ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

レッズ

2018-05-24 08:02:33 | 映画のレビュー
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カリグラフィー作品の制作に忙しく、半月ばかりもブログの更新ができないままでした。でも、ようやく額装が出来上がるのを待つばかりになって、ホッ。
これで、今まで見終わっていた映画のことが書ける!
まずは、「レッズ」1981年のアメリカ映画です。 実は、この映画はずいぶん以前に観て、ロシア革命当時を取材したジャーナリストの生き様や、壮大なスケールの物語に深く感動した記憶があるのですが、それも歳月がたつとともに、肝心の内容もうろ覚えになっていました。
だから、再び「レッズ」に再会できて、懐かしい人にあったようなうれしさがこみあげてきたもの。



 何といっても、主役の伝説的ジャーナリスト、ジョン・リードを演じるウォーレン・ベイティが素晴らしい。この大スターに関しては、出た作品がどうというよりも、そのプレイボーイぶりが有名すぎるくらいで、名だたる女優や社交界の女性(その中には、あのジャクリーン・ケネディやマリア・カラスも)がロマンスの相手としてあがっています。
だから、こんな骨のあるジャーナリストという役柄を演じたことは意外にさえ感じられたのですが、何とウォーレン・ベィティは、この映画で主演ばかりか監督もしているのであります。
そして、その年のアカデミー監督賞も取っている――う~ん、凄い。お姉さんのシャーリー・マクレーンも昔、「アウト・オン・ア・リム」とかいうスピリチュアルな自伝を書いてベストセラーになったことがありますが、やっぱりこの姉弟には、特別の才能があるのでしょうね。

さて、お話に戻ります。アメリカ人ジャーナリスト、ジャック(ジョンの愛称)は、共産主義者なのですが、ふとしたことから人妻ルーシーと恋に落ちます(これを、ダイアン・キートンが演じていて、とってもチャーミング)。
ルーシーか家庭を捨てて、ニューヨークの彼の元にやって来るのですが、この二人に有名な劇作家ユージン・オニールとの三角関係がからんで、前半は恋愛的要素が強いです。

第一次大戦頃のアメリカって、こんな風だったんだ――としみじみ画面を見たのですが、海辺の優雅なコテージ、ルーシーのファッションといい、現代と重なるようで、やっぱり遠い昔の時代なんだなあと思わされるものがありました。
考えてみれば、ロシア革命があったのも、もう百年前。私たちの時代感覚からすると、歴史の彼方のことになってしまっています。




互いを必要な存在と感じたジャックとルーシーは結婚しますが、それでも気持ちの行き違いから、離れてしまったりすることも。ロシアへ革命を取材に行ったジャックの後をルーシーも追う事になるのですが、社会主義政権が、権力を握りつつある当時のロシアの状況は、本当に見ごたえがあります。
人民のための革命であったはずのものが、ごく上層の人間のものだけになりつつあるからくり――ジャックは、夢見た共産主義の実態に失望し、アメリカへの帰国を熱望しますが、それはかなうことはありません。
「一度、アメリカを出て、この国に入った以上二度と出ることはできない」。これは、社会主義の非情さをまざまざと感じさせた、作品中の言葉です。愛するルーシーに再会したい思いのジャックは国外逃亡を図るものの、阻まれ、中東の国々へ社会主義のプロパガンダのために旅立つことになります。

すでに腎臓を片方摘出するなど、健康をむしばまれていたジャックは、ロシアへ戻った後、奇跡的にルーシーに巡り会うものの、チフスのため病院で世を去る……これがラストシーンですが、いかにも閉ざされた国といった感じのする、暗い洞窟のような病院で、アルミのコップに水を汲んで病室に戻ったルーシーの前で、ジャックが死んでいたというのは、胸がしめつけられるような余韻を残しましたね。

こんな革命の嵐が吹きすさび、実験国家が成立したばかりのロシアに一人取り残されて、ルーシーはどうなったのだろうか? そして、アメリカ人でありながら、帰郷がかなうことはなく、クレムリンの一角に葬られたジャックを思うと、シンとした気持ちにさえなってしまいます。
ジャック(ジョン・リード)は、ロシア革命を取材したルポルタージュ「世界を揺るがした十日間」で、伝説的ジャーナリストとしての名をなしますが、実言うとその書名さえも聞いたことがありませんでした。だけど、この際、ぜひ読んでみたいもの。
1920年、亡くなった時、まだわずか32歳の若さ。激動の歴史に立ち会い、若い命を散らした青年の軌跡。本当に見ごたえのある作品で、見終わった後も、深い余韻にひたされます。
これを映画化しようと思ったウォーレン・ベィティにも、彼の豊かな才能にも乾杯。

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