のすたる爺や

文明の果てなる地からのメッセージ

黒衣の女王

2007年04月13日 | 日記・エッセイ・コラム

Demarczyk  1993年4月初旬だったと記憶していますが、ポーランドのEwa Demarczykという歌手が来日して、そのコンサートに行ったことがあります。

 1960年代初頭からか主として活躍し、独裁体制のポーランド政権下を生き延びてきた歌手で、私はまったく認識がありませんでしたが、友人が「すごい歌手が来日した」とチケットを送ってくれました。

 ♪ここをクリック♪ (映像です)

 渋谷のシアターコクーンでのコンサートで、大物が来日したにしてはマイナーな会場だなと思いもしましたが、その演出に度肝を抜かれました。

 真っ暗な会場に真っ黒な衣装を着たEwa Demarczyk。スポットライトが当たって見えるのは彼女の白い顔と、掌だけ。

 気がつくまもなくその世界に吸い込まれてしまいました。彼女の歌唱もさることながら、なんて素晴らしい演出なんだとコンサートが終わってから、すっかり演出に飲まれてしまったことに、あらためて気が付きました。

 ポーランドが演出の芸術性において世界のトップレベルであることを思い知らされたと同時に、同じことを日本人がやったら「嫌味」に思えるかもしれないとその難しいラインギリギリの扱いに感服しました。

 「黒衣の女王」とよばれる歌手と知ったのは後のことですが、世界各地の素晴らしい詩に独自の解釈や曲をつけて歌う歌手でもあるようです。

Podet

 スペインの詩人Jaime Torres Bodetの詩”Canción de las Voces Serenas”「静かな歌」にザリツキというポーランドの作曲家がメロディーをつけたものが私のお気に入り。

 日本ではシャンソン歌手の渡辺歌子さんなどが日本語の歌詞で歌っていますが、Ewa Demarczykはスペイン語の原詩のまま歌っています。

 なんて美しい響きを持つ言葉なんだ!しかも聞き覚えのある言葉。と思ったらスペイン語でした。

 Ewa Demarczykの歌う「静かな歌」はこの時代、新星堂のCMにも使われていたことがあります。バレエのレッスンをする少女の映像にこのメロディーが流されていて、なんて完備で美しい映像なんだ!と30秒弱の世界に惹きこまれてしまいました。

 明るく陽気な国民性に思えるスペイン語圏の人々。その生き方と反するように詩の世界は重厚で「人生」と「生きる」ことを常に背負っています。

 その重圧な詩に、重厚な時代を生き抜いてきたポーランド人の歌が重なり、なぜか懐かしく「慈しみ」が爽やかに湧き上がってくるような創唱です。

 ♪ここをクリック♪ (mp3です)

Canción de las Voces Serenas

Se nos ha ido la tarde
en cantar una canción,
en perseguir una nube
y en deshojar una flor.

Se nos ha ido la noche
en decir una oración,
en hablar con una estrella
y en morir con una flor.

Y se nos irá la aurora
en volver a esa canción,
en perseguir otra nube
y en deshojar otra flor.

Y se nos irá la vida
sin sentir otro rumor
que el del agua de las horas
que se lleva el corazón...

私達の夕暮れは過ぎ去ってしまった

歌を歌っているうちに

雲を目で追っているうちに

花びらをちぎっているうちに

私達の夜は過ぎ去ってしまった

祈りの言葉を唱えているうちに

星と語らっているうちに

花と死に行くうちに

そして私達の夜明けが過ぎていくだろう

あの歌を繰り返しながら

またひとつ 雲を目で追いながら

また一輪 花びらをむしりながら

そして私達の人生は過ぎていくだろう

愛が奪い去る

時のせせらぎの

微かな音 それだけを聴きながら

コメント
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