「銭の戦争 第1巻・魔王誕生」 波多野聖 ハルキ文庫
恐るべしハルキ文庫!!!
そして、波多野聖、いったい何者なんだ!!!
まったくもってキケンな書物を手にしてしまいました。
主人公は明治21年生まれの稀代の天才相場師。三井銀行のエリート・井深雄之介の次男・享介として生まれ、容姿端麗・頭脳明晰な青年へと成長していくが…相場の魔力に取り憑かれ、父親の友人の破滅を招いたとして勘当を言い渡される。狂介と改名し、孤高の人生を歩んでいくことになる。
主人公はこの狂介のようでいて… 単に一人の人物にフィーチャーしているわけではないのです。高橋是清、ラスプーチン、伊藤博文など教科書に必ず出てくる歴史上の人物から、もう少々マイナーな幕末から明治期にかけての経済人まで、ネット検索してみると井深雄之介&享介親子以外はほとんど実在の人物なのです。
日本が戦費のメドも立てないまま日露戦争に突入したこと、当時・日銀副総裁だった高橋是清がロンドンに赴き、ギリギリの交渉を重ねて奇跡的に外債発行にこぎ着けたこと、そして、その裏でうごめくユダヤ財閥の思惑。かと思えば、ラスプーチンがいかにしてロシア皇帝に取り入っていったのか… 近代史総復習的でありながら、少しも「お勉強」的な匂いはなく、物語としてのハラハラドキドキがてんこ盛りなのです。
もちろん、相場師の物語というだけあって、仕手戦の様子は息をのむようにリアル。株式市場の草創期で、まだ、電話回線すらろくにない時代。現代の秒速の戦いに比べてみればなんとも悠長な売り買いのようでいて、株取引で勝つための手法の原型というのは当時からある程度、確率されていたのだなと納得。
作者の波多野聖氏、大阪出身、一橋大卒、機関投資家でファンドマネジャー経験ありというあっさりとしたプロフィールしか書かれていませんが、いったい何者なんだろう。金融の知識はともかくとして、近代史の網羅的な知識と考察力はただものとは思えません。とにかく、キケンなほど面白い。そして、これを書き下ろし文庫で出版するハルキ文庫、ブラボー!!!
ちなみに、この小説、完結まで10年を要するそうです。書店で3巻までが平積みになっていて、「なんとなく面白そう…」と購入したものの、後になって3巻が最終刊ではないことに気付く。最終的には20巻になる予定とか。もしかして、現代金融財政史に踏み込むってことでしょうか。続編熱烈期待。でも、半年に一冊の最新刊を待つのはつらいなぁ(>_<)