おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「鎖」  乃南アサ 

2010年06月29日 | な行の作家
「鎖」上・下 乃南アサ著 新潮文庫 

 「凍える牙」から始まった刑事・音道貴子シリーズ。大量殺人犯に音道が拉致・監禁され、それを仲間が救出するという汗握る展開? っていうか、すごい、ステレオタイプな感じですけど……まぁ、2時間ドラマ枠にピッタリな感じですかね。

 はっきり言って、突っこみどころ満載。そもそものところ、犯人グループが、なぜ、音道を拉致したのか、最後まで、私には確たる理由があるようには思えませんでした。しかも、音道!「拉致される前におかしいって気付け!」と叫びたくなるぐらい、ザルのような見落としっぷり。いえいえ、わかっております。拉致・監禁されなきゃ、この物語が成立しないのだから、しょうがないですよね。でも、ちょっと、設定甘いなぁ…という感じは否めません。

 と言いつつ、それなりに楽しめました♪ 上巻の途中からは、集中・一気読み。甘いは甘いなりに、勢いがあってエンターテインメント性はたっぷりです。オチは分かっていても火サス見始めると、最後まで見ちゃうのに似ています。

 今回、キラリと光ったのは、音道が窮地に陥る原因を作った捜査のパートナーである星野の存在。もう、幼稚園児以下の超低能ぶりでした。「ああ、いるいる、こういうバカ男!寺で修行して、ねじ曲がった根性をたたき直してもらえ~!!」と思いながら、音道とともに、星野に呪詛の言葉を送り続けました。それにしても、こういうろくでもないヤツ小説の中だけにしてほしいものですが… 実在しているというのが怖いです。 

「告白」  湊かなえ

2010年06月21日 | ま行の作家
「告白」 湊かなえ箸  双葉文庫 

 「本屋大賞」には、なんとなく反感を持っている。正確に言うと、反感ではなくて、ちょっとしたヒガミ根性かもしれません。だいたい、私が愛する本が選ばれた試しがない。「今年は、これでしょう!」という作品が大賞に選ばれないどころか、トップ10に入ってすらいない。「私には、そんなセンスがないって言いたいの???」

なので、基本は、「大賞受賞作は意地でも読んでやるものか!」という意味のない頑ななスタンスでおります。当然のことながら、2009年の大賞である「告白」も読んでいませんでしたが、映画「告白」の宣伝にヤラれてしまいました。

取り立てて松たか子のファンという訳でもないのに、あの短いCMは、松たか子という人の圧倒的な存在感に、何度見ても、釘付けにされてしまう。無機質な破壊力が溢れていて、どうしてもストーリーが気になってならない。

しかも、2009年の大賞受賞作をわずか1年で文庫化したことは大いに評価できる(もしかして、双葉社だから?)ので、自らに課した「禁」を破って購入した次第。

なるほどねぇ…。こういうのが大賞受賞するのかぁ…。 というのが素朴な感想です。

確かに面白いのです。中学校の理科の教諭・森口の告白から物語はスタートを切る。映画の宣伝にもあるように、「私の娘は、このクラスの生徒に殺されました」。そんな、衝撃的な発言の先が気にならないハズがありません。森口の告白で、誰が犯人かは明らかになるのですが、その後、告白者がどんどんと代わっていく。犯人である少年の告白、クラスメートの告白、少年の親の告白。色々な人の告白を積み上げていくことで、事件の全容、背景が少しずつ明らかになっていく。そして、何の救いもない、乱暴でぶっきらぼうな結末は斬新ではあります。読み切りマンガを一気読みしたような気分。

でも、「書店員が一番売りたい本」というほど、私は、誰かに薦めたいという気持ちにはなりませんでした。

救いの無い事件-というものは、起きるものなのだと思います。中学生が身勝手な理屈と自己顕示欲のために殺人を犯してしまうという事件は過去にもあったし、教師といえども、生身の人間であれば復讐心が抑えられないこともあるかもしれない。そういう意味で、事件自体にはリアリティがないわけではないのです。

でも、事件が起こった後が、あまりにも非現実的なのです。最初の事件が起こった後、警察の捜査って、そんなに杜撰だろうか。学校の中で、目撃者もなしにそこまでのことをやり得るのだろうか。そして、そんな安っぽい復讐の方法って……。2つめ以降の事件が起こるのに、何のストッパーも働いていないことが、あまりに、リアリティがないなぁと感じてしまいました。

 でも、松たか子主演で映画を撮りたくなる気持ちはよくわかります。映像作品としての方が面白いかもしれません。

「湘南の風に吹かれて豚を売る」 宮治勇輔

2010年06月19日 | ま行の作家
「湘南の風に吹かれて豚を売る」 宮治勇輔著  かんき出版 

 先日、「六本木農園」というレストランに行きました。六本木交差点から徒歩1分。六本木の中心で、どうして「農園?」という感じなのですが…。
 
 病み上がりの人と食事をすることになり、「塩気と油少なめで、おいしいもの」という指定を受けて、ネットで「東京 野菜 レストラン」などの検索。たまたま、ヒットした店の一つが「六本木農園」だったのです。

 これが大当たり。実の旨いっ! 最初に出てきた、焼き野菜。なんの手も加えず、ただ焼いただけなのに、思わずニタッ~と笑ってしまうように幸せな味。お店はなかなか洗練された雰囲気なのですが、でも、余所余所しさは微塵もなく、とっても感じが良い接客。そして、次の料理が運ばれてくるまでの間に、ウェイターの方が「今日の食材として使っている野菜の農家さんを取材してレポートにまとめたので、よかったら読んで下さい」とファイルを持ってきてくれました。

 ますます、「この店は、いったい、何???」という疑問が湧いてきたのですが、聞いてみると、働いている方のほとんどが「農家のこせがれ(だけでなく、可愛らしいお嬢様方もたくさんいます)」なんだそうです。そして、そのネットワークを使って、若い生産者の方から食材を仕入れて提供しているレストラン。

 長い前置きになりましたが、「湘南の風に吹かれて豚を売る」の宮治勇輔さんは、その、「農家のこせがれネットワーク」の代表の方。自らは、慶応大学SFC卒業後、会社勤めをするも、4年半で退社し、実家の養豚業に携わっているそうです。ただし、養豚の実務はお父様と弟さんが担っていて、ご本人は「プロデューサー業」に徹しているそうですが、でも、その発想が素晴らしい。

 「かっこよくて、感動があって、稼げる3K」にするというのが、宮治さんの目標。ただ、すごいなと思うのは、家業を変えるだけではない、彼が目指すのは、「ニッポンの農業を変えてみせる」というとてつもない大事業。

 でも、それを肩肘張らず、まさに、風に吹かれるように爽やかに取り組んでいるのです。不覚にも、電車の中で、何度も涙をぬぐってしまいました。日本も、まだ、捨てたもんじゃない-そんなふうに思える一冊。

 それにしても、何事かなす人というのは、ストイックだなぁ。サボリ根性で塗り固められている自らを恥じ入るばかりです。

「ひまわり事件」  荻原浩

2010年06月18日 | あ行の作家
「ひまわり事件」  荻原浩著  文芸春秋社  

 同じ経営者が運営する「老人ホームひまわり苑」と「ひまわり幼稚園」。ある時、苑・園一体運営の名のもと、2つの施設を隔てる高い壁が取り払われる。

 経営者が、融和を図ろうと、演芸会など合同イベントを企画しても、最初は、反目し、警戒しあう老人と子どもたち。なにしろ、お互いに、理解不能のエイリアンなのだ。でも、ある時、ジジバハとクソガキの間に、友情が生まれる。そして、入所者をないがしろにする経営にタッグを組んで反抗していく……。

 そうか… これから、学生運動世代が本格的に老人になっていくのだなぁ-と考えさせられる作品。「学生として成し遂げられなかったことを、老人ホームの入居者としてやっちゃうんですか??」 という感じのストーリーでした。

 さすがにそつなく上手く、気楽にサクサク読めましたが、若干、ドタバタ劇に終始した感はあり。これからの時代、まさに、苑・園一体運営ということは実際に行われるだろうし、団塊の世代が後期高齢者になった時に社会はどうなるのかというのは、実は、なかなか興味深いテーマなので、もうちょっと、じっくりと心情を描いてほしかったなぁ-と思いました。

「初陣 隠蔽捜査3.5」 今野敏 

2010年06月18日 | か行の作家
「初陣 隠蔽捜査3.5」  今野敏著  新潮社  

 さすが「隠蔽捜査」シリーズとあって、手堅く面白い。警察庁同期入省の竜崎と伊丹の2人をめぐる物語。これまでは、東大法学部卒・保守本流系の竜崎を中心に描いていたけれど、今回は趣向を変えて、私大卒であることをちょっと引け目に感じている伊丹を主人公にした短編集。

 サスペンスとしての面白味というよりも、現場主義で親分肌と思っていた伊丹の、意外と神経質で小心な心の内を覗くようなストーリーで、なかなか楽しめました。一編一編はほんの30分ぐらいで読める分量なので、「ちょっと気分転換!」にピッタリ。

 しかし、「シリーズ3.5」というのが、シリーズとしてかなり微妙さを物語っているような気がします。やっばり、人気シリーズは、みんなが「面白すぎる! 絶対に続きを出してほしい」と思っているうちに、続きを出さずに終わるのが美しい引き際なのだと思いました。

「ただマイヨ・ジョーヌのためでなく」 ランス・アームストロング

2010年06月13日 | あ行の作家
「ただマイヨ・ジョーヌのためでなく」 ランス・アームストロング 講談社文庫

 ツール・ド・フランスでアメリカのチームを初めて優勝に導き、ツール7連勝の偉業を成し遂げたロード・レーサの自伝。マイヨ・ジョーヌとは、勝者が着る「黄色いジャージ」のこと。それは、ロード・レーサーにとっては、それを着ることが最高の栄誉。

 それだけでも大変なことなのに、ランスは睾丸ガンを患い、肺と脳への転移という絶対絶命の状況を克服して、その偉業を成し遂げた。

 自転車ロード・レースを描いた近藤史恵の「サクリファイス」「エデン」(ともに新潮社)を読んだ時に、「自転車レースって、ドラマだ!」と思いましたが、でも、ランスの人生は、小説以上のドラマです。

 自伝の中で、ガンから復活したランスがツールを制したことに対して、「何か特殊な薬物を使っているのではないか」「抗がん剤が実は、体力増強に繋がった」などとドーピング疑惑をもたれたことが書かれていました。もちろん、本人は否定していますが…。

 それで、たまたま、ドイツ在住の知人と、「ランス・アームストロングの自伝を読んでいる」とメールでやり取りをしていたら、ランスは、今も現役選手を続けていて、再び、ドーピング疑惑が取りざたされているそうです。日本では、ロードレースはメジャースポーツではないので、ほとんどニュースにはなりませんが、欧州では結構な話題のようです。

 それだけの情報で何が真実であるかなど判断できませんが、でも、サバイバーとしてのランスの人生は十分に読む価値があると思います。

「千年樹」  荻原浩

2010年06月13日 | あ行の作家
「千年樹」  荻原浩 集英社文庫(10/06/11読了)

 「千年樹」という語感から、壮大で、豊かな物語を想像していました。

確かに、樹齢1000年のくすの巨木の下で繰り広げられてきた出来事をひも解いていくという意味では、壮大な物語なのです。ただ、かなり、ダウナー系です。

 それが現実なのだとは思いますが、人間の利己的で邪悪で弱い面を次々と暴きだしていくような感じで、ベッドの中で読んで心地よく眠りにつく-とはいきません。ちょっと落ち込む。しかも、「千年」と言いつつも、高度経済成長期にくすの木の近くにあった幼稚園の卒園生のその後を追った部分が多く1000年の後ろ30年ぐらいに妙に偏っているかなぁ。

 ストーリーの作りとしては、すごい技巧があって、「上手いなぁ…」と思いました。でも、荻原浩には、この技巧をして、もっと元気の出る物語を書いてほしかったなぁ…。

最強の「菅原伝授手習鑑」寺入り&寺子屋 @相生座

2010年06月11日 | 文楽のこと。
菅原伝授手習鑑 @ 相生座

 相生座は山奥にあります。チケットは本公演よりもずっと割高です。それでも、やっぱり、来て良かった――と心から思いました。

 「寺入り」「寺子屋」は、これまでも何度か見たことはありました。これが「名作」と呼ばれていることは、もちろん、情報として知っていましたが、では、今まで、心から感動していたか-というと、そうでもなかったのです。むしろ、「名作なんだし、感動しない私って、不感症?」と、ややプレッシャーに感じているところがありました。

 今回、相生座の舞台で見て、寺子屋が「名作」であることを、心の底から納得しました。

 「寺入り」は、若手の皆さんが弾けていて楽しかったです。子どもたちが悪ふざけ、イタズラする様子、いかにも「悪ガキ~!」という風情が出ていて何度も笑ってしまいました。しかも、悪ふざけっぶりは、過去に拝見したどの「寺子屋」よりもエスカレートしてました♪

実は、幕が開く前に、向こう側で「大丈夫か」「しっかりやれ」など小さな声が聞こえてきて、大先輩たちはちょっとハラハラしていたのかもしれませんが、でも、若手の皆さん、本当に伸び伸びと演じているのが伝わってきました。

 そして、「寺子屋」。前は呂勢さん&宗助さん、切が嶋師匠&燕三さん。呂勢さん、めちゃめちゃ乗ってました。もう、私は、呂勢さんのところから、ジワッ~と涙が溢れてきてしまいました。

 源蔵は、いつもは悪役商会の玉也さん。もちろん、玉也さんの悪役は本当にスカッと楽しいですが、でも、悪役以外の役もめちゃめちゃステキなんです。ご本人は常にポーカーフェースなのに、人形に感情が乗っているのは、実は、一番、玉男師匠譲りなんじゃないかと思います。私は、映像の中でしか玉男さんを拝見したことがないのですが、でも、クールな表情・熱い魂は、相通ずるものを感じます。

 清十郎さんの戸波もよかったです。5月公演で遣われていた久松は、かなりイマイチな印象でしたが…清十郎さんは、やっぱり、女形の方がしっくりきます。

 でも、なんと言っても、簑助師匠の千代、勘十郎さまの松王は、鳥肌が立つほど凄かった。今、思い出して書いているだけでも、心がざわざわして涙が浮かんでくる。

 文楽の作品は何百年にも渡って繰り返し演じられている上に、プログラムにも粗筋が書いてあって、みんなが、この演目が悲しい物語だということを知っている。でも、千代が登場した瞬間に、情報として「悲しいことがこれから起こることを知っている」のではなくて、千代が舞台に運んでくる空気が、これから起こる不幸を予感させてくれるのです。

 だから、千代が追いすがろうとする小太郎を叱りつける場面も、そうしながら、後ろ髪ひかれて去っていくのも、胸が締め付けられるほど切ない。

 そして、松王。今まで、毅然とした悲しみを表に出さない人だと思っていました。勘十郎さまの松王は、どんなに抑えようとしても、悲しみが溢れてきてしまう。もちろん、取り乱したりはしない。毅然と振舞おうとしても、心が乱れるのはどうにもできないことが伝わってくる。

松王がうつむいている時も、カッと目を見開き、絶対に涙をこぼすまいと必死になっている。多分、松王の目の動きが見ることができるのは、最前列特権かもしれません。でも、勘十郎さまは観客に見せるためにそうしているのではなくて、松王として悲しみに耐えているのだと思いました。そして、勘十郎さまと響きあうように、嶋師匠&燕三さんの床も最高潮に。終わった瞬間、一瞬、拍手するのも忘れるほどに、悲しみの波が押し寄せてきました。

「名作」が「名作」たるは、最高の舞台と最高の床が響き合い、高めあい、観客とシンクロしてこそなのだというこがわかりました。

素晴らしい舞台を有り難うございました。でも、今回、この「寺子屋」を見てしまったことは、ある意味、不幸かもしれません。これ以上の組み合わせって、そう簡単には実現しないような気がしてしまいます。とりあえず、目先、夏休み公演の大阪遠征の気力が大幅に低下中です。


「吉岡清三郎貸腕帳」 犬飼六岐

2010年06月10日 | あ行の作家
「吉岡清三郎貸腕帳」 犬飼六岐 講談社 (10/06/08読了)

 めちゃめちゃ面白~い! 実は、10/05/01読了の「桜下の決闘」は、この「吉岡清三郎貸腕帳」の続編だったのですね。つまり、2巻を先に読んでしまったわけで…あの時、なんとなく、しっくりしなかったものがスキッと納得できました。

 とにかく、この吉岡清三郎のカワイゲの無さが、味わい深い。「クール」というよりも「小憎らしい」。微塵も素直さがない。でも、どこか、ちょっとイカした奴なのですよ。

 宮本武蔵が死ぬほど嫌い。だから2という数字が死ぬほど嫌い。腕には覚えあり。人に雇われるたくはないので、腕を貸して利息を取るのが商売。そして、商人としての哲学がなかなか徹底していてカッコイイ。

 殺伐としているのに、最後、ニヤっと笑いたくなるような、そんな作品です。

 映画化するなら、反町隆史です(10年前なら誰がなんと言っても佐藤浩市と言いたいところですが、さすがに、オッサンすぎるような気がする)。


団子売  @ 相生座

2010年06月07日 | 文楽のこと。
団子売 @ 相生座

 5月本公演と同じ演目。しかも、杵造は5月と同じ幸助さん。始まる前は「既視感ありすぎて、テンション上がらないかも…」と心配していましたが、いえいえ、十分に楽しめました。

 簑二郎さんのお臼が弾けていて、とっても、可愛かったです。簑二郎さんは、5月公演の「碁太平記白石噺」での「どじょう」役も好演されていましたが、なんともいえない茶目っけがあって、観ている人の肩の力を抜いて下さるのです。本公演の一輔さんのお臼は、ちょっとお上品で色っぽい系、簑二郎さんはおきゃん系と、それぞれに、味わいがありました。

 そして、床がまたよし。杵造は芳穂さん&燕三さん。芳穂さんの声って、絶対、こういう楽しい演目に向いているんです。そして、本当に楽しそうに語っている芳穂さんのお顔がまた、ステキなのです。満足、満足。