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ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

午後のお茶

2015-11-22 20:38:49 | ある日の日記

この間市内にできたという、カヌレ専門店「ガトーミュール」へ行き、小さなカヌレを買ってきました。
様々なフレーバーがあるのだけれど、一つ一つがごく繊細で、舌の上で転がる美味しさ!

珈琲を入れて、カヌレをおともに、午後のお茶。秋の終りのティータイムを楽しむひととき。
これは、この小さな可愛いカヌレを教えてくださったカリグラフィーの先生のところで作られた(先生は、葡萄も栽培されているのです)葡萄のジャム。 黄金色に輝く手作りジャムは、焼いたクレープにのせると、美味しそう…。

この葡萄のジャムは、tododesu.comで入手できるはずです。

七瀬ふたたび

2015-11-22 19:26:12 | 本のレビュー

「七瀬ふたたび」 筒井康隆 新潮文庫

1970年代に発表されたテレパス七瀬の三部作のうち、第2作目となるもの。

話は冒頭から、横道にそれるのだが、私は個人的に筒井康隆のファンである。その狂気、想像力の限界を超えた過激な内容、イメージや言葉の奔流などが、彼をあらゆる作家からはるかに遠いブラックホールのごとき、「破滅的な破壊力を持つ天才」ならしめているのである。
このテレパス七瀬シリーズと並んで、「旅のラゴス」という筒井には珍しい、異世界ファンタジーものが大の愛読書で、中学、高校時代以降、幾度繰り返し読んだか、数えきれないほど。
他の惑星から飛来した「御先祖さま」が残した膨大な知識を学ぶため、旅を続ける若き旅人、ラゴス。彼は、その行く手、奴隷から王へ、再び奴隷へ、そうして、最後は賢者へ――と波乱万丈の旅をすることとなる。 異世界の町、密林、小さく平和な王国などが、青い月光の向こうに浮かびあがってきそうなほど、鮮やかに描き出され、この書物のページを繰るたび、私は十代の日と同じように、陶然としてしまうのである。


さて、この「七瀬ふたたび」。SFが全盛期だったといわれる、昭和40年代に書かれただけあって、物語は、きわめてSF調である。まず、主人公七瀬は、超能力者で、「人の心を読むことのできる」精神感応能力者である。
若く美しく、知的で強い意志を持った七瀬。彼女は、私が今まで読んだきた小説のヒロインの内でも、第一級といってよいほど、鮮やかな面影を残しているのだが、彼女がまず夜汽車に乗り、崖崩れと列車の転覆を感じ取ったことから、物語の舞台が開く。
感じ取った――とあいまいな言い方をしたが、これは彼女ではなく、たまたま居合わせていた青年、恒夫が「予知」した内容をテレパス能力で知ったからに外ならない。

この列車に乗っていた、予知能力者「恒夫」、七瀬と同じテレパスである、5歳の幼児「ノリオ」など、外の超能力者たちとの出会いが、七瀬の運命を決定していくのだが、数話のオムニバス形式になった物語の面白さ、比類のない展開……など、筒井康隆の才能には舌を巻くばかりだ。 超能力者という特異な立場の人間が抱かざるを得ない、深い孤独、あるいは選良意識、自分の能力を他人に知られるのではないか、という恐怖などが、こちらにも痛いほど伝わって来て、私達は、七瀬にいっそう肩入れするのである。

七瀬が出会う、何人かの超能力者。その中で、一番印象に残るのは、「時間旅行者(タイムトラベラー」の藤子だろう。時を越えて、移動できるだなんて、現代世界をにぎわしている「エスパー」らしき人々の中でも、こんな特殊な能力を標榜している人物はいないはず。 筒井康隆の初期の名作「時をかける少女」を思いだして、ニヤリとしそうなのだが、物語は決してエンターティンメントではない。

互いにようやく「仲間」を見いだし、身をよせあう七瀬たち。だが、彼女たち「エスパー」を人類に対する脅威ととらえ、抹殺しようとする組織の手が伸びはじめていた――というのがストーリー。

この小説は、ある意味、とても過酷で、非情な世界を描きだしている。魔女狩りのように、犠牲者をあぶりだし、殺そうとする組織は、現代の世界でも、「正義」の名のもとに存在するのかもしれない。
終章、すべての仲間たちを殺された七瀬が、自らも瀕死の重傷を負いながら、森を歩いて行くシーンは、圧倒的な密度で書かれている。これほど、素晴らしい描写力を持った文章を、私はほとんど知らない。
最後、七瀬は、樹の下に身を横たえる。
「…太陽は中天にあり、その光は横たわった七瀬の頭上、風にそよぐ木の葉越しに暗い森の中へも射しこんでいた。七瀬は血にまみれた胸を大きく波打たせながらながい間、枝や葉に遮られてちらちらしながらもわずかに見える青い空を見上げていた。楽しかったことだけが葉のはざまの光の乱舞につれて次々と浮かび、通り過ぎて行き、その幻想がすべて通り過ぎていったのちに七瀬がちらっと口もとへ微笑を浮かべた時、深い虚無がやってきた。」


天才、筒井康隆の黄金期の代表作にして、素晴らしき傑作!