おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

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三谷文楽「其礼成心中」@パルコ劇場

2012年08月15日 | 文楽のこと。

三谷文楽・其礼成心中@パルコ劇場 2012/8/12

 鳴り物入りの三谷幸喜初演出・脚本の「文楽・其礼成心中」を観た。「それなり」にではなく、「かなり」面白かった!

 幕が下りたあとに観客席から起こった温かい拍手と、カーテンコールで登場した技芸員の皆さんの晴れ晴れとした表情とが全てを物語っていたと思う。作者と、演者と、観客の心が通じている舞台って、なんだか、とっても心が満たされる。

 まずは、三谷幸喜の才能とセンスに最大限の敬意を! 

 開演前に丁稚風の三谷幸喜人形が登場!火災や地震が発生した場合には係員の誘導に従って避難するようにとか、携帯電話は電源を切るかマナーモードにしましょうとか…注意事項を説明してくれます。通常であれば、型どおりの事務的な館内放送で済ませてしまう部分にも手抜きはない。小ネタが色々詰め込まれていて、のっけから、観客を楽しませようという意気込みが伝わってくる。

  「其礼成心中」は、大ヒットした近松の「曽根崎心中」後日談を描いた物語。主人公は曽根崎心中人気にあやかり、一儲けを狙う団子屋の夫婦。

 これからご覧になる方もいるやもしれないので、物語の詳細については書きませんが、「いかにも三谷幸喜!」的な巧みな物語構造が築きあげられており、随所に隠された仕掛けが全部連携していて、最後に、ストンと胸に落ちる。三谷幸喜の文楽に対する敬意、近松というストリーテラーに対する敬意、曽根崎心中という作品への深い理解があってこそ「其礼成心中」が成立しているのだと心に響いてくる。

 といっても、声高に賞賛したり、説教臭く解説するわけではない。劇中、何度となく、会場から笑いがまき起こる。思わずクスッだったり、トホホと笑ったり、大爆笑したり…でも、最後に大切なメッセージが伝わってくる。「せや、お客さんが喜ぶのが一番や!そういう芝居を書くのが、わしの仕事や!」という近松の短いセリフに全てが集約されているようだった。今も、私たちをこれほど楽しませてくれる近松門左衛門という稀代の戯作者への賞賛であり、三谷幸喜という劇作家の信念であり、そして文楽界への熱いエール…なのだと思う。

 演出もオリジナリティーに溢れている。文楽ではお馴染みの「床」は舞台の上にある。つまり、大夫と三味線が人形を見下ろすような位置にいるのだ。初めて文楽を観る人にも、大夫を舞台の上に配置とすることで、大夫が物語のナビゲーターであることが一目瞭然に理解できる。呂勢さん、千歳さんがノッて語っているのが伝わってきて、すんなりと物語の中に入っていける。

 セリフの中には、カップル、タイミング、パトロール、ラストなどなどカタカナ言葉が散りばめられている。でも、それが違和感なく、ちゃんと義太夫節に溶け込んでいるのです。きっと、「けしから~ん!」とお怒りになる方もいると思うのですが、こういう試みも悪くないと思います。大切なのは、お客さんを楽しませて、もう一度、劇場に足を運んでもらうこと。初めて観た文楽が難解な歴史ものだったがために、二度と文楽を観たいと思われなくなってしまうよりも、平易な言葉で文楽の面白さを知ってもらい、「次は古典を見よう」と思ってもらえたら、それでいいのです。

 舞台装置では淀川の見せ方が面白いし、すごくワクワクした。本公演でも参考になるのではないだうか。日高川を是非、この仕掛けで観てみたい!

  と、いいところを色々と挙げてみましたが、手放しで絶賛モードというわけではありません。若手中心ということもあって、主遣いはともかく、左と足がかなり綱渡り状態。人形に厚みがないというか、ペシャンとつぶれてしまっていたり、手があらぬ方向にいっていたり、足がついていけずに遅れたり、小道具がちゃんと掴めていなかったり…とハラハラする場面多数。

 国立劇場よりも広い会場なのでやむを得ないとは思いますが… 2時間ぶっ通しでマイクを通して義太夫&三味線を聴くのは、かなり、しんどい。やっぱり、生声・生三味線の素晴らしさに変わるものはないし、あと、集中力を維持するためにもせめて10分ぐらいの休憩入れてほしかった、などなど。もちろん、脚本ももっと練る余地はあると思うる。

 でも、総合すると、やっぱり面白かった。やっぱり、みて良かった。まだまだ文楽にはとてつもない可能性が残っているし、もっと多くの人に文楽の面白さを知ってもために工夫の余地はたくさんあるという希望が湧いてきた。

 橋下徹大阪市長が打ち出した文楽協会に対する補助金カット問題で、三谷文楽には予想以上の注目が集まったようだけれど… 橋下問題と直結させなくとも、この舞台、文楽界にとっては価値あるチャレンジだったのではないかと思います。

  こういう公演を主催できるパルコ劇場ってスゴイ! 国立劇場にも、この気概が欲しいなぁ。伝統を守るのももちろん大切。だけど、芸能は観る人がいてこそ成り立つもの。伝統を守るためには、新しいファン層を獲得していかなければならないし、そのためには、入口の敷居を低くしておくのも1つのやり方。一度足を踏み入れた人を、どんどん深みに引きずり込んで、2度と出られないようにすればいいだけのことです。新しいチャレンジをすることは伝統をないがしろにすることではないし、其礼成の近松さんか言っている通り、「お客さんが喜ぶのが一番や!」なのです。

  この公演がパルコ劇場だけで終わってしまうのはもったいない。国立文楽劇場は三顧の礼で三谷文楽を招待すればいいのに。きっと、大阪人は東京の人よりもっと大笑いするハズ。私が観たいのは、「其礼成」と「曽根崎」の二本立て。曽根崎で大笑いしたあとに、簑助師匠のお初にうっとりできたら、どんなに幸せだろう!敷居を低く「其礼成」で集客し、「曽根崎」で深みにはまらせる―戦略としても悪くないと思う。

  近松ほど歴史に残るかどうかは定かではありませんが、三谷幸喜と言えば、今の時代の指折りの劇作家であることは疑いの余地のないこと。誰でも、三谷ドラマや三谷映画の1本や2本は観たことがあるほどの有名人。文楽界として、これを利用しない手はないでしょう。もっとベテランの技芸員の人たちが出てもよかったのに。そうすれば、「其礼成」が文楽初体験の人たちに、もっと美しい左手、もっと人間らしい足を見せられたのに…。

  公演の最後、カーテンコールに応えて、技芸員の皆さんと人形ちゃんが出てきてくれるのが嬉しい。お人形ちゃんたちが一人一人ご挨拶のお辞儀をした後に、大夫、三味線に手を向け、そこで、客席から再び拍手が起こる。通常の公演では、無表情に舞台を去っていく三味線さんが、満面の笑みで観客席に向けて手を振ってくれる。

  相生座や内子座の公演でもカーテンコールがあったが、本公演では絶対にやらない。なぜだろう? ファンなんてバカなものなのです。何十度舞台を観ても、やっぱり、人形に手を振ってもらうと嬉しいし、劇中ではクールな技芸員さんたちが芝居が終わった後の笑顔を見せて下さるのは、「ああ、いい芝居だった」と共に感じあえているような気分になれる。本公演ではカーテンコールはやらないなん慣例は堂々とやぶってしまえばいいのに。「お客さんが喜ぶのが一番や!」ただそれだけです。

 ということで、観劇の感想はだいたいこんな感じ。

 でも、もうちょっと言いたいことがあるので、また、それは数日中にアップします。

 

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2 コメント

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同感です!! (みかん)
2012-08-28 19:58:59
蝙じゅ会を検索していてこのブログにたどりつきました。
8月20日に私も其礼成心中を見てきました。まったく同感!!私の感じたことがそのまま書かれてあって感動しました。ありがとうございます。
人形の左や足が繊細さを欠いていたと思います。若手中心であること、また決まった型がないせいか、と思います。でもそれを補ってあまりある楽しい舞台でした。
「みかん」さん、有り難うございます! (おりおん。)
2012-08-29 12:51:24
みかんさん、コメント有り難うございます!
もちろん本公演もワクワクするのですが、三谷文楽はそれとはちょっと違う意味で、感激したし、心沸き立ちました♪ みかんさんとは、きっと、劇場で知らず知らずすれ違っていることと思います。ファンの立場で、文楽、もっと盛り上げていきたいですね。

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