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愛知13区(安城市・刈谷市・碧南市、知立市、高浜市)
衆議院議員 おおにし健介

【書評】招かれざる大臣

2011年03月02日 | 書評
「招かれざる大臣 政と官の新ルール」 
 長妻昭 著 朝日新書

 長妻大臣に新著「招かれざる大臣」をいただいたので、読みました。厚生労働大臣として官僚機構との「闘い」の記録だが、後半の第5章「政治家を志した理由」には影響を受けた書物なども書かれていて興味深い。

 私は、馬淵澄夫代議士の政策秘書として、長妻代議士とは一緒に仕事をさせていただいたこともあり、その人柄や仕事ぶりを少なからず知っているので、長妻大臣の厚生労働省での孤軍奮闘振りが目に浮かぶようだった。
 しかし、そんな私でも、長妻大臣と厚生労働省の役人の間に流れる何とも言えない冷たい空気を横目で見ながら「長妻さんももっとうまくやればいのに」と思っていたが、この本を読んでそんな風に見ていたことを反省した。

 長妻大臣のメッセージは極めてシンプルだ。それは「役所文化を変える」ということだ。
 私も参議院事務局や外務省に勤務した経験があるので分かる。たとえば、役所には朝礼がない。言われてみると不思議だ。私の事務所でさえ、毎朝、朝礼をするようにしている。長妻大臣は、まず、政務三役と局長以上の幹部を集めた朝礼を毎週月曜日の朝に定例化した。

 長妻大臣は、大臣室にスローガンや数値目標を書いた紙をベタベタと張ったそうだ。厚労省の役人はさぞ驚いただろう。想像して吹き出しそうになった。しかし、私の父は生保のサラリーマンだが、休日に時々父の職場についていくと、壁には営業成績をグラフにした紙やスローガンが張り出してあった。私の地元は製造業が多い地域だが、どこも現場にはスローガンが張り出してある。

 たしかに、役所は何を目標にして仕事をしているのかがはっきりしない。それは、これまで大臣をはじめとする政務の人間がビジョンを示してこなかったことにも責任がある。
 長妻大臣は、自著にかつて自分が書いた「政権交代後の20××年」というのを毎日チェックして、その理想の姿に至る手段、設計図を考えたという。まさに、ビジョンに向かって進む経営の基本の姿だ。
 また、職員にマニフェストを持ち歩け、熟読するよう指示した。マニフェストは政府と有権者の契約書であり、政権運営の基本となるものだからだ。(マニフェストの実行については、現在、国民の批判に晒されている部分でもある。)

 「目標を掲げても、目標達成への本気度が極めて低い」、「政策設計はするけれども、その後のフォローがない」という長妻さんの指摘は、まったくそのとおりである。

 ただ、リーダーシップのあり方については、やはり、少し疑問が残る。
 同じく、先日まで国土交通大臣をしていた馬淵代議士は、私の元上司であるが、民間でも経営者として辣腕を振るってきた。馬淵代議士はあるインタビューで次のように述べている。

 「企業に例えると、新任の社長が陥りやすい失敗は、自分のカラーを出そうと最初に高いハードルを設定したり、今の事業から一気に飛んで、新しい方向性を打ち出すことです。なぜ、それが失敗するかといえば、まだマネジメントの基礎ができていないうちに号令をかけても、部下はどうすればいいのかが分からず、組織全体がマヒ状態になるからです。つまり“笛吹けども踊らず”でしてね、それで墓穴を掘ってしまう」

 「官僚を巧く使う」ということがよく言われるが、「官僚にとりこまれる」というのと紙一重の部分があるのも事実だと思う。しかし、トップが何かしようと思ったときに組織がついてきてくれなければ何も進まない。その意味では、組織を構成するスタッフと良好な関係を築き、組織を掌握するということも必要ではないだろうか。