「さよなら渓谷」 吉田修一著 新潮社 (09/06/22読了)
趣味の問題ですが、好感の持てない作品でした。
私には、明かに、秋田連続児童殺人事件と帝京大学ラグビー部の集団レイプ事件をモチーフにしているようにしか読めませんでした。作家が実際の出来事をヒントにするのは珍しいことではないと思います。しかし、秋田の事件から、まだ3年しか経っていないのです(この書籍が出版された段階では2年しか経っていない)。遺族や関係者にとっては、まだ傷の癒えない時期だし… 私のような関係者ではないものにとっても、後味の悪い事件として鮮明に記憶に残っています。
「だからこそ、モチーフとして使える」のかもしれません。
でも、単なるモチーフの域を超えて、犯人の「里美」のキャラクターは、思いっきり畠山鈴香でした。妄想でメシを食って行こうと決めた人が、こんなにあっさりと現実に屈伏していいのか? 「事実は小説より奇なり」と開き直っていたら、小説なんてイラナイことにはなるまいか?
辛辣に書きましたが、小説自体は、決して、鈴香事件をなぞっただけではないオリジナリティがあります。犯罪被害者になるということがどういうことなのか。犯罪を犯してしまったものが、どういう呪縛にあって生きていかなければならないのか。そして、読者自身が、ほんの一歩踏み外しただけで犯罪者になりうるかもしれない危うさの中にいることを、丁寧に描いています。
だからこそ、100万人にわかるように鈴香事件をモデルにした安直さが、もったいない。そして、その上、結末が最悪。ワイドショーのレポーターがマイク突き付けてクダラナイ質問しているのを聞いていて「バッカじゃないの?」と無性に腹が立つことがありますが… まさにそういう気分。中盤でせっかく丁寧に書いた心理描写が台無しだよと思いました。
趣味の問題ですが、好感の持てない作品でした。
私には、明かに、秋田連続児童殺人事件と帝京大学ラグビー部の集団レイプ事件をモチーフにしているようにしか読めませんでした。作家が実際の出来事をヒントにするのは珍しいことではないと思います。しかし、秋田の事件から、まだ3年しか経っていないのです(この書籍が出版された段階では2年しか経っていない)。遺族や関係者にとっては、まだ傷の癒えない時期だし… 私のような関係者ではないものにとっても、後味の悪い事件として鮮明に記憶に残っています。
「だからこそ、モチーフとして使える」のかもしれません。
でも、単なるモチーフの域を超えて、犯人の「里美」のキャラクターは、思いっきり畠山鈴香でした。妄想でメシを食って行こうと決めた人が、こんなにあっさりと現実に屈伏していいのか? 「事実は小説より奇なり」と開き直っていたら、小説なんてイラナイことにはなるまいか?
辛辣に書きましたが、小説自体は、決して、鈴香事件をなぞっただけではないオリジナリティがあります。犯罪被害者になるということがどういうことなのか。犯罪を犯してしまったものが、どういう呪縛にあって生きていかなければならないのか。そして、読者自身が、ほんの一歩踏み外しただけで犯罪者になりうるかもしれない危うさの中にいることを、丁寧に描いています。
だからこそ、100万人にわかるように鈴香事件をモデルにした安直さが、もったいない。そして、その上、結末が最悪。ワイドショーのレポーターがマイク突き付けてクダラナイ質問しているのを聞いていて「バッカじゃないの?」と無性に腹が立つことがありますが… まさにそういう気分。中盤でせっかく丁寧に書いた心理描写が台無しだよと思いました。