ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

ボルヘスの宇宙

2013-09-04 21:09:27 | 本のレビュー

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凄い本である。「怪奇」などと銘打っているものだから、私の大好きなヴィクトリア朝英国のゴシックロマンめいたものでもあるのかと思ったら、ブラックショートとでもいうべき、掌編がずらりと並んでいる。 このボルヘスという人、古今東西の奇書を集めた図書館を頭の中にもっていたのではないかと疑うほど、あらゆる書物を渉猟した痕跡がうかがえるのだ。

そして、かなり難解である。多くの人の好きな怪奇ロマンを期待したら、鋭利なナイフが突き立てられるような「怖さ」を覚悟しなければならない。短い物語には、高度な読解力を必要とする戦慄が凝縮されているのだから。 古代中国の書物から、南米の現代文学から、アメリカの短編小説の名手O・ヘンリーから・・・と出典はあらゆる領域に及んでいる。

巻末の解説で、ボルヘスが失明したと聞いて、じゃあ、ボルヘスがあの作家だったのか・・・と気付いたことも。 昔、ある本を読んでいて、「あらゆる書物を読みつくし、失明した作家が南米にいた」と記されていて、それが印象に残っていたのである。 古代アレキサンドリアの図書館ほどの分量の書物を読みつくしたのかもしれない!

そして、こんなに内容の濃い、恐ろしいまでに密度を備えた書物に出会ったのも、本当に久しぶりである。1960年代の南米文学ブームの際、「発見」されて、20世紀のもっとも重要な作家の一人となったというのも、無理ないだろう。(ガルシア・マルケスなどよりも、マニアックなファンが多いような気がする)。

といっても、この本はあくまで、ボルヘスが編纂したもので、彼が書いた「小説」ではない。そして、(呆れたことだけれど)私もまだ彼の小説を読んでいなくて、これからというところ。以前、ブログでも書かせて頂いたMさんから贈られた本の中の一冊で、これから読むつもりのボルヘスの著書もその中にある。短編小説作家だというボルヘス--私は、よほど気に入った本でない限り長編小説が読めなくなってしまっているので、これはとっつきやすそう!