映画「悪い種子」を観る。1956年のアメリカ映画。
実は、こんな映画があるなんてことも今まで知らなかった。原作者は、この問題小説を発表したひと月後に亡くなっているらしい。この作家はいかなり思いをこめて、希代のサイコパス少女を創造したのだろうか、とつい思いを馳せてしまったが、発表から65年たった今も、鮮烈な印象を与えるショッキングな映画なのである。
個人的に、好みのドツボにはまる物語で、実に面白かった!!
今のように精神医学が解明されていなかった20世紀半ばにも、いわゆる「サイコパス」の子供はいた。この映画の主人公であるローダもそう。金髪のおさげが愛らしく、行儀がよく、何でもできる優等生。 美しい母親のクリスティーンは心優しく、娘の成長を心をこめて見守っている。
しかし、軍人である父親が長期出張に旅立った後から、この平和で裕福な一家に様々なほころびがあらわれはじめる。ローダとクリスティーンは、なぜか精神分析の興味のある、おせっかいな家主のいるアパートで留守番をしているのだだが、ある日、ローダのクラスメートのクロードという少年が桟橋から落ちて水死する。
訪れた女性教師の話から、ローダが書き取りで一番になったクロードを嫉妬し、彼がもらった金メダルを取ろうと追いかけまわしていたという話をクリスティ―ンは知る。桟橋でも、クロードに近づいているローダを見た者がいると……。
母親の前では、こましゃくれた可愛い少女の演技をするローダ。そんな娘の姿に、クリスティーンは強い不安を覚える。実は、例のフロイト好きの家主が招いた客が、彼女の前で冷酷な女殺人鬼のエピソードを披露したのだ。彼曰く、「悪は遺伝するんです」
その捕まっていないままの美しい女性犯罪者の名前になぜか、耳覚えがあった。クリスティーンは自分が、両親の実の子供ではないことに感づいていたのだった。間もなく、久しぶりに再会した父親を問い詰め、自分がその女殺人鬼の娘であることを知る。
そして、ローダの宝箱の中から、クロードが持っていたはずのメダルを見つけてしまう。「これは、どうしたの? おっしゃい」
激しく問いつめるクリスティーンに、クロードから借りたのだと嘘を言い募るローダ。しかし、彼女はアパートで働く知恵遅れの気味のあるリロイから「凶器についた血液は、洗い流せっこない。調べればわかるんだ」と脅され、不安にかられていた。とうとう、リロイを地下に閉じ込めたまま、火のついたマッチを投げ込み、焼き殺してしまうローダ。
アパートの窓からリロイの遺体が運び出されるのを、激しいショックと共に見つめるクリスティーン。彼女にとって信じられないことに、その時、ローダは扉を閉め切ってピアノを弾いていた……ついに、娘が良心というものを持たない、奇形的な子供であることを理解するクリスティーン。彼女の心に去来していたのは、「犯罪者は、環境より遺伝によるところが大きい」とかつて同席していた客の言った言葉だった。
「このままでは、ローダの罪は暴かれ、あの子は見世物になってしまう」思い悩んだクリスティーンが選んだ道は、娘に致死量の睡眠薬を飲ませ、自分の頭を銃で撃ち抜くという道だった――。しかし、さらに思いもよらないことが待っていた。
これ以上書かない方がいいだろう。最後はショッキングで、深く考えさせられる結末となっているので、興味を覚えた方はぜひ本物の作品を観て下さい。
私的感想
遠い昔に作られたにも関わらず、昨今話題のサイコパスのキャラクターが、実に生き生きと描かれた映画。きっと、急死したという原作者は、自分の身近に、こうした特徴を備えた子供を偶然見つけ、観察していたのではなかろうか。彼の驚きが目にみえるようだ。そんな空想さえしてしまう。
罪の意識を持たない子供。それは、題名通り、土の中に眠り続け、いつの日か、奇形の果実を実らせようと企んでいる種を連想させてしまう。