ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

イミテーションゲーム

2018-05-24 09:04:37 | 映画のレビュー

何年も前、公開された時ぜひ見たかった「イミテーションゲーム」。でも、この度、📀DVDで観る機会ができて、大喜びの私。

以前取り上げた「ビューティフルマインド」に続いて、数学者の物語。でも、こちらの話の方が、よりシリアスで、救いがないといえます。   
主人公、アラン・チューリングは、早熟な天才数学者ですが、第二次大戦中、情報部に雇われ、ナチスの暗号「エニグマ」の解読グループに加わることになりました。

「エニグマ」という聞きなれない言葉自体、何かの暗号のようですが、実はこれ、ナチスが機密を秘密裡に通信するためにつくった暗号を指す言葉。史上最高難度とさえ言われ、連合国側の誰もが解くことのできなかったものなのです。
この暗号を解くためには、それを上まる緻密な頭脳と、「トロイの木馬」的発想が必要というわけですが、チェスのチャンピオンなども含まれる解読チームの中でも、アランのキャラククターはかなり特異。
傲慢で、まるでモンスターのようだ、というのが仲間うちでのアラン評。数学とか数式が、いつも頭の中で展開している人というのは、かくもエキセントリックなのかな? と見ている私もため息をついたもの。

「不思議の国のアリス」を書いたルイス・キャロルだって、本職は作家ではなく、数学者。この人も、一生独身だったし、「アリス」という理想の少女を心のうちに持ち、年端のいかない少女にしか興味のない変人でした(今だったら、もっと社会の見る目が厳しかったかも)。
おまけに、アランの場合、徐々に明らかになっていくのですが、当時は倫理的にも罪だとされていた同性愛者。歴史の秘密とされたエニグマ解読のドラマが明らかになったのも、彼が戦後、同性愛の罪で取り調べを受けていたことが、発端となっています。


自分の性向に苦悩し、同じ解読チームにいた、若く優秀な女性ジョーンと婚約してみるアラン。しかし、自分の心に嘘をつくことはできず、間もなく婚約解消ということになるのですが、モノローグのように織り込まれる追憶などから、アランの少年時代も過酷なものであったことがうかがえます。
学校時代もいじめを受け、床下に閉じこめられたりしたアラン――彼を助けた級友の少年、クリストファーに恋心を抱くも、彼は結核で死亡。

「ビューティフルマインド」でもそうでしたが、主人公はどちらも変人で、異端と言っていいほどなのに、不思議な魅力がある人物。この「イミテーションゲーム」でも、アランの冷たく、無感情でいて、一種の哀しみをたたえたような青い瞳には、こちらの気持ちを揺り動かすようなものがあります。
少年時代の友、クリストファーの名を取って、アランが作り上げた手作りのコンピュータが、エニグマを解読するという快挙を成し遂げるのですが、実はこれこそ戦後、アップルとかが作り上げたコンピュータの原型なのですね。
このことを取って、アラン・チューリングは「コンピュータの父」と呼ばれているそう。


さて、同性愛を糾弾されたアランの身に何が起こったか? 彼のスキャンダルは新聞沙汰となり、執行猶予のかわりにホルモン注射を一年間受けることとなります。
今では考えられないことですが、1950年代頃の世界って、まだまだ偏見があり、社会も寛容ではなかったのだなあ。
映画では、訪ねて来たジョーンの前で、コップを取るアランの手先が激しく震えていて、それに気づいた彼女に「いや、大丈夫。これはホルモンを注射しているせいだ」と言葉すくなに語る彼。
その心中の屈辱を思うと、見ているこちらもなんとも言えない気持ちになってしまうのですが、果たして、彼は事件後しばらくして、死を選びます。時に41歳。

アラン・チューリングが自殺してしまったから、長い時がたった後、ようやく、イギリスはこの天才数学者に謝意を示したということですが、あまりにも遅すぎたといえるのでは?

言葉だとかアートだとか、世界の表面を彩っているのは、文系人間の発想のようですが、実は世界を動かしているのは、理系の学問なのだろうと最近、痛感するようになった私です。

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