菅首相が、TPP参画を視野に入れた貿易自由化の促進と農業の再生を目指すと表明し、経済界は諸手上げて賛同し、農業団体は農業が崩壊すると反対し、国論を二分にしており、性急なTPP開国論は危険性がありますね。
それこそ、熟議・熟慮が不可欠のテーマであり、日本の将来の「国家の計」に関わる問題です。
1月28日、農協関係団体主催の新春特別講演会での経済評論家の内橋克人氏の講演内容「異様な「TPP開国論」歴史の連続性を見抜け 四つの異様」は、TPP開国問題を歴史的、全世界的な観点で論じており、啓発されました。
内橋克人氏は、冒頭、「開国」は「政治言葉」とし、
”「「開国」という「政治ことば」に秘められた大きな企みが人々を間違った方向へ導いていく。
「規制緩和」「構造改革」がそうでした。これに反対するものは「守旧派」と呼び、少数派として排除しましたが、今回も同じ構図です。
「改革」とか「開国」とか、一見、ポジティブな響きの、前向きの言葉の裏に潜む「政治ことば」の罠、その暗闇に目を注ぎながら言葉の真意を見抜いていかなければなりません。「国を開く」などといいますが、その行き着くところ、実質はまさに「国を明け渡す」に等しい。」”
と、「政治言葉」に惑わされるなと注意を喚起しています。
内橋克人氏は、昨年10月、米国際戦略問題研究所(CSIS)と日本経済新聞社共催のシンポジウムで前原誠司外相は「(日本の第1次産業の割合は)1.5%。そのために(これを守るために)残り98.5%が犠牲になっている」と発言を取り上げ、第一に菅首相の開国論の異様、第二に前原発言の異様、そして第三に新聞・メディアの異様に、こうしたあり方になびく日本社会全体の異様、これを含みますと「四つの異様」となると。
内橋克人氏が強調している点は、1990年半ば、米国のクリントン政権が画策し、世界のNGOの反対で撤回された「多国間投資協定」(MAI)が変容し再生したのが「TPP」と指摘しています。
「多国間投資協定」(MAI)は、“21世紀における世界経済の憲法”と称して、多国間で資本、マネーに関する協定を結ぼうというもので、マネーにとって障壁なき「バリアフリー社会」を世界につくるというもので、協定批准国が外資に内国民待遇を与えることを義務付けする協定で、外国資本への“逆差別”の奨励であり、徹底した外資優遇策です。その背景にウォール街の意思、マネーの企みがあったと論じています。
そして、こうした長期の国際戦略を研究し、政策提言するのが米国際戦略問題研究所(CSIS)らのシンクタンクであり、たとえ大統領が何代変わろうとも、生き続けており、
”「今、形を変えてMAIの戦略性が息を吹き返した、それがTPPに盛り込まれた高度の戦略性です。ここを見抜かなければなりません。関税ゼロはその一つに過ぎない。」”
と論評しています。
アメリカの長期の国際戦略は、アメリカ覇権による「グローバル・スタンダード」を世界に普遍化していくことで、TPPの真意の一つは中国経済への対抗力、包囲力というものを日本を巻き込んで日米共同で形成していく、これが米国の狙いの一つとし、
”「経済的ルールの違う中国経済圏への対抗力(一面協調・他面敵対)をどう保つか、アメリカにとっては最重要のグローバル・ポリシーです。TPPに込められた戦略性、その網のなかに日本はからめとられていくでしょう。」”
と論じています。
また、TPPに関しては、ブログ「ぼやきくっくり」様のエントリー『「アンカー」東谷暁氏が解説“報道されないTPPの真実”(1)』、『「アンカー」東谷暁氏が解説“報道されないTPPの真実”(2)』は、触発される内容ですね。
当方は、TPPについては、本ブログ「TPP開国に関して、中野剛志助教授の主張、池田香代子女史の意見に賛同」で、
”「TPPの参画については、中野剛志氏(経済産業省産業構造課課長補佐等を経て京都大学大学院助教)の持論『TPPはトロイの木馬──関税自主権を失った日本は内側から滅びる』と、池田香代子女史のブログ『あと1度の不作で世界はカオスに~レスター・ブラウンの予測とTPP』に賛同しますね。
菅首相が、TPP参画を視野に入れた貿易自由化の促進と農業の再生を目指すと表明し、経済界は諸手上げで賛同し、農業団体は農業が崩壊すると反対しており、当方は、本ブログ「日本は、独自の社会を形成すべきですね。」で、
”「農業改革も、貿易自由化も、同時に取り組む問題であり、競争力のある農業も、自然保全・地産地消・自産自消の農業も大事であり、海外生産による競争力ある産業も、匠技の中小企業群も不可欠であり、要は、グローバルとローカルのバランスでしょうね。
言えることは、人材育成が最大の課題と思いますね。」”
と、性急なTPP開国論には違和感をもっています。」”
と書きましたが、菅首相のいうTPP参画しないと、東アジア経済圏への商売に「バスに乗り遅れる」論は、性急であり、近視眼的見解と思いますね。
内橋克人氏のTPP論は大局観があり、当方は同感しますね。
内橋克人氏の講演で、東京大学名誉教授・宇沢弘文先生の論文「【特別寄稿(上)】菅政権のめざすことと、その背景」を紹介しております。
宇沢弘文先生の「社会的共通資本を守るのが政府の役割」の意見は、共感できます。
当方は、経済について、本ブログ「中谷 巌氏の新自由主義にもとづく構造改革の懺悔のついて」で、
”「経済に疎い当方は、中谷 巌氏の反省の記を読み、初めて経済学は人間の営みを考慮していない学問であったかを認識した次第です。
日経ビジネスでの対談記事「なぜ私は変節したか?人間を幸せにする資本主義の模索を」で、中谷氏は、新自由主義の思想と、そのマーケット第一主義の結果として現出したグローバル資本主義(米国型金融資本主義)を批判した『資本主義はなぜ自壊したのか』を著し、変節した背景を語っています。」”
と、中谷 巌氏は、市場原理を導入すれば、おのずと最適なシステムになうという考え方が根底にあったが、多くは間違いであったと発言に、親近感を感じました。
この中谷 巌氏の懺悔の言葉は、宇沢弘文先生の論文に共通しますね。
世の中、経済性万能、経済第一では、殺伐した社会になりますから。
余談になりますが、当方には、正直、宇沢弘文先生は未知なる人物でしたが、経歴では、日本政策投資銀行・設備投資研究所顧問を従事とあり、その設備投資研究所の初代所長は、下村治博士ですね。
下村治博士について、本ブログ「エコノミスト下村 治氏について」で、取り上げました。
下村治氏は、1987年に上梓した本書『日本は悪くない―悪いのはアメリカだ-』が「世界同時不況を覚悟するしか解決の道はない」と20年前に、現在の世界同時不況(リーマン・ショック)を予見しておりました。
有識者の話を整理すれば、TPPはアメリカの国益の為の政策であり、日本は、安易に追随することは不正解ということですね。
TPPは、菅首相の単なる思いつきでしかないのです。