おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「芙蓉千里」 須賀しのぶ

2011年04月27日 | さ行の作家
  
「芙蓉千里」 須賀しのぶ著 角川書店 11/04/25読了 

 久々のページターナーでした♪ 311の震災以降、もともと低い集中力が極限的に低下して、ろくに本が読めない状態というか… 本を読みたい気分にもなれませんでした。「芙蓉千里」は、活字を追い、ページをめくる楽しさを思い出させてくれました。

 「少女大河小説」とでも言えばいいのでしょうか。
 辻芸人の父親とともに角兵衛獅子(越後の郷土芸能)を演じて生活の糧を得ていたフミ。芸妓とデキてしまった父親は娘を捨てて遁走。天涯孤独となったフミは、人買いに自ら売り込んで哈爾浜(ハルピン)に渡り、日本人が経営する女郎屋の下働きとなる。

 フミの夢は、病で早世した母親のような立派な女郎になること。ハルピンで大陸一の女郎を目指すと意気込むが、類い希な「舞」の才能が開花し、女郎ではなく芸妓として大輪の花を開花させていく。芸妓となったフミに与えられた名は「芙蓉」。

 フミとして女の幸せを追い求めるのか、それとも芙蓉として芸を極めていくのか―。1人の女として恋する男とともに生きる道を選ぶのか、それとも芸妓・芙蓉を愛でる客に応えることこそ、才能を与えられたものの本分なのか。究極の選択を迫られる。

 高田郁の「みをつくし料理帖シリーズ」(ハルキ文庫)の澪のストーリーと微妙にダブルところがある。天涯孤独となった少女が、いかに運命に立ち向かい、澪は水害で両親を失い、生まれ故郷である上方の地を離れ、江戸で料理人としての修行に励む。幼なじみの野江ちゃんは吉原で女郎となっている。

「天涯孤独となった少女が、見ず知らずの土地で新しい人間関係を作り、いかに人生を切り拓いていくか」というストーリーの幹の部分は共通しているのに、印象は全く違う。「みをつくし」は癒やし系なのに対して、「芙蓉千里」は戦闘モード。どちらも、それぞれの良さがあるが、日本中が元気を無くしている今、フミの毅然とした強さ、踏み付けられても枯れることのない雑草のような生命力に勇気づけられる。

「スープで、いきます」 遠山正道

2011年04月12日 | た行の作家
「スープで、いきます」 遠山正道著 新潮社  11/04/11読了 

 2週間ほど前に、テレビ東京の「ソロモン流」でスープストックトーキョーの遠山正道社長を取り上げていた。

 最初、画面に遠山社長が映し出された瞬間、あまりにもエキセントリックな姿に、ちょっと「!!!」となりました。 「おいしいスープ、こざっぱりと居心地のいいお店を、こんな変人っぽい人が作っているの???」と思ったのです。

 でも、番組が終わる頃には、エキセントリックなファッション(道化師をイメージしているらしい)は「ヘン」なのではなく、「個性の主張」なのだということを理解しました。そして、遠山さんという人が柳のようにしなやかで、強い方だということが伝わってきました。

 というわけで、5年ほど前にご本人が書かれたスープストックトーキョー起業の顛末記を拝読することに。

 三菱商事社内ベンチャー0号案件。もちろん、まっさらのベンチャー起業に比べれば、恵まれている点も数多くあったと思いますが、それでも、スープストックトーキョーが現在のスープストックトーキョーたるのは、三菱商事の力というよりも、遠山正道さんという人の熱意の賜物であるのだと思いました。今では、すっかり、ちょっとおしゃれな街の風景に溶け込んでいるスープストックですが、当初は計画通りにいかないことばかりで、客が入らず、赤字続きで胃が痛くなるような思いをたくさんされたそうです。

 一つのスープを完成させるまでの膨大な手間暇と、素材へのこだわりは尋常ではなく、なるほど、ここまでやっているのだから、スープストックのスープが「ちょっとお高め」であるのも致し方ないことと納得しました。

 しかし、何よりも感銘を受けたのは、遠山さんという方のパワーです。といっても、強烈な熱を発していて、触ったらヤケドしそうなものではなく、どちらかという、ナノイオン(と、ナノイオン電化製品を持っていない私が言っても信憑性ないけれど…)みたいに、ふわりと空気を心地よくするようなパワーなのです。311震災後に会社のサイトに載せている遠山さんの言葉にも、そんなパワーが溢れています。特に最後の「わたしたちは、元気です!」がいいです。http://www.smiles.co.jp/company/index.html 

 おいしいスープストックのスープが食べたくなりました。 一つだけリクエストは、どっしりと質感のあるスープに負けないくらい、パンにも食べ応えが欲しいです!

 ちなみに、震災以降、すっかり涙もろくなってしまった私。この本を読み終えるまでにも、何度も泣きました。

「f植物園の巣穴」 梨木香歩

2011年04月12日 | な行の作家
「f植物園の巣穴」 梨木香歩著 朝日新聞出版  

 こういうのを「ファンタジーノベル」と言うのだろうか?

 「f植物園」に勤める私、放っておいた虫歯が痛みだし、歯医者に行くと、歯科助手の手が犬の前足…。歯科助手は歯医者の妻で、前世は犬だった。忙しくなると本性が出て犬に姿を変えてしまうらしい…。

 という、意味不明なプロローグ。そして、読み進んでも、同じような意味不明なモチーフ(大家さんが雌鶏だったり、洋食レストランのメニューに鯉の丸揚げがあったり…)がひたすら積み重ねられていくような感じで最後まで「???」が消えなかった。私には、作者がラリッた状態で書いているんじゃないかとしか思えませんでした。でも、もしかしたら、子どもの心を失ったオバちゃんには、ファンタジーを受け止める能力がないだけなのかもしれません。

 梨木香歩は随筆の「春になったら苺を摘みに」はめちゃめちゃ心に響きましたが、小説はちょっと苦手です。


「長い廊下がある家」 有栖川有栖

2011年04月12日 | あ行の作家
「長い廊下がある家」 有栖川有栖著 光文社 

 多分、初・有栖川有栖。表題作を含む4つのミステリー短編集。それぞれの作品のタイトルはなかなかカッコイイ。「雪と金婚式」「天空の眼」「ロジカルデスゲーム」―それぞれに、グッと引きつけられるのだが、読んでみると、それほどクールな印象ではなく、どちらかというと、ちょっと野暮ったいような…。

 テレビドラマなどで、原作者や脚本家がその作品の中にヘタな台詞回しでチョイ役で出演していたりするのは、あまり好きになれない。山村美紗のサスペンスに、山村紅葉が出ているのもイヤだなと思ってしまう。なんとなく「内輪受け」の匂いを感じてしまうからです。

 「ちょっと野暮ったい」と感じてしまうのは、まさに、その部分でした。ストーリーには、必ず、作者と同姓同名の有栖川有栖さんというミステリー作家が登場して、事件の背景を推理したり、警察にアドバイスをしたりする。テレビドラマにお門違いの原作者が出演するのと違って、ストーリーの中の有栖川有栖氏はセリフを棒読みしたり、ぎこちない動きをするわけではないのだが…でも、何か、鬱陶しいなという印象。

私が有栖川有栖ビギナー故にそう感じてしまうだけで、有栖川有栖ファンにとっては楽しい演出なのかもしれませんが…。