虹色教室通信

遊びや工作を通して 子どもを伸ばす方法を紹介します。

いろいろ体験したがるけれど、「ああ、楽しかった」で終わってしまう 後編

2019-03-30 09:09:46 | それぞれの子の個性と才能に寄りそう

前回、記事中で書いたCちゃんのようなタイプでなくても

アウトプットに時間差があるという子はけっこういます。

 

わたしはそうしたインプットとアウトプットの個性的なずれをよく理解することが、

子どもの意欲や能力を高めるコツかな、と感じています。

 

子どもによったら、学習の場面でそういうところが強く出やすい子というのがいます。

勉強でつまずくと、もうどう教えても、何を言っても、

頑として受け入れられなくなる子がいるのです。

その姿は、ひどく物わかりが悪いように見えます。

でも、半日経ったり、1週間過ぎたりしたころ、

再び同じ問題をすると、すんなりできてみたり、教えたことを

難なく理解したりするのです。

そうした子は、「今、みんなといっしょにやっている場でできなきゃいけない」とか

「最初に習った時に理解しないとダメ」といったその場に漂っている空気

で傷つけて、自信ややる気をそがないことが

重要かなと思っています。

 

インプットからアウトプットまでにこれくらいの時間差がある子として

尊重してあげて、できないで焦っている時に、

「今すぐわからなくても大丈夫。

いつも、わからないと思ってから、これくらい

時間が経つと、なんだ簡単だ、とすんなりできるようになっているでしょ。

あなたは賢い子よ。自分でちゃんと答えにたどりつくよ。

自分の頭の使い方を大事にしなくちゃならないよ」

と励ますようにしています。

 

大人は自分のものさしを使って子どもの活動を

比べる目、評価する目で眺めがちですが、

すごくレベルが低いことをしているように見えても、

何もしていないように見えても、

それはインプットとアウトプットが同時進行で起こると

思っているから、そう見えるだけ、という場合がほとんどです。

 

 

上の写真は3年生のDちゃんが作っていたカフェのドリンクです。

このDちゃんは、インプットとアウトプットが大きくずれるような子ではないけれど、

アウトプットするものの質が、外からの目ですぐわかるような価値でないため、

<いろいろ体験したがるけれど、「ああ、楽しかった」で終わってしまう子>として

見られる面があります。

実際にはかなり能力が高いはずの子なのに、「長い時間、かけて、これを作ってただけ?」

「かなり安易にやりたいことを決めてるんじゃないかな?」という印象を周囲に与えやすいのです。

 

でも、このDちゃんという子とていねいにつきあっていると、

それは大きな間違いであることがわかります。

 

インプットとアウトプットが大きくずれるような子ではないけれど、

アウトプットするものの質が、外からの目ですぐわかるような価値でないため、

<いろいろ体験したがるけれど、「ああ、楽しかった」で終わってしまう子>として

見られる面があるDちゃんという子について取り上げています。

 

「アウトプットするものの質が、外からの目ですぐわかるような価値でない」

という子は、とても多いのではないかな、と思います。

親が何に価値を置くか、環境が何を評価するかとも大きくかかわってきます。

みなでお泊りする場に行くと、作った後で、

店開きして遊べるカフェ用の食べ物や飲み物作りというのは、

魅力的な工作です。

でも、同じようにせっせケーキやジュースを作っていても、

子どもによって作るものや作り方は異なります。

ひたすらデコレーションに励んで、おいしそうで見栄えのいいケーキや飲み物を作る子もいれば、

2段ベッド同士を食べ物が移動するレーンにする仕掛けに走る子もいれば、

展開図を描いて、三角柱や円柱のケーキを作る子もいます。ちらしや看板作りに忙しい子もいます。

かじった後の凹んだ形がどのようになるのか、そこに着目する子もいます。モーターを使って

わたがしマシーンなどを作る子もいます。

集団で自由に工作をする場は、そうしたさまざまなアイデアや可能性を

目で見て取り込む機会でもあります。

 

Dちゃんは最初、ガチャガチャの半球に穴を開けて、ストローを通して、

ふたつきのドリンクを作りたがっていました。

が、この半球はけっこう硬くて、熱で溶かすのでなければ、おそらく穴を開ける時点で

ひび割れるだろうと思われました。

それで、穴を開ける方法についてあれこれ相談した結果、穴そのものは開けず、

上からと下から、それぞれ別のストローを接着して作るのがいいのではないか、

という「ちょっとめんどくさい展開」になりました。

「誰もやったことがない未知のことである」と「ちょっとめんどくさい展開」になると、

たいていの子はあきらめるか、もっと安易はやり方(ふたをなくす)などに

流れます。

でも、このDちゃんは、必ずといっていいほど、

そうした困難さや難しさが伴う課題を選びます。

教室では、透明のフィルムを動かして見るのぞき眼鏡とか、複雑なポップアップ絵本の仕組みなどに

チャレンジしていました。

 

そうした課題も、実際やってみたら、簡単だったということもたまにあります。

でもたいてい、途中でどうやってもうまくいかず、長い間試行錯誤して

あまりパッとしない結果につながるんです。

エネルギーのほとんどが、きれいに仕上げることではなく、

はじめてだからうまくいかなくて、失敗してやりなおしたり、

どうやったらいいか考えたりする時間に費やされますから。


このDちゃんという子の魅力は、作業をメタな視点で眺めて、統合したり発展したり

する考え方につながるところで、

できあがったものが何かということより、

気づいたことは何かというところに価値があります。

 

たとえば、コップの周りにレースのリボンを貼り付けるとしたら、

長さはどれくらいか、どうやったら求まるかといったことに、

体験すれば関心が高まり、少し教えれば理解して納得します。

自分自身で、さまざまなことに気づきもします。

 

そうした活動を通して、頭の中の世界を変化させていく子たちは、

見えている世界ではそれほど目立つことをしない場合も多いです。

ひとりひとりの子の個性にていねいに接する大切さを思います。

 

 


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