「日本人の叡智」 磯田道史著 新潮新書 11/06/26読了
磯田先生の本を読むたびに、小学校6年の時の担任の松崎均先生を思い出す。歴史を学ぶことの意味を教えてくれた人。
当時、社会科はあまり好きじゃなかった。特に、歴史は苦手。「美しさはなんと(710年)言っても平城京」「いい国(1192年)作ろう鎌倉幕府」程度の語呂合わせは覚えられたけれども、もっと細々として膨大な合戦や将軍の治世とかの年号を覚えることに何の意味があるのかさっぱりわからなかった。そもそも、昔の人がどんな戦をしようが、私には何の関係もないと思っていた。
テスト直前になっても「歴史なんて意味がわからないから勉強しない」と開き直っていた時に、「人間は過去の過ちを繰り返さないために、歴史を学ぶんじゃないのかな」と松崎先生に言われて、子どもながらに目から鱗が落ちたような、今まで見えなかったものが見えてきた感動を覚えている。
松崎先生に巡り会っていなければ、多分、私は今の私ではなかったと思う。大学で史学を専攻した―という外形的なことだけでなく、あの時の先生の言葉は、折に触れて私が立ち戻る原点だ。
磯田先生の著作は歴史オタク的マニアック魂の結晶だが、でも、その底流に流れる歴史に対する敬意と、歴史に学ぶ真摯な姿勢がストレートに伝わってくる。
「日本人の叡智」は朝日新聞土曜版beの連載をまとめたもの。歴史上の人物100人(超有名人も、ほとんど無名人も)が残した言葉を毎週1つ取り上げ、その言葉が意味するもの、読み取れること、現代に生きる私たちが学ぶべきことを優しく読み解いてくれる。連載していた頃から時々読んでいたけれど、一冊にまとめると、ズシリとした重みになる。
読みながら、美しい言葉に何度も涙が出てきた。人の心を動かす力がある言葉は、時代が変わっても普遍なのだと思う。そして、3回に1回ぐらいの割合で「それに引き替え、菅政権は…」と独りごちてしまう。首相会見、官房長会見の空虚な言葉が国民に届かないのには、そこに心が無いからなのだ。磯田先生は、直接的に今の政治を批判したりはしていないが、今の政治、今の社会の空気に対する厳しい目を感じずにはいられない。そして、それは、社会の構成員であり、有権者でもある読者1人1への問いかけでもある。
子どもの頃、課題図書を読んで読書感想文を書くのが夏休みの宿題の定番だった。永田町の先生方に、「日本人の叡智」を全員必読の課題図書として指定したい。被災地で家族や、仕事や、家財を失った方々のことを考えたら、遅々として進まない原発事故対応のことを考えたら、今、政治ゲームにうつつを抜かしている場合ではない。自分で考えられないならば、せめて、素晴らしい治世をした先人に学んでほしいところ。そして、政治家だけでなく、「一家に一冊、『日本人の叡智』を!」とたくさんの人にオススメしたくなる素晴らしい珠玉の言葉たちです。