おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「まず石を投げよ」 久坂部羊

2008年12月14日 | か行の作家
「まず石を投げよ」 久坂部羊著 朝日新聞出版 (08/12/14読了)

 作者にとって、「まず、石を投げてみよう」という作品なのだろうか? 意欲作だと思うし、作品に引きずり込まれて、結構、ハイスピードで読めてしまったので、決して、つまらなかったわけではないのですが、なんとなく、今一つ、腑に落ちないというか…ちょっと“ひっかかり”の残る作品でした。

 「医療ミスはなぜ起こるのか」「それを防ぐためには何をすべきなのか」。主人公である若手(しかも、超美人らしい。オヤジ作家の作品としては、まあ、ありがちな設定である)の医療ライターの問題意識を共有しつつ、読者も、色々と考えさせられます。医師でもある作者が、物語を通じて、問題提起したいことは、すごくよくわかります。さらに、医療ミスを取り上げるマスコミのあり方についても、物申したいこともよくわかった。

問題提起の幹の部分はヨシとして、枝葉の部分で、ちょっと設定に違和感がありました。まず、ライターである綾乃が取材相手の情報をいとも簡単に第三者にしゃべりまくり、挙句の果てには取材相手のメールアドレスを人に教えてしまうところ。その後、美人が幸いしてテレビの企画にも関わるようになるのだけれど、番組の作りに疑問を感じながらも、なんとなく流されていくような感じで、「この人、これで、ちゃんとライターとしてやっていけるのだろうか?」と余計な心配をしてしまいました。また、ネタ元を教えてくれない新聞記者を「あの記者は融通が利かない」みたいに批判する場面があったけれど…その批判もいかがなものかと…。
ミステリーとして、イマイチと思ったのは、取材で知り合った女に襲われて殺されかけた時に、安っぽいテレビドラマの9時43分的に、思わぬ助け人に救われるっていうのが、いかにも安っぽいなぁというところなどなど。で、残り20ページぐらいになって「あまりにも救いのない終わり方だなぁ」と思っていたら、最後で、無理やり、救いを作っていました。個人的には、救いのあるストーリーの方が圧倒的に好きなのですが、だからといって、残り数行で無理やり帳尻あわせというのは、いかがなものかと…。

と、批判ばかりダラダラ書いたようですが、でも、やっぱり、意欲作だと思います。傑作になる芽があった作品かも。編集者がもうちょっと根性入れて、時間かけて作品作っていたら、何倍も何倍も考えさせられる本になったような気がします。私的には、久坂部作品としては、「破裂」の方が上です。