田園城郭都市構想 12

2017年02月01日 | 湖と城郭都市

  

1.ハワードの田園都市構想
2.田園都市論の現代的意義
日本型田園都市構想
4.和歌山市都市計画と学園城郭都市
5.近代ニュータウンの系譜
       -理想都市像の変遷-

 

5-3 ヨーロッパのニュータウン再生
             ENTP
報告書から 

5-3-2 ニュータウンの当面する主要課題

① 第8位:経済的ライフサイクルの断絶

今日のニュータウンでは、経済成長の多くがコミュニテ
ィ内部のスモールビジネスによってもたらされている。
彼らは自宅やガレージから仕事を始める。しかし彼らが
成長すると、古い建物のような利用可能な場所をニュー
タウン内では見つけることができず、町を離れていかざ
るを得ない。同様に①ニュータウンにはクリエイティブ
なクラス、②サブカルチャーが使用できるスペースがな
い。

創造性は現代の経済にとって重要であるだけに、問題が
大きい。ニュータウンの経済成長のために、ガレージと
オフィスビルの間のギャップを埋めること、サブカルチ
ャーの存在するスペースを創りだすことが求められてい

② 第7位:公共施設整備の立ち遅れ

成熟した古い町は、文化、ケア、福祉、健康、教育等の
広範囲な公共施設を整備するために、数十年間、さらに
は1世紀を要している。多様で幅広い公共施設が十分に
整えられるには時間を要するものだ。しかし、しっかり
と計画され尽くした都市は、住民のニーズの変化に対応
する機会及びスペースをほとんど有していない。また新
たな投資のシステムも欠如している。公共施設整備のた
めの空間と資金の確保が求められている

③ 第6位:ニュータウンの「思春期」

多くの国でニュータウンはその建設時に国の投資プログ
ムなど、特別のステータスを与えられてきたが、それ
が終了し
て以後、ニュータウンはその「思春期」にある
ように見える。
ニュータウンの都市再生に取り組むため
に、継続的な投資、柔
軟な投資、予防的投資の仕組が求
められている。

④ 第5位: “hood(共同体)” にパワーを

ニュータウン内の既存のエリア相互の競争は、一般の都
市に
比べてより深刻である。新しい居住環境の継続的な
供給のため
に、既存のエリアには経済的たち遅れや移住
の問題が身近に迫
っている。そして、社会的連帯乏し
い脆弱なエリアでは、そ
れが急速に、地区を衰退させる
場合がある。ニュータウンは、
この競争問題を適切に管
理する方法を必要としている。

⑤ 第4位:アイデンティティ・ギャップ

ニュータウンには強力な都市のアイデンティティが求め
られる。自らの環境にアイデンティティを感じる住民の
存在こそが、集合的な熱意を生成し、新たな活動を推進
するために重要となる。しかし多くのニュータウンが機
能主義都市計画の時代に建設されたために、アイデンテ
ィティの感覚は重視されていない。ニュータウンはより
多くの象徴(Icon)を必要としている。より豊かなアイ
デンティティと市民の誇りを創りだすような、都市再生
へのアプローチを確立することが求められている。

⑥ 第3位:社会的多様性への対応の停滞

ニュータウンに新たに形成されつつある社会的多様性は、
異なるタイプの住宅、施設、レクリエーションエリア、
経済活動スペースや文化的施設などを必要としている。
しかしながら、ニュータウン内に新たな社会的、文化的・
経済的開発、その他の開発のためのスペースを見いだす
ことは容易ではない。緑を犠牲にすることなく、ニュー
タウンの既存の都市環境のなかに、より豊かな空間の多
様性を創出することが求められている。

⑦ 第2位:新たなプロフェッション

オールド・ニュータウンの開発には、ニュータウンの新
たなエリアを開発するのとは異なる新しい技術が必要と
される。また既存の都市の開発は、原野に建設するのと
は違い、広範囲の異なる利益を考慮に入れることを意味
している。さらに既存の都市の開発にはより全体論的な
holistic)アプローチが必要とされる。社会的、経済的、
空間的領域を統合した戦略が、空間戦略だけの時代にと
って代わらねばならない。

⑧ 第1位: “ハート”を持つこと!

都市にはその成長・変化とともに絶えず適合しつつ成長
する「心臓部」としてのセンターの存在が欠かせない。
センターの個性化及びセンターを支えるインフラストラ
クチャーの継続的改善は、ニュータウン再生における最
重要課題と言ってよい。多くのニュータウンでは、中心
と周囲の住宅地の間が明確に区分され、長期間の経済情
勢の変化に応じてその機能を変化させる「移行ゾーン(
transition zone)」(多くの普通の町には存在する)が存
在しない。ニュータウンの心臓部の開発とともに、そう
した移行ゾーンを創りだす試みが必要とされている。

5-4 イギリス:ニュータウン政策の新展開

このニュータウン物語の最終章に、ニュータウン誕生の
であるイギリスの近年の状況に触れておくこととした
い。

5-4-1 下院レポート
     『ニュータウン:その諸問題と将来』


イギリスのニュータウンは、過密化したインナーエリア
から
移住した多くの住民に、よりよい住宅と雇用、アメ
ニティと生
活質を提供するという重要な社会的使命を果
たしてきた。また
多くのニュータウンがダイナミックな
経済活動によって、各地
域の成長センターとして経済を
牽引する役割を担ってきた。し
かし現在では、その多く
が重要な問題に直面している。
2002年、イギリス議会下
院(House of Commons)の
Transport, Local Government
and Regions Committee
は、様々
な課題を抱えるニュータ
ウンの状況に着目し、調査を開始、50
に及ぶ関係団体
の意見書や各自治体からの意見聴取などを経
て7月に報
告書 “The New Towns: There Problems and the
Future”を
とりまとめた。以下にその概要を示すこととする。

① ニュータウン-成功、異なる状況及びその欠陥

・ニュータウンはそのデザインが示すように多くの共通
  点を持ち、共通の問題を抱えている。他方では、それ
  ぞれの経済的状況に代表されるように幅広いバリエー
 ションも存在する。
・多くのニュータウンがめざましいビジネス投資を生み、
 経済活性エリアを形成している。特に南東部地域のニ
 ュータウンはロンドン周辺の経済成長の恩恵を被って
 いる。一方で、地域間の経済格差を反映し、北部・中
 部イングランドのニュータウンでは高いレベルの失業、
 住宅需要の低迷、貧困エリアの集中が見られる。
・ニュータウンはもはや「ニュー」ではない。いまや莫
 大な新規投資と再開発が必要とされる状況にある。住
 宅の建設素材は実験的で基準を持たず、しばしば低品
 質で、幾つかのエリアでは完全に撤去すべき状況にあ
 る。インフラストラクチャーもまたアップグレード
 必要としている。
・ニュータウンのマスタープランは、いずれも大規模な
 オープンスペースと低密度開発を指向するもので、住
 居は職場やショッピングから隔離されている。低密度
 故に自動車利用が避けられず、今日では持続可能とは
 考えられない。

                  

それにしても、「ハートをもち」、「アイデンティティ
形成」を住民に求められてもどうすればいいのか戸惑い
覚えるのではないだろうか。「住めば都」(”Home is
where you make it.”
)というたとえが浮かび、「どうすれ
ば "都" にできるのか」との問いかけがやってくる。
職に重きを置けば、ベットタウン化し、職を失えば、新
しい住居へ移住するか、遠距離通勤を余儀なくされ、職
なくば、食なく、食なくば家族は逃散するしかない。そ
こを踏みとどまって、はじめて、"強いアイデンティティ"
が、"強い個性"が形成されるのだろうとも思う。わたし
(たち)は、この「ロスト・ダブルスコア」中にリスト
ラに合っても、この地で転職し「良き納税者」として頑
張っておられる方々を見てきいる。そんな環境があれば
こそ、ひとりの市民としての"誇り"が醸成されるのだと
も思う。


                   この項つづく

【エピソード】

 
 
 

【脚注及びリンク】
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  1. 田園都市 Wikipedia
  2. "The New Towns: There Problems and the Future
    Department for Communities and Local Government,
    2002.11.21
  3. 日本エシカル推進協議会Japan Ethical Initiative-
    エシカル日本
  4. 明治期廃絶城郭の公園化について ―史跡の保存
    活用の前史として― 佐々木孝文
     2015.06.26
  5. 都市とは何か 都市計画なぜ必要か - 東北大学
    奥村誠  2015.10.15
  6. 和歌山市都市計画マスタープラン 和歌山市
    2017.01.12
  7. 和歌山市立地適正化計画 2016.12.22
  8. 日本型田園都市構想―イギリス田園都市と比較し
    京田辺市を見直す―2001.12.11 西村利也
  9. 田園都市とエソテリシズム 吉村正和 2004.03.05
  10. 田園都市論の現代的意義 中井検裕 家とまちなみ
    45、2003.7.8
  11. 住宅地計画論 1.ハワードの田園都市構想園都市
  12. 都市思想の二人の巨人、ジェイコブズとハワード:
    宮﨑洋司市
  13. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.06 28
  14. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.07 26
  15. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.07 26
  16. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.07 03
  17. 平成 28年度 主要事業 彦根市
  18. 都市づくりの基本方針(全体構想) 彦根市
    橋梁長寿命化修繕計画による対策橋梁について
    滋賀県
  19. 彦根市都市計画道路網見直し検討調査
  20. 「まちづくりはひとづくり」をめざし 市民主
    のまち創る-近世城下町彦根市本町地区の2
    例の
    場合-(これからの都市づくりと都市計画
    制度全
    国市長会) 中島一 2005.05.09
  21. 中国城郭都市社会史研究 川勝守 著 汲古書院
  22. 都市計画の世界史、日端康雄 講談社現代新書
  23. ドイツ流 街づくり読本  水島信
  24. 続・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  25. 完・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  26. 都市計画1 日本の都市計画制度の概要 大谷英一
  27. 都市計画2 都市の歴史と都市計画 大谷英一
  28. 都市計画の理論 系譜と課題 高見沢実編集
  29. 道路をどうするのか 五十嵐敬喜・小川明雄 岩
    波新書
  30. 日本の道路史 武部健一 中公新書
  31. 道のユニバーサルデザイン 鈴木敏 技報堂
  32. 道路が一番わかる 窪田陽一 技術評論社
  33. 「道路」についての国際比較 藤井聡 2010.3.14
  34. 彦根市都市計画道路網見直し指針 
  35. 地域別のまちづくり方針(地域別構想)-彦根市
  36. 彦根市新市民体育センタ整備基本計画 2016.10.31 
  37. 彦根市立図書館|簡易検索
  38. 中心市街地の活性化に関する法律 Wikipedia
  39. 富山市におけるコンパクトなまちづくりの進捗と
    展望 2014.11.26
  40. アウガ Wikipedia
  41. 富山市 人と環境に優しいまち 公式HP
  42. 青森市 都市計画マスタープラン 公式HP
  43. コンパクトシティはなぜ失敗 するのか 富山、
    青森から見る居住の自由 2016.11.08, Yahoo!ニュー

  44. <アウガ>2副市長辞任 青森市政混迷増す 河
    北新聞 2016.01.28
     

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