おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

勘十郎さまカッコよすぎです@鑑賞教室

2008年12月08日 | 文楽のこと。
勘十郎さまカッコよすぎです@文楽鑑賞教室  (08/12/07)

 文楽鑑賞教室&12月公演のダブルヘッダー。ああ、楽しかった。充実の一日です。
 
 文楽鑑賞教室はダブルキャストですが…もちろん、勘十郎さま出演の方のチケットをゲット。二人三番叟は、若干、大夫の声も三味線もバラバラと揃いがイマイチだったような気もしますが、なんとか無事終了。その後の「解説・文楽の魅力」は大夫、三味線、人形の若手さんが見所・聴き所を解説。特に、三味線さんが同じ旋律で町娘と姫の登場を弾き分けて下さったのは「おおっーこんなに違うのか」と納得。さすが、皆さん、エンターテイナー。初めて文楽を観るという人も多い会場でしたが、観客の心を上手くつかんで、笑いをとりながらの和やか解説でした。
 そして、メインの「菅原伝授手習鑑」。「義経千本桜」「仮名手本忠臣蔵」と並ぶ時代物の三大名作だそうです。期待通り、勘十郎さまの松王丸、カッコよすぎです。菅原道真を大宰府左遷においやった藤原時平に仕えた松王。道真方とは対立関係にあり、道真の息子である菅秀才の首を確認する役を担っているのに…かつて父親が仕えていた道真に報いたいとの一心で、殺されることが分かっている菅秀才の身代わりとなることを承知で自分の息子を寺子屋に送り込むという悲愴な役どころ。威風堂々とした外見とは裏腹に悲しみをたたえた表情、憂いある仕種が泣かせます。身代わりとなって死んだ息子を「なんと健気な息子。まだ、8つ、9つという幼さで、親に代わって道真公に恩返しをしてくれた」と称えつつも、悲しみが抑えきれない泣き笑いの場面は、圧巻でした。これを語っているのが住大夫師匠だったら…確実に、泣いちゃいます。
 勘十郎さまのカッコよすぎは織り込み済みでしたが、紋豊さんの女房千代も大熱演で、すごーくよかったです。紋豊さんの老女形って、人生の重さというか、不条理の運命に逆らえない悲しみが出ていていいなぁと思うのですが、今回は、特に、勘十郎松王との相乗効果で素晴らしかった。

 12月本公演は「源平布引滝」。勘十郎さまが出演されたのは「義賢館の段」のみと、ほんのちょびっとだったのが悲しい。もちろん、この段では主役なのですが…なんとなく、鑑賞教室の松王に比べると地味というか、覇気がないというか。先日の池上実相寺のワークショップで勘十郎さまは「松王は本当に大好きな役の一つ」とおっしゃっていましたが、役の覇気には「大好き」度合いもちょっとは反映されてしまうのでしょうか。
 タイトルの通り「源氏」と「平家」のバトルがベース。源氏再興の象徴である白旗の争奪戦の形で物語は展開。観客側は源氏方に肩入れしたくなるような作りになっているのですが…「こいつは敵方=平家」と思って登場人物を見ていると「平家に仕えるが、実は、心根は源氏」みたいな人が何人も出てきて、後半は「えっ~、この二人って、そういう関係だったの??」的などんでん返しにつぐ、どんでん返しです。
 中盤は義賢から白旗を託された小まんの活躍が見所。女だてらに、腕に覚えのある小まんが侍たちを次々と投げ飛ばすシーンがカワイイ。女三四郎という感じの背負い投げがバシッと決まっています。思わず、小さく拍手してしまいました。和生さん大熱演!
 後半は、歌舞伎の「実盛物語」に当たるもので、「心は源氏」の斉藤実盛がフィーチャーされていて、馬に跨るシーンなんかとってもカッコイイのですが、私は瀬尾十郎の演技の方が心に残りました。孫に手柄を取らせるために、あえて、刺されて死ぬという、現代の感覚では理解不能な設定なのに、舞台を見ていると、自然にスッーと心に入ってきました。
 
 12月は人間国宝が一人も出ていない。「つまんないなぁ」と思っていましたが、でも、実際に舞台を見てみると、意外にも、物足りない感はなく、十分に楽しめました。今回は、若い太夫さんが一人で語る場面が結構あって、この人ってこういう声だったのかと発見がいっぱい。若手の太夫さんでは、前々から密かに注目していた芳穂大夫さんの声が一番好きと確信しました。ただ声量があるだけの人とか、声を出そうと絶叫調になってしまう人も少なくないなか、芳穂さんは、肩に力が入らずに伸び伸びとしたお声で、こらちも、緊張せずに気持ちよく聞けます。早くお爺ちゃんになって、さらにさらにいいお声で語って下さいませ。