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ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

ユリシーズ

2021-01-01 09:45:53 | 映画のレビュー

大晦日の夜観た「ユリシーズ」。今までこの映画を知らなかったのですが、主演のユリシーズをカーク・ダグラスが、相手役をシルヴァーナ・マンガーノが出ているという豪華な映画。

おまけに、題材が言うまでもなく、ホメロスの「ユリシーズ」――これは絶対、観ないと!

そういう訳で、古代ギリシアの旅を二時間にわたって楽しませていただきました。よく考えると、古代ギリシアの風俗って、よくわかっていないことが多いのですね。最初浜辺で漂流してきたユリシーズを救った王女ナウシカアの着ている衣装にびっくり!

彼女は流されてきたユリシーズに恋してしまい、彼との婚礼を着々と進めるのですが、その花嫁衣裳が凄い! どう見ても、有史以前の古代とは思えぬのです。フリルを思わせる段々のついたドレスに、階段状になった白い帽子をかぶってなんている。

ここで思い出したのですが、古代ギリシアの遺跡が発掘された時、考古学者たちは壁画に描かれた女性の現代的な美しさにびっくりし、「パリジェンヌ」と命名したエピソードがありました。じゃあ、本当に、こんなドレスを着ていたのかしら?

 そして男性はこれも壁画で見られるような、まき毛をひと房、耳の前にたらしているのです……これって、今老いも若きも、女性達がやっているプリンセスヘアスタイルそっくりなんですけど。でも、あまり格好いいものではないので、観ているとムズムズしてきます。

あのスタイルが似合うのは、今は亡きマイケル・ジャクソンだけなのでは?

閑話休題。最初浜辺に流されてきたユリシーズは自分の名前も過去の記憶もまったく失っているのですが、婚礼の朝、海を見ている時、突如今までの冒険を思い出します。トロイ戦争が終わった時、仲間達を故郷イタケーへ帰ろうとした時、トロイの王女カッサンドラの呪いによって、様々な苦難を経なければならなかったこと――一つ目の巨人がいる島や魔女キルケ―のいる島での恐ろしい冒険。

    

しかし、この一団の首領であるユリシーズはあまり賢いとは言えず、観ていて少し焼きもちする場面もありました。彼がグズグズしていたから一つ目の巨人に捕えられたのだし、魔女キルケーの奸計にかかって大切な仲間を失うことになったのですから。おまけに、何だか粗野で荒々しい。とても面白い映画だったのですが、正直ユリシーズには感情移入しにくかったかもしれません。

さて故郷イタケーでは、ずっと夫の帰りを待ち続ける妻ペネロペがいました。彼女はイタケーの王妃。王であるユリシーズの長い不在は国の中にも重い空気をもたらしており、ついに押し寄せる求婚者たちから新しい夫を選ばねばならない羽目になってしまいます。

そこで、彼女は「織物が完成したら」と言いながら、昼間織った織物を夜には解いてみせるなどするのですが、とうとうごまかしきれないことに。仕方なく、新しい夫を決めるための競技会を開催することになりますが、そこに記憶を取り戻したユリシーズが戻ってきて……ジャ、ジャーン、ハッピーエンドといいたいのですが、少し微妙。 

何せ、ユリシーズは息子のテレウマコスと共に、彼らを虐殺するのですから――う~ん、こういう結末こそ、血を血で洗うギリシャ悲劇の凄まじさなのだわ。でも、神と人の荒ぶる魂が、壮大なドラマとなって、今も私たちの心を激しく揺り動かす。これが、ギリシアの物語の最大の魅力なのかもしれません。


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