ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

皮膚の下の頭蓋骨

2014-02-17 20:57:24 | 本のレビュー

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「皮膚の下の頭蓋骨」P・D・ジェイムズ(ハヤカワ文庫)--十代の頃から、ハヤカワミステリ文庫を愛読しているのだが、P・D・ジェイムズは、コナン・ドイル、アガサ・クリスティーと並んで最愛のミステリ作家である。

「長い、描写が詳細すぎて疲れる」--こういった評がしばしば聞かれるように、その実力度に比べて、熱烈なファンは少ないような気がする。かつては、ダルグリッシュ警視シリーズなどがあったはずのハヤカワ書房でも、ジェイムズの作品の多くを絶版にしているようだ。 たしかに長い。それに描写があまりに文学的で格調高く、読者に英国史や古典文学についての教養を要求するようなところがあり、それが敬遠される理由かも。

それに、正直言って、精緻な作品世界に比べて、犯人探しはさほど難しくないのだ。登場人物も少ないし、あんまり謎にひねりがないから、わたしでさえ、物語の三分の二くらい読んだら、大体犯人が分かる。

さて、この「皮膚の下の頭蓋骨」。実は二十代の時、すでに読んでいるのだが、月日とともに内容なんかほとんど忘れていたから(当時の文庫本も、手元から消え失せていたし)、新しく書店で購入した訳。 この物語には、女探偵コーデリア・グレイが主人公として登場する。探偵事務所を経営する若き女性として。

彼女に持ちこまれた依頼は、死を暗示する脅迫文に悩まされる女優を警護するというもの。その女優と数名の客が滞在する島へ赴くのだが、この島の形容がいい。いかにも、イギリスの海岸近くにありそうな、金持ちの所有するリゾート的な島。そこには、数々の歴史を秘めた美しい城館がたっており、そこには珍奇なコレクションとともに、自己の美的世界にこもっている主がいる。

コーデリアの努力にもかかわらず、女優は惨殺され、犯人探しが始まるのだが、「悪魔の湯沸かし」という気味の悪い名前のついた城の地下の洞窟(それは、海につながっている)や、そこで行われた大戦中の事件・・・印象深いエピソードを交えながら、物語は沸点に向かって進行する。

人物を見る、ジェイムズの視線はいつもの通り辛辣である。城の主や、喬慢な女優、その夫、女優の前夫の子、瀕死の重病の劇評家、女優の従姉妹など、好感を持てる人物など登場しない。 ただ、コーデリアのみが、知的で凛とした風をまとうのだが、その彼女にしても、物語の結末、ある意味で敗北せざるを得ない。

この長大なミステリ--わたしとしては面白く読めたのだけれど、それ以上の魅力は文体。文学的香気に満ちた、端麗な文章・・・ページを繰るだけで、英国の気品がたちのぼる。