ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

時計坂の家

2016-08-05 19:04:01 | 本のレビュー

時計坂の家」 高楼方子 作  千葉史子 絵 リブリオ出版

10日ばかり前、古本屋から入手した本。 児童文学界ではよく知られた人気作家、高楼方子さんのデビュー作(だと思う)。
1992年に初版が出された、と奥付にあるのだが、今のところ絶版であるらしく、文庫本も存在しなかった。

と、前おきが長くなってしまったけれど、実はこの本、私が大学時代に読んだ懐かしい作品――その当時、「なんて、素晴らしく、スケールの大きなファンタジー作品だろう。この本を読んだ記憶は、いつまでも自分のうちに残るに違いない!」と確信したのもくっきり思い出せるほど。

でも、手もとにはなく、やっとこのほど再読したのだが、やっぱり大好きな世界が描かれている。

主人公フー子は、平凡で目立たないが、日常にない「はるかなもの」の憧れを持つ12歳の女の子。彼女が、ほとんど会ったことのない同い年の従姉マリカから、港町「汀館」で会おう、と手紙を受けとるところから、物語が始まる。
フー子が、滞在するのは、(マリカにとっても同じ)祖父の家だが、そこは通称「時計坂の家」と呼ばれている。
そこの階段の途中には、扉をふさいだ後があり、そこは昔、洗濯ものを干す「物干し台」であったらしい。そして、驚くなかれ、祖母は昔、そこの物干し台から落ちて死んだ、というのだが、実は行方不明のままだった。


「時計坂の家」には、祖父の外に、祖母が失踪した後から住み込みのお手伝いさん、となったリサさんという女の人もいる。なぜか、不思議なことに、リサさんはピアノの上に置いてあるマトリョーシカ人形に顔がそっくり。 緊張しながらも、祖父の家で暮らし始めたフー子。彼女は、ある日、物干し台に続く扉にはめこまれた懐中時計が動きだし、その針が花に変わるところを見てしまう。そして、扉の向こうには、幻想的な庭園が続いていた―――思わず、踏みこんでしまうフー子。

祖母も、昔、この庭に入り、そこで命を落としたのだろうか? 当時、汀館の街にやってきた「チェルヌイシェフ」という有名な時計づくりは、どうからんでいるのか?
魔法使いとしか呼びようのない、奇術師でもある「チェルヌイシェフ」の面影を追って、フー子とマリカの母方の従兄である、映介の冒険が始まる――。


これが、ざっと書いたストーリーであるのだけれど、分厚い本をいくつも書いている高楼さんなので、この本もすごく長い! 原稿用紙にして、500枚くらいあるかな?

私が、この本に惹きつけられるのは、作品としての面白さもさることながら、今まで似通ったストーリーに出会ったことがないからでは、と思う。その独自性が、「時計坂の家」を特別なものにしている。

隠された美しい庭。その中心にある奇妙なおもちゃ箱のような建物。庭園に咲く、マツリカ(ジャスミン)の茂みと、そこに見え隠れするマトリョーシカそっくりに可愛らしい少女たち……フー子ならずとも、忍び込んでしまいたくなりそう!

あまり知られてはいないけれど、児童文学の傑作であること間違いなしの長編ファンタジー!

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