二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

司馬遼太郎「街道をゆく」を満喫する ~「越前の諸道」と「叡山の諸道」をめぐって

2022年06月09日 | ドキュメンタリー・ルポルタージュ・旅行記
   (「越前の諸道」と「叡山の諸道」朝日文庫 現行版)



■「越前の諸道」新装版第一刷 1980~81年 「週刊朝日」連載


司馬遼太郎にはまりかけている、いまさらながら。
買うだけ買って手許にありながら、読めていない、読んでいない本がたくさんあるからだ。
しかも、さらに買ったり、平積みした蔵書を漁ったりしている(´ω`*) こういう現象を何といったらいいのか!?
まあ、定年退職したら司馬さんの未読の作をまとめて読もうとは考えていたんだ。

最初は短篇集、そしてエッセイ。
60歳半ばくらいから、司馬遼太郎はエッセイ(随筆)しか書かなくなった。
研究論文などのお固いものじゃなく、須田画伯や「週刊朝日」の編集者などをともなった弥次喜多道中。書きぶりもとりすましましたところがまったくない。

TVが壊れる前、NHKで「鶴瓶の家族に乾杯」や「ブラタモリ」は、ほぼ欠かさず毎週観ていた。現在はYouTubeでいくつか観ている。
両方ともドキュメンタリーだし、紀行番組である。
そのハシリが司馬さんの「街道をゆく」だといえるだろう。
持っていた朝日文庫の半数以上は、旧版化してしまったので、このところ最新版を買いなおしたりしております(^^♪

司馬遼太郎の「時空の旅」。
それが「街道をゆく」であり、いまとなってはやや古めかしいところがないではないが、そこをふくめて、わたし的に満喫している。
紀行文学の巨峰、というよりわが国最大の紀行文学。
全43巻、朝日文庫すべてが現行版なのであ~る。司馬遼太郎の偉業、これは驚いていいことである。

本編第18巻「越前の諸道」は以前読みかけたことがあったはずだが、あらためて全編を通読した。現行版だと292ページ、27章のピースから構成されている。

いまから30年ばかりの昔、会社の観光旅行(つまらない2泊3日のバスツァー)で福井県を訪れたことがあるので、福井県には多少の土地勘がある。
本編は研究書や論文ではなく、あくまで文学紀行・歴史紀行。

・道元
・山中の宋僧
・宝慶寺(ほうきょうじ)の雲水
・平泉寺(へいせんじ)の盛衰
・宗徒の滅亡
・丹生(にゅう)山地のふしぎさ
・越前陶芸村
・古越前
・重良右衛門(じゅうろうえもん)さん

このあたり、真にワクワクさせられた。
白山信仰がどういったものか教えてくれるし、古越前の盛衰について書かれたくだりもおもしろかった。
「鶴瓶の家族に乾杯」や「ブラタモリ」はいかにも“TV番組”といえるが、こちらは文字による表現。知的レベルはいうまでもなく、司馬遼太郎の本の方が上である。

内容紹介にかえて、BOOKデータベースから引用しておく。
《駆け出しの新聞記者として福井地震の惨状を取材した著者にとって、越前は強烈な記憶の場所だった。九頭竜川の育てた肥沃な平野を往来しつつ、永平寺の隆盛と道元の思想を思い、「僧兵八千」を誇りながら越前門徒の一揆にもろくも敗れた平泉寺の盛衰を考える。平泉寺の菩提林で、十余年前に訪れたときと同じ老人に偶然再会する不思議な場面は、そのまま一編の小説になっている。》

「そのまま一編の小説」とは思えないが、文学の香り高いすぐれたエッセイ・随筆となっている。シナリオのないドラマといえなくもないが、フィクションではなく、ドキュメントである・・・というところが、いまのわたしの要望に合っている。

くり返すようであるが、「街道をゆく」43巻は、わが国の紀行文学最大の巨編。
その中にあって、本編「越前の諸道」は秀作の部類に属するだろう。立ち止まったり、振り返ったり、戻ったり、ふたたびすすんだり、司馬さんは変幻自在である。
そうか、そうであったかと感心しながら、この旅のガイドにしたがって、時空の旅を愉しむ(^^)/
本シリーズも、総計1200万部を超えていると、どこかに書いてあった。大勢のファンにささえられ、40年前の旅が、こうして愉しめることじたい、ただごとではない。

何か所か印象深いところを引用したいところだが長くなってしまうからやめておく。司馬さんは私小説の類はまったく書かなかった。
Historyとは“彼の物語”のことだと、評論家松本健一さんは指摘している。他の人のことを書いたり、紀行文を書いたりしながら、浮かび上がってくるのは、司馬さんの知性・感性であり、昭和という時代の香りである。
父の世代の人であるが、わたしの共感は、そこに根をもっている。平成が終わるころになってポッと出てきた小説家ではないし、基本的に単純なエンターテインメントの人でもないということである。

「越前の諸道」を読み終え、現在は「叡山の諸道」を読んでいる。最澄について、円仁について、風通しのよいことばで、さわやかに語りつづける司馬さん♪
司馬さんの本領は、この“語り”にあるのだ。
思弁的・観念的な逸脱は、まったくない。
空間の旅が、そのまま時間の旅に重なる。こういう才能は、司馬遼太郎の出現を待って、はじめてこの国にもたらされた。この人に 比べたら、村上春樹さんあたり、小結か前頭だろう。

それにしても・・・司馬さんそばが好きなんですねぇ。須田画伯と、旅先ですする名物そば。わたしもそば好きなので、気分が盛り上がりますぞ( ´◡` )



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