おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「日本人の叡智」 磯田道史

2011年06月30日 | あ行の作家

「日本人の叡智」 磯田道史著 新潮新書 11/06/26読了 

 

 磯田先生の本を読むたびに、小学校6年の時の担任の松崎均先生を思い出す。歴史を学ぶことの意味を教えてくれた人。

 

 当時、社会科はあまり好きじゃなかった。特に、歴史は苦手。「美しさはなんと(710年)言っても平城京」「いい国(1192年)作ろう鎌倉幕府」程度の語呂合わせは覚えられたけれども、もっと細々として膨大な合戦や将軍の治世とかの年号を覚えることに何の意味があるのかさっぱりわからなかった。そもそも、昔の人がどんな戦をしようが、私には何の関係もないと思っていた。

 

テスト直前になっても「歴史なんて意味がわからないから勉強しない」と開き直っていた時に、「人間は過去の過ちを繰り返さないために、歴史を学ぶんじゃないのかな」と松崎先生に言われて、子どもながらに目から鱗が落ちたような、今まで見えなかったものが見えてきた感動を覚えている。

 

松崎先生に巡り会っていなければ、多分、私は今の私ではなかったと思う。大学で史学を専攻した―という外形的なことだけでなく、あの時の先生の言葉は、折に触れて私が立ち戻る原点だ。

 

 磯田先生の著作は歴史オタク的マニアック魂の結晶だが、でも、その底流に流れる歴史に対する敬意と、歴史に学ぶ真摯な姿勢がストレートに伝わってくる。

 

 「日本人の叡智」は朝日新聞土曜版beの連載をまとめたもの。歴史上の人物100人(超有名人も、ほとんど無名人も)が残した言葉を毎週1つ取り上げ、その言葉が意味するもの、読み取れること、現代に生きる私たちが学ぶべきことを優しく読み解いてくれる。連載していた頃から時々読んでいたけれど、一冊にまとめると、ズシリとした重みになる。

 

 読みながら、美しい言葉に何度も涙が出てきた。人の心を動かす力がある言葉は、時代が変わっても普遍なのだと思う。そして、3回に1回ぐらいの割合で「それに引き替え、菅政権は…」と独りごちてしまう。首相会見、官房長会見の空虚な言葉が国民に届かないのには、そこに心が無いからなのだ。磯田先生は、直接的に今の政治を批判したりはしていないが、今の政治、今の社会の空気に対する厳しい目を感じずにはいられない。そして、それは、社会の構成員であり、有権者でもある読者11への問いかけでもある。

 

 子どもの頃、課題図書を読んで読書感想文を書くのが夏休みの宿題の定番だった。永田町の先生方に、「日本人の叡智」を全員必読の課題図書として指定したい。被災地で家族や、仕事や、家財を失った方々のことを考えたら、遅々として進まない原発事故対応のことを考えたら、今、政治ゲームにうつつを抜かしている場合ではない。自分で考えられないならば、せめて、素晴らしい治世をした先人に学んでほしいところ。そして、政治家だけでなく、「一家に一冊、『日本人の叡智』を!」とたくさんの人にオススメしたくなる素晴らしい珠玉の言葉たちです。



3 コメント

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短い文章に感動の連続 (日月)
2011-06-30 22:18:47
どれも心に残る名言ばかりでしたね。読み返すために感動した言葉に付箋を貼っていったら、本が付箋だらけになりました(^^;)

今の政治家に松平定信公の爪の垢を煎じてのましてやりたいです。

個人的には戦時中の沖縄で自ら知事となった島田叡さんの生き様と言葉に惹かれました。アホになりきるというのは、存外難しいですよね。
そう考えると坂田師匠ってすごいのかも…

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とりとめなく… (おりおん。)
2011-07-01 14:05:30
日月さん
 コメント有り難うございました。私は付箋は貼らなかったものの…読みながら「う~ん、これがベスト名言だな」と思い、でも、次のページをめくると「やっぱり、これがベスト名言かも…」ととりとめのない状態に陥っていました。

 いずれにしても、こういう言葉を発掘して、私たちに届けて下さった磯田先生に感謝!

人間の器からいくと
 坂田師匠>菅ちゃん ってことでしょうか?

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松崎均先生 (船倉 正実)
2016-08-30 09:51:41
相当前のブログのコメントですみません。何気なく目を読ませていただいていたら、松崎均先生の名前が出ていました。ひょっとして大学時代の同級生かなと思い、コメントを投稿しました。埼玉県の大学を卒業して神奈川県(横須賀?)で教壇に立っているような話が耳に入ってきたことがあります。同じ人であれば、お話の通り素晴らしい人間です。もう定年を迎えているのですが。お互いに。
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