おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

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「嫌な女」 桂望実

2010年12月31日 | か行の作家
「嫌な女」 桂望実 光文社 2010/12/28 読了  

「男をその気にさせる天才」「すべての女を敵に回し、自由に、奔放に、したたかに生きる」。帯にあったコピーを見て、ふと思い浮かんだのは、今年の社会面を彩った木嶋佳苗容疑者でした。

連続殺人事件が話題になり始めた時「こんなに次々と男をカモにしちゃうなんて、どんな絶世の美女なんだろうか?」と勝手に想像力を膨らませていました。ところが、いざ、週刊誌に写真が出てみると「えっ~なんで、みんな、こんな十人並みのパッしないおばちゃん(といっても、私より若いけど…)に引っかかっちゃたの???」と不思議に思ったのは、私だけではないですよね??? 

でも、彼女には、若さや、いわゆる世間一般的な美しさとは別の次元の魅力があったのだろうなと思います。詐欺・殺人という救いようもないことをしてしまったことは許されざることですが、それでも、何人もの男性を惹きつけ、信じ込ませ、財布を開かせるには、それなりのパワーが必要なハズなのです。

 『嫌な女』の夏子も特段の美人というわけでもなく、性格も捻じれているというのに、なぜか、いつも、男をカモにしてカネを巻き上げる不思議な才能と魅力を持っている。次々と手口を変え、人の善意につけ込み、その上、自分が悪いなんてこれっぽっちも思っていない。最初は、夏子のネガティブ・パワーに触れてしまって、ちょっと負けそうな気分になりました。

 でも、実は、この物語の本当の主人公は『嫌な女』・夏子ではなくて、夏子の遠縁にあたる徹子という女性弁護士なのです。

 小さな子どもの頃から、70歳を過ぎるまで、徹子は夏子に振り回され、翻弄され続けるのですが、それでも、なぜか、徹子は夏子を嫌いになることができない。

 物語は、徹子の目から、男をカモにし続ける夏子の魅力を解き明かしていくように進行していく。たとえウソであっても、ほんの一瞬でも「あなたに会えてよかった」「あなたの人生は幸せだった」-と誰かに言ってもらいたい-多く人が胸のうちにそんな弱さを抱えていて、そこにつけ込んでしたたかに逞しく生きたのが夏子。詐欺師ではあるけれど、でも、夏子は、確かに、ある一瞬、騙す相手を幸せな気分にさせてあげていた。

かたや徹子はそんな弱さと孤独に向き合い、誰かにつけいられる隙を見せることもなく、自分から甘えることもなく、淡々と、でも、逞しく生き抜いた。

 徹子が年老いていく様子が、切なくも、清々しく、「私も、こんなふうでありたいな」とちょっと思ってしまいました。

 小説誌連載中のタイトルは「いつだって向日葵」だったそうです。そのタイトルだったら、きっと、手に取ることはなかっただろうなと思います。「嫌な女」の方が500倍ぐらいしっくりきます!

 ちなみに作者の代表作「県庁の星」は、織田裕二主演で映画化されそこそこヒットしましたが… 「嫌な女」も映画化したくなるような作品。 小説を読んでいる時「あと50ページ圧縮したらスッキリとした作品になるのに…」と思うことが多いのですが、「嫌な女」はちょっと物足りなく感じるぐらいのある種の大河ドラマでした。

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文楽12月公演 @ 国立劇場

2010年12月19日 | 文楽のこと。
由良湊千軒長者&本朝廿四孝@国立劇場

【由良湊千軒長者】
 「難しげなタイトルだが、安寿と厨子王の物語である」。-とサラリと書いてはみたものの、実は「安寿と厨子王」がどんなストーリーだったかなんて、まるで覚えていません。森鴎外の「山椒太夫」も読んだような、読まなかったような…まことに胡乱であります。

 鑑賞ガイドによれば、三荘大夫(=山椒太夫)のもとに売られた安寿と厨子王が虐待されながらも、いつも父母を思ってけなげに働き、励まし合って生きていくという物語-だそうだ。ストーリー自体は単純でわかりやすいのですが、逆に言うと、何の展開もなく、面白味がない。景気も悪いし、政局も混迷しているし、せめて、舞台の上ではシミッたれた現実をしばし忘れられるようなanother worldを見せてもらいたいなぁ…。
 
 話の本筋からは外れますが、観ていて気になったのが厨子王の幼児言葉だ。厨子王の人形はちょっとイケメンな若者風だった。年の頃で言えば15~16歳といった感じだろうか。ところが、語りは7つ8つの子どものような口調。人形拵えと浄瑠璃とのギャップが激しすぎる。イケメンが舌ったらずな幼児言葉でしゃべるのは興醒め-と感じるのは、私だけじゃないハズ。浄瑠璃が正しいのであれば、人形は、もうちょっと子どもらしく作ってほしかった。


【本朝廿四孝】
 廿四孝と言えば「十種香」「奥庭狐火」が繰り返し上演されていて、初心者の私でも既に、複数回見ている。恋に狂う女の狂気が溢れ出る簑師匠の八重垣姫は、何度見ても、見応えがある。

 今回の「桔梗が原の段」「景勝下駄の段」「勘助住家の段」は、八重垣姫登場の前段に当たる部分で、武田家と上杉家の間での名軍師・山本勘助争奪戦を描いたもの。新聞の劇評などでやたらと「難解な物語」と書かれているし、上演回数が少ない演目のためにネット検索しても予習資料が十分に集めることができず、撃沈覚悟で臨んだものの…意外や意外、見応えたっぷりでめちゃめちゃ楽しめました。

 確かに、単純明快すぎる「安寿と厨子王」とは対象的に、いかにも、文楽チックな錯綜したストーリーで、3分に1回はツッコミを入れたくなるぐらいに突飛な展開。

 主人公である横蔵(玉女さん)と慈悲蔵(勘十郎さま♪)兄弟が父の名跡である山本勘助の名と奥義の軍法書を巡って激しく火花を散らす。慈悲蔵はいじらしいほどに母に尽くし、父の跡を継ぎたいと必死にアピールする。母親からイヤミを言われようが、ダメ出しされようがへっちゃら。「川には魚がいるのだから、それを獲ってくるのはガキでもできる。不可能を可能にしてこそ、本当の親孝行。雪山でタケノコを掘ってきて食べさせてくれ」と、「イジメ」のような言い付けにも必死に従おうとする。

 しかし、しかし、そこまでしておきながら、物語の終盤で「実は、慈悲蔵は上杉(長尾)方の家臣・直江山城之助だったのです」と突然のカミングアウト。しかも、そのことをこっそり母親だけに打ち明けていたという。その上、兄の横蔵が長尾景勝に顔立ちが似ているという理由で、慈悲蔵と母親は示し合わせて横蔵を景勝の身代わりとして殺そうとしていたのです。とすると、「いったい、何のために慈悲蔵を虐待していたの???」と疑問が湧いてくる。

さらに驚いたことに、兄の横蔵は以前から武田信玄に仕えていたそうだ。いくら対立する兄弟とはいえ、それぞれ、敵対する武将に仕えていたことにお互い気付いていないなんて、戦国武将としては、あまりに察しが鈍すぎるんじゃないか?

 さらに、横蔵が慈悲蔵夫妻に育てさせていた赤ん坊の次郎吉は、実は、将軍・足利義晴の忘れ形見ということも明らかになる。「そんな大切な預かりものを、対立している兄弟に渡しちゃっていいわけ???」と、またまた、素朴な疑問が湧いてくるが、いちいち、立ち止っていると頭が混乱するので、あまり深く考えずにスルーしておく。

 話は前後しますが、この演目は、横蔵の子どもである次郎吉(=実は将軍の忘れ形見)を養育するために、慈悲蔵が泣く泣く、わが子峰松を桔梗が原に捨てにいく場面から始まります。未だ、横蔵・慈悲蔵の間で山本勘助の跡目争いが決してもいないのに、なぜか、峰松に「山本勘助」の名札がついているという意味不明の設定。山本勘助の縁ある子どもということで、武田家と上杉家の赤ん坊争奪戦が始まるのですが…よくよく考えてみれば、慈悲蔵は上杉方の家臣なのだから、こんな無意味な争いが起こらない方法を考えられなかったのだろうか? -という疑問はさておき、最初の見せ場は、リトル・勘助をめぐる女たちの代理戦争。武田方の唐織と上杉方の入江の言い争いはなかなか見応えあり。勘弥さんが遣われる品格ある女性は気の強そうな雰囲気が出ていて、カッコイイ。

 慈悲蔵の妻・お種が、雪の降る門口に置きざりにされたわが子・峰松と、横蔵から託された次郎吉とが同時に鳴き声を上げ、どちらを抱き上げて乳をやるか心乱す場面が切ない。やっぱり、清十郎さんは圧倒的に、女形を遣われているのがしっくりくる。もちろん、勘十郎さまも、相変わらず素敵でした。慈悲蔵が登場してくるだけで、舞台の上の空気が変わるような気がする。背筋がスッと伸びた立ち姿がゾクゾクするほどカッコよかった。

 そして、なんと行っても、床が素晴らしい!!! 人間国宝不在の月ながら、聴きごたえたっぷりでした。錯綜したストーリーでもこれだけ楽しめるって、やっぱり、「床」の力です。特に、呂勢&燕三のコンビにはうっとり。呂勢さんの伸びやかな声に、燕三さんの重めの音がよく合っていました。 津駒&富助もボリューム感があって情を語る場面にピッタリ。人間国宝のおじいちゃま方の至芸も魅力的ですが、脂が乗った世代のエネルギーとエネルギーがぶつかりあう感じもまた心に響いてきます。簑師匠や清治さんを見ることができないのは残念でしたが、ても、次世代の胎動を感じて満たされた公演でした。
 
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文楽鑑賞教室Aプロ 伊達娘&三十三間堂 @国立劇場

2010年12月08日 | 文楽のこと。
伊達娘恋緋鹿子&三十三間堂棟由来 @ 文楽鑑賞教室Aプロ

 相子&清丈コンビ最高~! 文楽鑑賞教室恒例の文楽解説。今、文楽界でこれ以上のボケとツッコミは存在しないのではないでしょうか(って、文楽はボケとツッコミを競うものではありませんが…)。相子さんの伸びやかで楽しげな声と、清丈さんのノ~ンビリとしたテンポの会話を聞いているだけで、ちょっとトクした気分になれる。海老蔵ネタや、清水寺の今年の漢字一文字など、今的な話題を取り入れつつ、面白おかしく初心者に文楽を解説してくれる。

 さすがに、私も初心者解説は卒業できるぐらいの観劇を重ねてきたものの、でも、相子&清丈コンビの解説なら何度聞いてもいいなぁ…。会場は、何度も暖かな笑いに包まれました。

 …と、冒頭から演目ではなくて、文楽解説を熱く語ってしまうあたりが、なんとも、寂しいのであります。

「伊達娘恋緋鹿子(=いわゆる、八百屋お七)」-紋臣さん、大抜擢でした。10年後には、きっと、見目良く、華のある女形遣いになられていることを感じさせる舞台でした。でも、お七は、単に、品が良いだけでなくて、ある一線を超えたところからは、ラリってなきゃダメでしょう。最後まで、楚々としたお嬢さまで終わってしまったところが、やや物足りませんでした。床も「一糸乱れず」とまではいかず、なんとなく、パラバラとしていて迫力不足は否めません。まあ、鑑賞教室は、若手の人に大役が付くことで、きっと、次へのステップアップにつながる-と信じたいと思います。

「三十三間堂」。申し訳ありませんが、相当、沈没していました。もともと動きが少なく、睡魔に襲われやすい演目である上に、なんとなく、舞台の空気が緩いというか…今一つ、ピリピリとした緊張感が伝わってきません。勝手な思い込みかもしれませんが、人間国宝がお休みの月は、どうも、締っていない印象です。

和生さんのお柳、玉女さんの平太郎ともに、敢えて、感情を抑えた演技をされているのかもしれませんが、もうちょっと、夫婦が引き裂かれる哀しみ、子どもと別れる苦しみが伝わってきてほしいなぁ…。私は「化身する役柄はラリっているべき」論者なので、柳に化身するお柳が淡々と平常心でいるのがそもそも腑に落ちないのです。

というわけで、この演目、圧倒的にBプロの勘十郎さまお柳、玉也さんの平太郎の方が物語に感情移入できたのではないか-と思うのです。化身する役をやらせたら、勘十郎さまの右に出る人はいません。それに、以前、玉也さんの平太郎を拝見した時、「厳格だけども慈愛に満ちた父親」のキャラクターがきっちりと作り込まれていて、安心して見ていることができました。

誤解を恐れずに言うならば、「解説はAプロ、配役はBプロ」が12月鑑賞教室の理想の組み合わせであったように思います。
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「龍馬史」 磯田道史

2010年12月05日 | あ行の作家
「龍馬史」 磯田道史著 文藝春秋社  

 すっかり磯田道史先生ファンクラブ会員(勝手に私が作っているだけ)になってしまった私です。先週、最終回を迎えたNHK大河ドラマの「龍馬伝」はついに、一度も見なかった。というよりも、これまで、そもそも、龍馬なる人物にほとんど興味を持ったことがありません。天邪鬼なので、あまりに人気のある人物には「ハマらないぞ~」と身構えてしまうのです。だから、今回「龍馬史」を読んだのも、龍馬ブームに便乗したわけではなく、磯田道史先生ファン故なのです(別に言い訳しているわけじゃないけど…)。

 「武士の家計簿」「殿様の通信簿」同様に、ひたすら、淡々と歴史文書を読み解いていく。磯田先生は、多くの人が共有している龍馬像が、司馬遼太郎が描いた「龍馬がゆく」に深く影響されていることを指摘。本当の龍馬を知るためには、二次情報ではなく、一次情報に当たろう-という原点回帰を唱えます。

私は読んでいませんが、「龍馬がゆく」は司馬遼太郎の代表作の一つであり、「龍馬がゆく」こそが、これほど多くの龍馬ファンを生み出したのだと思います。物語のヒーローはカッコよくなきゃ、サマになりません。でも、磯田先生が淡々と迫っていく龍馬の実像は、決して、完璧なヒーローではないのです。大きな商家に生まれて何不自由ない生活をしてきたボンボンらしく、ちょっと我ままで、やや脇が甘い人物だったようです。「船中八策」も実は龍馬オリジナルではないという。ついでながら、大河の歴史考証もサラッと「あんなの信じちゃだめです」と批判しているところも、磯田先生のおちゃめぶりが出ていて楽しい。そして、龍馬暗殺の黒幕と、NHK大河では明示されていなかったという具体的な下手人についても、丁寧な資料分析によって特定しています。

でも、決して、龍馬ファンの夢と憧れを打ち砕くわけではないと思います。完全無欠ではないけれど、磯田先生が浮かび上がらせた龍馬も人間臭く、大らかで、人たらしで、間違いなく、時代の空気を真っ先に嗅ぎつける、先見の明を持った人物であったのです。

というわけで、私的予想では、来年あたり「磯田版・龍馬」を、どこかの民放が制作するハズです。




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