「静かな夜」 佐川光晴著 左右社
過去に文芸誌に発表された作品集。
すごくいい。コトバがジワリ心に沁みていく。
表題作は芥川賞落選5回を誇る(?)作家が最初に芥川賞候補になった作品「銀色の翼」の続編として書いた作品。最近、「おれのおばさん」(集英社)シリーズが尾木ママや中江有里さんから推奨されて少々注目されているけれど…作品としての熟度は「おれのおばさん」シリーズとは比べものにならない。余分なモノをそぎ落として、選び抜かれた言葉で綴られた物語。暗く重いストーリーなのに、すごく美しくて、清々しい。真っ白な表紙が美しい素晴らしい装幀ですが、それは、コンテンツを象徴しているようでした。
「静かな夜」は長男と夫を相次いで亡くし、幼い娘2人と生きていく30代の女性・ゆかりに焦点を当てながら、人はどうやって「悲しみ」や「不条理」と向き合い、乗り越えるのかという普遍的なテーマを突き詰めていく。
結局、人間って弱い。逃げるか、他人と比較優位になることで自分を納得させるか…。
でも、弱くても、情けなくても、格好悪くても、生きていれば、新しい局面に出逢える。強くなくてもいい、生きていればいい―というメッセージが暖かい。そして、このメッセージこそが、人がフィクションを求める理由なのだと思う。
ところで、今まで読んだ佐川光晴作品は、本人がモデルとなっているとしか思えないような愚直な男性が主人公で、勝手に、そういう作品しか書けないのかと誤解していましたが、「静かな夜」は女性主人公。これが、なんとも言えずによかった。主人公と筆者に適度な距離感があって、心の動きにリアリティがありました。これまでに読んだ(まぁ、そんなに大して読んでいませんが)佐川作品ではナンバーワン。