「ジャンプ」 佐藤正午著 光文社
「コンビニでリンゴを買って5分で帰ってくるね」と言ってマンション前で別れた彼女は、その晩、マンションに戻ってこなかった。そして、そのまま失踪した。いったい彼女はなぜ、どこに消えたのか―その軌跡をたどる物語。
佐藤正午を読むのはこれで2作目。最初に読んだ「身の上話」(光文社)も詳しいストーリーは忘れてしまいましたが、失踪モノだったので、なんか、ちょっと既読感があるというか…新鮮味が感じられなかった。最後まで読んでみると、色々なところに布石が打ってあったことに気付くわけですが、「ね、あなた、読んでいる時にこれに気付かなかったでしょう?」という、著者が絶対優位に立つ仕組みになっているのが、なんともあんまり気分がよくないな。乾くるみの「イニシエーション・ラブ」(文春文庫)を読み終わったあとの不愉快感にちょっと似ている。
その上、彼女が失踪した理由というのがパッとしない。そんなことで、人って失踪するんだろうか? 煩わしさから逃れるために失踪したくなるという気持ちはわからないでもないけれど、実は、失踪するってことの方がその何倍も何倍も面倒くさくいので、余程のことじゃないと失踪って割に合わないと思うけど…。ま、百歩譲って、彼女がやむにやまれぬ気持ちで失踪したとして、その理由がわかった後の男の態度はもっとスキッとしない。
と、一通り、いちゃもんを付けてみましたが、実際に読んでいる間はそれなりに面白く、なかなかのページターナーではありました。ちなみに、wikiによれば佐藤正午氏は失踪モノばかりを書いているわけではないようです。たまたま、私が読んだ2冊が失踪モノだったというだけです。