三谷文楽・其礼成心中の公演プログラム
小心者の私は2000円を払って公演プログラム(いわゆるプログラムと床本の2冊セット価格)を買うべきか否か、正直、躊躇した。チケットが7800円でプログラム2000円って、合計1万円じゃん!文楽の定期公演のプログラムは600円だったかな…3倍以上の価格だよ!
でも、結論から言うと、買って大正解! 絶対額としてのプログラム2000円はちと高いような気がしないでもないけれど…でも、それだけの価値があります!「其礼成」という作品が何を伝えたいのかというメッセージがぎっしりと詰まったプログラムであり、プログラム自体が1つの美しい作品になっているのです。
特に、三浦しをんによる巻頭エッセイと三谷幸喜インタビューには泣けました。何度読んでも、涙が出てくる。これを読むと、どこぞの市長と公開討論するのしないのと揉めている場合ではなくて、まだまだ、文楽界がやるべきこと、できることはたくさんあるように思えるのです。
なぜ、江戸時代に書かれた戯作が現代人の心にこれほどまでに響くのか-熱烈な文楽ファンにとっては言わずもがなことかもれしない。時代を経ても人間って本質的には変わらない。愚かだけど一途で、一所懸命で、愛おしい登場人物たちに自分を重ね合わせ、共に喜んだり、悲しんだり、心ときめかせたりする。
でも、未体験の人にとっては、文楽は小難しくて、高尚そうで、ちょっとかび臭そうな世界に思えるのです。そういうニューカマーたちに大上段から伝統の重み、芸の厳しさを語っても、ますます敷居をまたぐ気力を削いでしまう。そうではなく、平易な言葉で文楽の世界の扉を開けてみるように誘い、中に入ってきた人には、もう一歩、さらに一歩奥へと足を進めてもらうように仕組むのが正しい戦略ではないでしょうか。
にしては、国立劇場・国立文楽劇場のプログラムは、あまりにマンネリで、メッセージ性に乏しいです。もちろん、ほぼ1カ月おきのペースで定期公演を打ち、そのたびに公演プログラムを制作するご苦労は計り知れないものがあると拝察致します。
でも、毎回、「なんのこっちゃ!?」と突っ込みたくなる「あらすじ」って、意味があるのでしょうか? 文楽特有の込み入った人間関係を限られたスペースで説明するのは確かに難しいとは思いますが…それにしても、観客の立場に立ってみたら、もうちょっとわかりやすい文章にしないと伝わらないって気付いてほしいです!
そして、「これって、10年以上前ですよね?」って写真を並べた出演者紹介もどうかと思います。脂の乗った技芸員の皆様方の若かりし頃のお顔もステキですが…でも、やっぱり、出演者紹介の趣旨って、昔を懐かしむことではないですよね? 一年に一度、技芸員さんの今の姿・表情を切り取った写真に差し替えることはそれほど難しいことではないと思うし、なによりも、それ自体が貴重な記録になると思うのです。若い技芸員さんがどんなふうに成長していくのか、ベテランの方々がどんなふうに円熟していくのか、後になって振り返る楽しみもできるのではないでしょうか。
ここは思い切って、有志のプログラム制作委員を募って、一度、観客の目線でプログラムを作ってみるぐらいのチャレンジをしてみるというのはどうでしょうか。文楽ファンはなぜ、たかだか人形劇にこれほど胸をときめかせてしまうのか―その原点に戻ることで、ファン層を広げ、もっと深みにはまらせるようなメッセージある公演プログラムがきっと作れると思うのです。もちろん、プログラム制作委員の応募があれば、エントリーしますっ!!
話が少々、脱線致しましたが…ともかく、「其礼成心中」の公演プログラムにも、学ぶことがたくさんあると思いました。そして、三谷幸喜の文楽に対する愛情と、敬意と、脚本家・演出家としてのプロフェッショナリズムに最大限の拍手と感謝を送りたいです。