虫干し映画MEMO

映画と本の備忘録みたいなものです
映画も本もクラシックが多いです

海を飛ぶ夢(2004/スペイン)

2005年05月09日 | 映画感想あ行
MAR ADENTRO
監督: アレハンドロ・アメナバル
出演: ハビエル・バルデム ベレン・ルエダ ロラ・ドゥエニャス クララ・セグラ マベル・リベラ セルソ・ブガーリョ

 1968年8月23日、25歳のラモンは岩場から海へダイブした際に海底で頭部を強打、首から下が完全に麻痺してしまう。以後26年家族に介護されて寝たきりで生きてきた彼は、尊厳死を認めてくれるように訴え、協力する弁護士フリアがやってきた。

 身体に応えた映画でした、映像もさることながら、言葉が強烈。
 ラモンの兄が息子に叫ぶ言葉。大事な誰かをなくした経験のあるもの(つまり、ほとんどの人間)にとってかつて経験したものを意識のそこから引きずり出されるような思いがしないか。
「死ぬということが本当にわかっているのか。もう2度と会えないんだぞ。」
 本当に、人間は関係性の中で生きるものだけれど、その生の充実のために人間が乗り越えなければいけないものって、時としてなんて厳しいものなのだろう。
 映画では、尊厳死を完全に肯定している様に思えない。自己の死に関する権利が本人にあるかどうかはまさに法律も宗教も超え、全て本人に戻ってくる問いとしか見えない。ラモンと家族は愛し合っているが、その愛情は強いがゆえにまた強いくびきである。その愛する家族に十字架を背負わせることを承知で彼は死を望んだ。兄はその動けない弟に縛り付けられた一家の彼への愛情のために生きることを拒否する弟に怒るが、これもまた正当な権利に思える。
 そしてフリアはおそらく愛ゆえに一番恐れていたところへ踏み込むこと-自分をコントロールする意識のない生を続けること-を選んだ。
 ここでは、判断を他所に預けてしまったやはり四肢不自由の宗教者は滑稽で、しかも無自覚に残酷でしかない。それでも、それもまた四肢の自由のない絶望から目をそむける手段だとしたら…彼の周囲にあるのは愛情や尊敬からの献身ではなく、権威とそれへの服従しかないのだから。だからといって許せるものではないけど。
 そして結局最後に共にいるのがロサなのがまたこたえた。彼ら2人だけに呼応しあうものは、ロサが望んだような愛情でなく親密ではあるが別種の愛情であることを理解している。

 これだけずしりとこたえる映画なのに、気持ちが沈み込まない不思議な軽やかさと美しさでした。

 それにしても、ハビエル・バルデムはすごい役者です。「夜が来る前に」でも感嘆したけどもっと主演男優賞とっても当然だと思います。