「ゴチソウ山」 山田健 角川春樹事務所 (10/05/03読了)
正直なところ、文芸作品としては全く洗練されていないし、「もうちょっと、メリハリつけて、ここをクライマックスシーンにしなきゃ」とツッコミを入れたくなったりするのですが…。そういう減点部分を相殺してなお、「おもしろかった~」と思える作品でした。
温泉街の高台にある旅館の近くで、大規模な崖崩れが起こるところから物語が始まります。直接の原因は、開発会社が土地の造成を始めたことなのですが… 単純に造成が悪いのではなく、「時期が悪かった」そうなのです。
開発エリアは孟宗竹が茂る竹林。竹林の下には、網の目のように地下茎が張り巡らされていて、通常はそれが地表近くの土を固める役目を果たしているそうです。ところが、筍の季節は、全栄養分を筍に集中させようとするため、地下茎はすかすかになってしまう。土地がもろくなったところに大雨の被害で地盤が緩み、付近の道路まで引きずりこむように地崩れを起こしてしまった。もしも、地下茎がたっぷりと栄養を蓄えている冬場だったら、ここまでの大惨事にならなかったかもしれない…。
へぇ~。ここまで聞いただけでも、竹に詳しくなったような気分で、少々のお得感あり。
そして、被害にあった住民が開発会社からなんとか補償金を勝ち取ろうと被害者同盟を結成するのですが、その中で、竹林が果たしてきた役割、竹林と雑木林の関係を学び、さらに、森と川、森と海の関わりを知ることで、我が土地を愛し、再生していくことに目覚めていくのですが…
単に「ええ話や…」という感動物語というわけでもないのです。「人を動かすのはカネだけではないけれど、でも、カネも重要である」という、冷静な現状認識がある。もちろん、ボランティアを活用する方法もあるけれど、ボランティアだけで里山再生などという大規模な事業ができるはずもない。どうやって行政や企業を巻き込んでカネを出させるのか。もちろん、税金を預かる行政、株主に利益還元しなければならない企業も美談だけではカネを出せない。カネの出し手を納得させるロジックをどうやって作っていくのか-。というところまで含めて、エンタメ小説に仕立ててしまったところが、なかなか巧妙。
私的にいちばん楽しかったのは、竹の器を活用した料理を紹介している場面。竹を飯ごう代わりにした炊き込みご飯や、竹豆腐… 是非に、食べてみたいものです。
もちろん、この物語のように歯車が上手く噛みあうことなど現実の世界ではなかなか難しいことだとは思います。それでも、ほんのささやかな希望を与えてくれるような、元気の出る一冊でした。