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ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

レッドサン

2021-01-14 08:21:55 | 映画のレビュー

映画「レッドサン」を観る。1971年公開の五十年も前の映画。

    

正直言って、今まで私もこの映画を知らなかった。しかし、主演が日本の誇る三船敏郎に、ハリウッドスターのチャールズ・ブロンソン、そしてフランスのアラン・ドロンの三大スターの顔あわせ、おまけに題材が西部劇というのだから、これは必見ものだ。

そんな訳で、DVDプレイヤーで見た、ミニロードショー。感想は、素晴らしく面白かった。

     

時は1860年。ちょうど、日本では幕末で、アメリカでは南北戦争前夜という頃。しかし、舞台は無法者の跳梁する西部。ここに、アメリカ大使への秘宝の刀を献上するために訪米した武士たちの一団がいて、それが列車に乗っている最中、強盗に襲われたとしたら――この衝撃的なシーンから始まる物語。今まで似たストーリーの映画を観たことがないだけに、とても新鮮で、画面に目が釘付けになってしまった。

チャールズ・ブロンソン演ずるリンクとアラン・ドロン演ずるゴーシュが強盗側。使節団の武士を三船が演じている訳だが、リンクが邪魔になったゴーシュは列車もろともリンクを始末しようとする。相棒に裏切られた形となったリンクは、奪ったお金のあり場所をゴーシュから吐かせたい一心なのだが、幕府の使節団から「お前も私たちとゴーシュを敵とするのは同じ。黒田を連れていくとよい」と黒田をお目付け役につけられてしまう。

このチャールズ・ブロンソンと三船の掛け合いが何とも絶妙なのだ。日本の武士道を絵に描いたような折り目正しい黒田と、西部の荒くれ無法者のリンク(どこか、ちゃらんぽらんな愛嬌があるのだが)。この二人が反目し合いながら、しだいに男の友情を築き上げるまえでが、ユーモラスにもヴィヴィッドに描かれる。この時代、異国の男たちの間で、友情が芽生えるとしたら、単なるカルチャーショックを超えた分かち合いがあったはず。

それでもリンクは最初のうちは邪魔者黒田を追っ払い、逃走することに懸命で、崖から黒田を突き落としたりとなかなかに卑怯なこともやってのけるのだ。黒田を突き落とした後で、「俺は緑の犬を持っていた。喋らない奴だったが、長い刀を持っていた♬」と一人歌ったりするのだから、憎い。緑の犬って……それは確かに黒田は緑色の袴をはいているんだけど。

そこへ、武士の一念、岩をも通すの根性で、崖から這いあがってきた黒田。ここで、再び二人の珍道中が始まる。ゴーシュの行き先はどこか? リンクが思い当たる所があると言い、ゴーシュのお気に入りの娼婦クリスティーナのいる娼館へと向かう。

西部劇時代の娼館というのも、当時はこんな風だったのかと、とても興味深い。木造のどこかゴツゴツした感じ、入り口のカウンターに置かれたランプの灯などが、「なんだか地の果てみたい」と思わせられるのだ。

ゴーシュをおびき寄せるため、クリスティーナを連れて山へと向かった二人の前に、インディアンのコマネチ族が現われ、そこにゴーシュも姿を見せ、三つ巴の闘いが始まるというのがクライマックスだが、この戦闘が本当にダイナミック。当時は、こんな風に無茶苦茶人を殺すのが当たり前だったのかしら?

最後は黒田もゴーシュも死んでしまい、リンクは瀕死の黒田から伝統の秘刀を日本の大使に送り届ける約束をする。

「馬鹿な。お前が姿を現したら、罪人としてたちまち捕まってしまうではないか」という黒田に、「それでも俺は送り届ける。約束する」と答えるリンク。安心して瞑目した黒田を砂漠に葬ったリンクが、果たしてどんな風に約束を果たしたかというと――一か月後、再び西部の鉄道に姿を見せた大使の乗った列車。その線路のずっと手前の鉄線の上に結び付けられているのが、あの伝刀!

この何とも洒落たラスト。果たして、日本の大使たちはこの刀に気づくでありましょうか? それとも気づかずに、列車に乗ったまま通り過ぎてしまう? そんな風に焼きもちさせるところも心憎い、西部劇の隠れた名作!