二草庵摘録

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日の沈む国への旅 ~「マグレブ紀行」を読む

2023年04月14日 | ドキュメンタリー・ルポルタージュ・旅行記
■川田順造「マグレブ紀行」中公新書(1971年刊)


川田順造(1936年~ )さんという文化人類学者を知っているという人が、世間にどのくらいいるのだろう。
調べてみると、2021年に文化勲章を授与されている。しかし、一般的には知名度は低い方だろう。うん、聞いたことある・・・とはいえ、おそらくはレヴィ=ストロース「悲しき熱帯」の訳者としての名ではないか。
Wikipediaで検索すると、驚くほどたくさんの著書がならんでいて、大きな仕事をしてきたことがわかる。

《マグレブはアラビア語で「日の沈む国」を意味し、モロッコを中心に、ジブラルタル海峡を挾んでスペインと向いあったアフリカの一角である。ここはオリエント、オクシデント、アフリカの接点であり、また十五世紀に始まる、旧世界と新大陸との再会を準備した所でもある。本書は、アフリカ史を専攻する著者が、日本とは地球半周を隔てたこの地方への「旅」の見聞を語りながら、西洋近代や日本を再考しようとした、異色の紀行文である。》BOOKデータベースより引用

そういえば、川田順造さんの著作では「曠野から―アフリカで考える」が蔵書の中にあったはず。でも、どこへ置いたかまったく記憶にない。
この「マグレブ紀行」だけは、何十年も昔からぜひとも読んでみたいと願ってきたのだ。第一“マグレブ”ってどこだ! という好奇心から出発している(*・д・)

先回りして書いておけば、マグレブとは、アフリカの北西地域の総称である。現在の国名でいえば、チュニジア、アルジェリア、モロッコとなる。
そのうちで、本書はおもにモロッコについて、紙幅をついやしている。
そうなのだ。わたしはマグレブ地域がどんなところか知りたかったのだ。
ジブラルタル海峡をこえれば、そこは“アフリカ”。スペインとモロッコは、海峡をはさんで向かい合っている。

ただし、最新情報ではない。
観光旅行の資料にしようとしたら、まったくのあてはずれ。
川田さんは、観光旅行に出かけたわけではない。
地に足のついた経験と思索の旅。
モロッコほど、興奮に満ちた謎めいた土地は、そうそうないのではなないかと、若いころ思ったことがある。ヨーロッパ人のいう、ベルベル人の風土に関心があったのだ。
スペインのレコンキスタを多少とも知って、つぎのステップに進もうと考えたとき、モロッコの風土が、俄然浮上してくる。
華やかな市場と迷宮都市への憧れ。何世紀にもわたってカトリックの国スペインと戦火を交えた、イスラム教徒べルベル人の土地と文化と生活。

そこは旧世界では西の端に属している。
いうまでもないが、そのさきは大西洋。
川田さんは15世紀の人びとになったつもりで、想像力を働かせている。しかも、ヨーロッパからではなく、未知の大陸アフリカ、黒人国家アフリカから、その想像力は“マグレブ”に向かう( -ω-)
ひと口にいえば、期待に違わぬ、卓越した一冊であった。
おいしいお酒にありついたときのように、ごくん、ごくんと何回か咽喉が鳴った。
文字通り紀行である。

長くなるので本文からの引用は避けるが、第3章「ベルベル国家を考える」を中心に、おもしろさが凝縮している。
「ベルベル人」
「『近代』国家という膏薬」
あたりは、ヨーロッパ近代に対し川田さんの批判がとくに先鋭化していると思えた。

川田さんは凡庸な大学教授、書斎の研究者ではないし、観念論の人でもない。
もう一冊か二冊、読む必要があるなあ♪
結論の出ない・・・というか、ない問題に対し、じっと耳をすましている。現実から目をそらさず、腰を落として思索する。
その姿勢に、世界遺産に振り回される観光客とは違った、生活を凝視する人の苦々しさがにじみ出ている。
信頼がもてるといえば、そこである。




評価:☆☆☆☆

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