おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

文楽ワークショップ@池上実相寺

2008年12月04日 | 文楽のこと。
文楽ワークショップ@池上実相寺 (08/12/02)

 池上実相寺で行われた文楽ワークショップに行ってきました。めちゃめちゃ楽しかったです。毎年、この時期の恒例となっているようですが、私は、初めての参加。私自身は、ひたすら勘十郎さまお目当てではありましたが、でも、燕三さんや英大夫さんのお話も楽しくって、満たされました。そして、これからは、「簑二郎さんにも注目!」と、強く強く思ったのでした。実は、仕事的にはかなりキツい日ではあったのですが、何日も前から職場で「半休取得宣言」を叫び続け、顰蹙を買いながら夕方5時に脱出。でも、顰蹙を買ってなお余りある充実した内容でした。

 まずは、英大夫さんの「みんなで義太夫を語ってみよう」企画。もちろん、素人が語れるわけはないのですが、でも、ピシっと背筋を伸ばして大きな声を出すというのは、なんと、気持ちの良いことか。その後、燕三さんのツウな三味線の聴き所解説があり、英さんと燕三さんの素浄瑠璃で12月鑑賞教室でやる寺子屋の一部を一足先にお聞かせ下さいました。

 そして、いよいよ、勘十郎さま登場。やっぱり、カッコイイです。そしてお話上手。ちゃんと笑いを取りながら、12月公演でお遣いになるカシラの解説をしてくださり、さらに、その後の実演が秀逸でした。なんと勘十郎さまと簑二郎さんのお二人で「足」だけで「菅原伝授手習鑑」の「車引」の場面を再現。足だけなのに、とっても、力強くて、臨場感タップリ。その上、勘十郎さまの頭巾姿を拝見するという超レアな機会に遭遇できたのもラッキーでした。また、ツメ人形の実演もあり。この時は、子どものツメ人形を遣われた簑二郎さんのリズム感に感銘を受けました。実は、5月の相生座の公演で三番叟を使われた簑二郎さんがあまりに素晴らしく、友人との間で、簑二郎さんのことを、こっそり「相生座のイケていた方の三番叟」とお呼びしていたのですが、ほんと、イケてます。軽快で、おかしみのある動きと、ちゃめっけはピカ一です。勘十郎さまのお弟子さんが、勘十郎さま自作のお面を被って登場したり、色々、お楽しみいっぱいで、本当に、夢のようなひと時でした。

 ワークショップ終了後は懇親会。技芸員の皆さんが各テーブル10分ずつのローテーションで回って下さるという趣向でした。
というわけで、たった10分(短いよぉ~!)ですが、勘十郎さまも私たちのテーブルに回ってきて下さりました。もちろん、こんな機会はめったにないので、勇気を出して話しかけてしまいました!!! 勘十郎さま曰く「皆さん、字幕のこと、どう思われてます?ボク、反対派なんですよねぇ。だって、難しいっていっても、おんなじ、日本語なんだし…」とのこと。そこで「舞台に立たれている時も、観客の目線が上になっているのってわかりますか?」とお伺いしたら「わかりますよぉ」とおっしゃっていました。というわけで、次回からは、心して予習しようと心に誓ったのでした。
他の技芸員の皆さんも楽しいお話をしてくださりました。印象的だったのは簑二郎さんがシャイで可愛らしい人だということ。英さんのお弟子さんの希大夫さんに「見台」のことをおうかがいしたら、とっても高価なものなので、一から作らず、古いものを塗りなおして使う人が多いとのこと。「ぶら下っている房だけでも3万円ぐらいするんです!」とのことでした。
勘十郎さまのお弟子さん。まだ、入門して4年ほどだそうです。「きっかけは?」とおうかがいしたら「学校の授業で鑑賞教室に来て、それで、こんなスゴイものがあるのかと心打たれて、入門しようと思った」んだそうです。12月の鑑賞教室のチケット争いが激烈であることに不平不満を言っていましたが、そうか、こういう有為な若者が入門するきっかけになるのであれば、オバチャンは少々は我慢せねばならんなぁと思ったのでした。そして「簑二郎さんの使われている足を見てグツとくる」とおっしゃっているのが、なんとも、フレッシュで応援したくなっちゃいました。20年後、主遣いになって彼を舞台で拝見する日を楽しみにしたいと思います。
 それから、懇親会で出されたおでんと炊き込みご飯、美味でした。実相寺さんの台所で、大なべで手作りして下さったんですね。心温まるお味でした。お寺って、今まで、親戚の法事ぐらいしか縁のないところでしたが、実相寺はとっても、素敵なところでした!


「江戸の下半身事情」 永井義男

2008年12月03日 | な行の作家
「江戸の下半身事情」 永井義男著 祥伝社新書 (08/12/02読了)

 日曜日の新聞書評はそこそこ熱心にチェックしていますが、お気楽本を中心に読んでいる私にとっては、ややハードル高し。紹介されている本は難しげであるものが多く、書評の文章そのものもお堅い。そういう中で、異彩を放っているのは、三浦しをんさんです。この人が紹介している本は、いつも、一味違う、というか、ちょっとヘンな本ばかり。この「江戸の下半身事情」も、1-2カ月前ぐらいにどこか(読売新聞か朝日新聞だったような…)で三浦さんが書評を書かれていて、気になっていました。書評は「文楽や歌舞伎を見るたびに、本当に江戸時代の人々は、すぐに誰かと寝ちまっていたのだろうかと不思議に思っていたが、この本は、そういう疑問に答えてくれるもの」という趣旨(あくまでも趣旨です。手元にコピーを残していないので、正確な表現は忘れました)であったと思います。

 なるほど、大変、興味深く、面白い本でした。といっても、別の意味の面白さを期待すると拍子抜けかもしれません。結構、マジメな本です。多くの古い文献に当たり、古典の中の描写を抽出することで、江戸の人々の生活シーンをつむぎ出していく感じ。興味深かったのは、梅毒が世界中に広がった経緯。そして、私ですら、なんとなく名前は聞いたことがある著名な蘭学者・杉田玄白が年に700-800人もの性病患者を診察していたということ。まるで、性病専門医のようです。そして、あの、ドラマでも有名な大岡越前が、いちいち事情を聞いて裁いていくのが大変だから(そんなに多かった?)ということで、「姦通罪の示談金は7両2分」と決めてしまったこと。確かに、示談はしやすくなったが、逆に「7両2分さえ払えば、何やってもいいじゃん」というような風潮を作ってしまったそうです。そして文楽の「恋娘昔八丈」は、大岡越前が裁いた不倫殺人未遂事件がベースになっているというのも、新鮮な発見でした。その他、現代のラブホテルにあたる料理茶屋事情や、品川遊郭の常連さんなど面白いお話満載でした。
 文楽・歌舞伎ファンや時代小説ファンのバックグラウンド知識本としておススメかも。もちろん、雑学知識アップにも役立ちます。 

「写楽・考」 北森鴻

2008年12月01日 | か行の作家
「写楽・考」 北森鴻著 新潮文庫 (08/12/01読了)

 昨日、奥田英朗の最新刊「オリンピックの身代金」を有隣堂戸塚モディ店で購入!それが読みたい一心で、頑張って、読了。「写楽・考」そのものは、イマイチ、私のシュミに合わず、2週間以上カバンに入れて持ち歩き、電車の中で「1ページ読んでは爆睡」の繰り返しでした。

 超・美人民俗学者の蓮丈那智という人が主人公なのですが…私は、蓮丈那智が冬狐堂シリーズ(「狐罠」講談社文庫など)に登場した時から、あまり好きになれませんでした。書き手は「わが道を行く孤高の人」というイメージで書いているのかもしれませんが、私には「唯我独尊すぎてはた迷惑な人」としか思えません。那智に惚れている内藤という助手がウジウジしているのにもイラついてしまう。
 でも、一番の理由は、このシリーズを読むと、民俗学が超エキセントリックな学問であるかのように描かれていることが引っ掛かってしまうのです。声を大にして「勉強しました」と言えるほどマジメな学生ではありませんでしたが、民俗学を専攻した身からすれば、「民俗学=オカルティズム」と誤解されるのは、とっても不本意。もちろん、民俗学の研究対象には土着宗教とか迷信・言い伝え、儀式とその背景にある超常的現象なども含まれますが、でも、オカルトではありません! しかも表題作になっている「写楽・考」では、「一旦は民俗学を捨てた元・学者が再び学問の世界に戻るために偽名で論文を書く」というハチャメチャな設定。「偽名で論文なんて書いたら、ますます、戻れなくなるだろう!」と突っ込みを入れたくなってしまいました。さらに、民俗学のようなメシの種にならない学問はスポンサーがつくわけでもなし、超ビンボー学問なのですが、なぜか、気ままに思いつくまま、あちこちフィールドワークしまくっていて、現実とは程遠いいなぁ。

 というわけで、私がたまたま民俗学専攻だったので突っ込みを入れたくなるだけで、余分なバイアスが掛かっていなければ、意外と面白いのかも。でも、主人公の魅力度から言えば、「冬狐堂」シリーズの陶子さんの方が、断然、好感持てます。