもコジツケっぼく、事件の設定もくだらな過ぎて、謎解きをする気も萎える。文章のリズムもチンタラ(ゆったりとしているというプラスの評価はし難い…)していて、ノレなかった。

 しかし、それと比べると、巻末のオマケは面白い。理論社のウェブサイトに7回に渡って著者が寄稿した「落語ってミステリー?」を収録したものです。著者が、落語からいかにインスピレーションを得ているか、そして、敷居が高いと敬遠せずに多くの人に落語を聞いてもらいたいと思っていることが、素直に伝わってくるエッセイでした。多分、編集者的には、このエッセイを依頼した時点から、著者に落語をテーマにしたミステリーを書かせようと目論んでいたのでしょうね。

 この著者に限ったことではないのですが… 最近、「書かせすぎはやめよう!」と声を大にして叫びたくなることがある。ちょっと「当たり」が出た作家には、A出版も、B書店も、C社も押し寄せて、次々と、新作を要求する。でも、水量が衰えることなく、永遠に滾々とわき続ける泉なんて、そうはないんじゃないでしょうか。貴重な水源は、無駄にせずに、大切に使おうよ!!!! 「福家警部補」を読む限り、とっても、いい水が湧いている泉だと思うんです。だからこそ、こんな駄作で泉の寿命を縮めてしまうことは、もったいなくてなりません。


「三匹のおっさん」 有川浩

2009年04月27日 | あ行の作家
「三匹のおっさん」 有川浩著 文藝春秋社 (09/04/27読了)

 ライトノベルの真骨頂とでもいいましょうか。飯島和一の後に読むと、妙に軽さが気になりますが、でも、きっと、軽さこそ、この小説の命…なんですよね。きっと。

テレ朝の時代劇で「三匹が斬る」シリーズがありましたが(私は、一度も見たこと無いけど…)、もしかしたら、それに、着想を得ているのかもしれません。昔、近所の悪ガキ集団として名を馳せた3人が、定年・引退を迎えてヒマを持て余し、「ちょっと、ご近所のために頑張っちゃおうぜ!」とミニ自警団結成して大暴れ。「おっさん」の名称は、「まだ爺さんじゃないぞ」という、3人の高い(?)自意識を反映したものです。

物語全体を通して、古き佳き日本への郷愁が漂います。ああ、ちょっと前までこういうお節介なオジサンが、本当に、町内会に何人かいたよな。ちょっとした町内のトラブルは、警察沙汰になる前に、そういう人たちが当事者の間に入って、なんとか丸く収めたりしていたものです。
公園で裸になったぐらいで、すぐにケーサツに通報したり、ネットで誹謗中傷したりするようなギスギスした社会においては、こんな「三匹のおっさん」たちは、天然記念物のような存在ですな。

細かいことを言えば、「三匹」での事件解決をハイライトにするために、逆に、三匹が違法行為をしているんじゃないか… と思われる場面多数。そもそも、事件が、いかにも単純で、ちょっとお子ちゃま向き? 箸休めのハズの初恋物語や、夫婦愛のサイドストーリーが甘々過ぎ-と、注文を付けたいところもありますが、でも、ライトノベルですから! 混雑する電車の中で、隣の兄ちゃんのipodからシャカシャカ音が漏れてくるのを聞きながらも、イライラせずに楽しく読めました。

「汝再び故郷に帰れず」 飯島和一

2009年04月25日 | あ行の作家
「汝再び故郷に帰れず」 飯島和一著 小学館文庫 (09/04/25読了)
 
 2冊目の飯島和一(1冊目は「始祖鳥記」小学館文庫)。やはり、ズッシリと重たい質感。文章の密度が高くて、一ページ、一ページ、味わいながら、ゆっくりと読み終えました。

 表題作「汝再び故郷に帰れず」は、ボクサーの再生の物語。夢破れ、一度はアルコールに溺れてボクシングを捨てるが、故郷の島に戻り、故郷の空気を体中に吸い込むことで、再び、ボクシングに向き合うエネルギーが満ちてくる。
 野球選手やゴルファーに比べれば、プロと言っても、微々たるファイトマネーしか手にできない。しかも、本当に、死と隣り合わせで、憎くもない相手と殴り合う。ここで、もう一度、ボクシングを始めてしまったら、不条理で報われない世界に暮さなければならない。理性は抵抗しても、気が付けば不条理を選んでしまう人間への温かさが物語を包んでいました。
 試合のシーンも何度か出てくるのですが、気が付くと、息を詰めて、体中に力が入ってしまいます。同じく、ボクサーを主人公とした「ボックス!」(百田直樹・太田出版)が、スピード感があって、駆け抜けるような場面展開であるのとは対照的に、「汝再び…」は、
スローモーションで決定的シーンを見せられているような印象です。

 他に短編2つ。「スピリチュアル・ペイン」と「プロミスト・ランド」。私は、特に、マタギの地に生まれた若者を主人公とした「プロミスト・ランド」が好きでした。

 飯島和一の作品に共通するのは、生は、いつも、死と隣り合わせにあるという諦念。でも、だからこそ、生きるということが大切に、愛おしく思えてくれるのです。静かに、そして、ゆっくりと、癒されます。


「半夏生」 今野敏

2009年04月19日 | か行の作家
「半夏生」 今野敏著 ハルキ文庫 (09/04/17読了)

 相変わらず、ソツなく上手いですな。

「踊る大捜査線」からおチャラけ部分を差し引いてノベライズすると、こんな小説が出来上がりました-という内容のストーリー。いわゆる「署モノ」と言われる分野で、トリックよりも、人間ドラマを読ませる感じ。舞台は、東京湾臨海署。レインボーブリッジというか…お台場エリアそのものを封鎖してしまう場面もあったり、室井さんを彷彿とさせる、話のわかるキャリアが登場したり…と、もしかして、著者も、ちょっとぐらいは、「踊る大捜査線」を意識しているのかも。

単行本で発売されたのは2004年なのですが、事件の背景には、パンデミックの恐怖が複線となっていて、新型インフルエンザの大流行が懸念されている今日を先取りしているようでもありました。

 ちなみに、タイトルの「半夏生」は夏至から数えて11日目に当たる日で、その頃に花を付ける植物の名前でもあるそうです。ストーリーの最終盤の会話で、色々と説明されて、「ああ、なるほど、このタイトルにはそういう意味があったのね」と理解するのですが…。でも、バッと見で、推理小説のタイトルとしては、あまりキャッチーとは思えません。

「なほになほなほ」 竹本住大夫

2009年04月14日 | た行の作家
「なほになほなほ」 竹本住大夫著 日本経済新聞社 (09/04/14読了)(注・文楽ファン限定評価)

 文楽大夫の人間国宝・竹本住大夫師匠の「私の履歴書」(日経新聞)連載を再構成して、書籍化したもの。

 「はじめに」を読み始めたところから、もう、目がウルウル。住師匠の他の著作や、簑助師匠の「私の履歴書」で読んだこととエピソードがダブるところは少なくないのですが…リズムの良い文章についつい引きこまれてしまいます。そして、師匠の芸にかける熱い思いが切々と伝わってきて、改めて、「文楽に出会えて良かった」と思える一冊。

 文楽ファンには価値ある著作ですが、ノン・文楽ファンにとっては、その魅力は理解しがたいのであろうなと思われます。


「虎と月」 柳広司

2009年04月09日 | や行の作家
「虎と月」 柳広司著 理論社 (09/04/08読了)

 私が高校生の頃は、ファンタジーノベルという言葉は、まだ、なかったと思う。ま、仮に、その言葉を知っていたとしても、現代文の教科書に載っていた中島敦の「山月記」をファンタジーと理解するほどの読解力は私にはなかったと思うけど。この物語は、その「山月記」を下敷きにしたライトミステリー。著者は、私と同じように、教科書で「山月記」に出会い、その面白さにハマり、全文を暗記するほどに繰返し読んだそうです。やはり、後に名を成す人は、学生時代からタダものではないということでしょうか。

 私は、「山月記」に関して、「年若くして科挙試験に合格した神童が、狂って虎になってしまった話」という程度の極めていい加減な記憶しか持っていませんが、それでも、十二分に楽しめました。高校生の時、「山月記」の面白みを理解できた人、その内容を記憶している人であれば、さらに、楽しめるはず。

 主人公は虎になってしまった男の息子。物心がつくかつかないかのうちに、父親は行方不明となり、「虎になった」と聞かされて育った。十四歳になった今、なぜ父親は虎になってしまったのか、その父親に会うことはできないのか-と謎解きの旅に出る。少年の成長&冒険物語であり、ミステリーでもあるストーリー。最後の謎解きは、漢文の知識が試される、というか、知識がなくても理解できるように書いてあるけれども、でも、漢文の基礎知識があったら、もっと、面白く読めただろうなぁ-という感じで、教養の無さを反省。

 読みながら、少年の成長を見守るような、やさしい気持ちになれる文章でした。しかし、せっかちな私にとっては、やや、冗漫な印象。もうちょっとページ数を減らして、内容を濃縮した方が最後まで飽きずに楽しめるのではないかと思いました。


「オバマは世界を救えるか」 吉崎達彦

2009年04月07日 | や行の作家
「オバマは世界を救えるか」 吉崎達彦著 新潮社 (09/04/06読了)

 決定! 全エコノミスト&アナリスト必読の書。といっても、目を見張るような新理論や、斬新な経済分析が展開されているわけではありません。内容は、極めてまっとうで、奇をてらうところがありません。
 しかし、これだけ潔く反省の弁を述べるエコノミストを私は知りませんでした。しかも、テレビでもおなじみの有名人なのに…。著者曰く、「まっとうなエコノミストたるものは07年後半から08年前半のどこかで『もう危ない』というシグナルをださなければいけなかった。私は『まだ大丈夫でしょう』と言っていましたから、間違えたと深く反省しています」。
 世の中には、グダグダと言い訳を並べたて、あんな不測の事態なのだから予想できなくて当然と開き直っているまっとうではないエコノミストが掃いて捨てるほどにいらっしゃるので、この本を読んで、ぜひに、反省していただきたいものです。

 「オバマは世界を救えるか」-。世界にとって、かなり、差し迫ったテーマをタイトルにするなんて、いかにも商売上手! でも、結論をバラしちゃうと、この本に、その答えは書いてありませんでした。あとがきの中で、著者が「現時点ではなんとも言えません」と正直に告白しているのです。ただ、結論が書いていないからと言って、この本を読む意味が無いというわけではないと思います。

 リーマンショックに端を発した今日の経済混乱をほとんど誰も予想できなかったように、オバマが世界を救えるかどうかなんて、誰にもわからないのです。就任直後に比べると、最近は世界のオバマに対する期待値がやや低下傾向にあるような気はしますが、そんな気分が当たっているのか、当たっていないのかも、しばらく経ってみないとわかりません。「でも、オバマだけに命運を預けることないじゃん。日本だって、結構、捨てたもんじゃないよ」という著者のメッセージが底流に流れていて、ちょっと前向きな気分になれます。

 首相が二人続けて任期途中で政権を投げ出してしまった国の住民としてみると、米国民がオバマを選んだという事実、そして、そのプロセスは、(オバマが当たりか・外れかは別としても)とっても羨ましい。そういうチョイスができることがアメリカのパワーの源泉の一つなのだろうし、その点で、とっても不健全な日本はダメなんじゃないか―と思いがちです。でも、日本には米国にはない柔軟性、利他精神、儲けは二の次精神みたいなものがあって、そういうパワーがもしかしたら、いまの窮地から抜け出す手がかりになるかもしれないという希望を持たせてくれます。結局、オバマが世界を救うわけではなく、天は、自ら助くるものを助くわけです。

日頃は、現実逃避型読書に耽っているため、ノンフィクションを読むのはすご~く久し振りかも。専門家が、ほとんど何もわかっていない人を相手に、小難しいことを平易な言葉で語るって、とても難しいと思います。でも、この本は、本当に、噛み砕いて、噛み砕いて、消化しやすい文章で、日ごろ、経済にどっぷり浸かっていない人にも読みやいのではないかと思いました。その上、穏やかなお人柄を彷彿とさせる文章の中に、時たま、とんでもない毒気やユーモアが混ざっているのが良いです。日本と米国の関係をお金持ちでなくなりつつあるスネオと力が弱くなったジャイアンにたとえているあたりなんて、笑っちゃいました。



 

「暴雪圏」 佐々木讓

2009年04月04日 | さ行の作家
「暴雪圏」 佐々木讓著  新潮社 (09/04/04読了)

 分厚いけれど平易で読みやすい文章。終盤はハラハラドキドキの連続。タイトル通りの暴風雪の中に閉じ込められた訳ありな人たちの追いつめられる心理が描かれているし、最後には救いの場面も用意されていて、良質なサスペンス劇です。でも、勝手な言い分ではありますが、佐々木讓作品としては、ちょっと、イマイチなんじゃないの??? って、気分でございました。

 強盗事件の犯人、会社の金庫から大金を盗んださえないオジサン、出会い系で不倫しちゃった人妻などなど、それぞれに事情を抱えた人たちが、暴風雪の追い詰められるように、ペンション「グリーンルーフ」に集結してしまう。ボイラーが壊れたペンションの中で、お互いの素性は知らぬまま、全員が食堂に集まって暖をとっている時にふとテレビを付けると、その中の一人が、強盗犯としてニュースに出ている。そこからが、極限的な恐怖が始まる。もちろん、その心理描写もさすが佐々木讓と思わせるものがありますが、それ以上に、爆弾低気圧によるとんでもない暴風雪の描写が、佐々木讓の真骨頂です。あっという間に吹きだまりができていく様、除雪車も通れないような激しい降雪、ホワイトアウト-とにかく、迫真の表現です。雪の中の自損事故で怪我をした人がいるのがわかっていても、見捨てなければ二重遭難で自分が死ぬというのも、雪が降らない地方に住む人にはわからない恐ろしさがありました。

 ただ、前段はあまりにも登場人物が多すぎて、「えっと、それって、誰だっけ?」としばしば立ち往生。しかも、語り手が2-3ページごとにコロコロと変わっていくので、誰にも感情移入できないままに物語の中盤に到達してしまい、ちょっと不安な気持ちになりました。やはり、長編を読む時って、物語の中の誰かに肩入れしたいものです。前半がやや冗漫な分、フィナーレが駆け足になりすぎたような印象でした。佐々木讓なら、もっともっと完成度が高い作品が書けるのではないか-と勝手にハードルの高さを上げてしまいたくなります。


「安政五年の大脱走」 五十嵐貴久

2009年04月04日 | あ行の作家
「安政五年の大脱走」 五十嵐貴久著 幻冬舎文庫 (09/04/03読了)

五十嵐貴久という人の才能に改めて感服。最初に読んだ「交渉人」(幻冬舎文庫)は、かなり正統派のサスペンス。続編の「交渉人遠野麻衣子 最後の事件」(幻冬舎)と合わせて「超・私好み!」と思ったのでした。その時点で、私は、五十嵐貴久は佐々木讓や今野敏のような警察を舞台にしたサスペンス作家と分類していました。しかし、その後、彼の作品を読むたびに、ジャンルも作風も全く違うことに驚かされ、「いったい、この人は、どういう作家なの???」と疑問に思っていたのですが…。この「安政五年の大脱走」の奇想天外ぶりによって、ますます、五十嵐貴久が異能の人であることを印象づけられました。

「安政の大獄」でも知られる幕末の最大権力者・井伊直弼の若き日の切ない恋から物語は始まる。井伊直弼は、井伊家の十四男として生まれ、本来であれば、他家に養子に入らなければならない身の上。しかし、養子縁組に恵まれず、わずかな捨扶持で、世捨て人のように暮らさざるを得なかった。小藩の美しい姫にほのかな恋心を抱くも、ニートの身分では恋愛などできるはずもなく、ますます、引きこもり生活に陥っていく。
しかし、養子の縁がなく、井伊家に居残っていたことが幸い。兄たちが早世したために、期せずして、老年に差し掛かってから、直弼は彦根藩主の座を手に入れることになる。そこで、若いころのうっ屈した思いが一挙に爆発。実らぬ恋を取り戻すべく、かつての思い人の娘である美雪姫を藩士もろとも陸の孤島のような場所に幽閉し、側室になることを迫る。

ドラマの中心は、幽閉された藩士と美雪姫が繰り広げる大脱走劇。正直なところ、ちょっと現実味が乏しすぎて、まじめに、技術論的に検証したら、「そんな方法での脱走はありえないでしょう?」と突っ込みを入れたくなるのですが…これは、あくまでも、フィクション。ハリウッドのB級アクション映画のノリで読むと、めちゃめちゃ面白いのです。しかも、幕末を舞台にしたB級アクションを書こうなどと思いつくこと自体がスゴイ!
もちろん、読者を楽しませるドラマもたっぷり。幽閉された側の南津和野藩士たちの実質的なリーダーである桜庭敬吾は頭が良くて、クールでカッコイイし、美雪姫は美しく、強く、聡明。さらに、井伊直弼の懐刀である長野主膳は、もう、これでもかこれでもかというほど冷酷なイヤな奴と-それぞれにキャラが立っている。手に汗握る脱走計画には「その手があったのか」と驚かされ、応援していると、最後に、大どんでん返しもあり、「ええっ」「あっ~」「もう、ダメ」とスリル満点。その上、隠された大恋愛もありと、テンコ盛りです。さすがB級ドラマチックで、物語の完成度は、「交渉人」と比べると、イマイチな印象ではありましたが、でも、エンタメ性は十分です。

五十嵐貴久作品は、他にもガッキー&舘ひろし主演でドラマ化されたライトとSF系の「パパとムスメの七日間」や、青春ドラマ風「1985年の奇跡」、ホラー系「リカ」などバラエティーに富んでいます。まだ、未読の作品も多数あるので、今後、ますます、気になる作家さんです。