虹色教室通信

遊びや工作を通して 子どもを伸ばす方法を紹介します。

子どもとの間で生じる『力のゲーム』から抜けるには?<1>

2017-12-05 09:49:24 | 教育論 読者の方からのQ&A

実はこの記事のAくんは、今は小学2年生で

とてもしっかりした男の子に成長しています。

 

(先日、虹色教室文庫のふろく付きの雑誌を作ってきてくれました。)

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レッスンにいらしていた年中のAくんのお母さんから、

こんな相談をいただきました。

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子育てで気をつけていたこと という記事にあった先生のお母さんと妹さんのように、

息子との関係がしょっちゅう力のゲームになっていると思います。

ちょっとしたことがきっかけで、私は息子をコントロールしようとし、

息子は私をコントロールしようとして、争いがどんどんエスカレートしていきます。

私自身、子ども時代を通して、いつも父とこうした力のゲームをしていました。

今、息子との関係が、私と父との関係とそっくりになっているのが嫌で、

何とかそれを避けたいのですが、エスカレートしだしたら私がその場を離れる……

くらいしか解決のレパートリーが自分にないのです」

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私はAくんのお母さんに、どのような場面で、どんな理由で、どんなふうに

Aくんとの揉め事がエスカレートしやすいのか詳しくたずねました。

Aくんは寝しなにお母さんから本を読んでもらって眠りにつく習慣があるそうです。

普段は読み聞かせを心待ちにしているAくんが、

時々「今日は、読まなくていい。今日は本を読んでほしくない」 と言うときが

あるそうです。

それなら……と、「お母さんは夕食の後片付けをしてくるわね」と告げると、

「それは嫌だ、やっぱり本を読んでほしい」と言い出し、

本を読もうとすると、「今日は本を読まないで」と騒ぐのだとか。

そうした優柔不断さにぶつかると、Aくんのお母さんは、

「とにかく早く読むのか読まないのか決めてちょうだい」とイライラが募り、

Aくんの方はお母さんのイライラを感じ取って、さらに頑固に、こうでもない

ああでもないと、どちらにも決めない態度を押し通します。

 

そうなるとAくんもお母さんも、本を読むか読まないかということは二の次となって、

とにかく相手を自分の意のままに動かしたいという気持ちに

駆り立てられていくのだとか。

そんな時にお母さんは、父と自分がずっと続けていた力のゲームを、

今度は息子とやっているのを強く感じるというお話でした。

 

子どもの問題で、「こんな場合どうすればいいか?」と考える時、

どんな育児書も教育書もしつけ本も、

読み物として子育てについての最低限の知識を得て、

子どもに関する想像力を広げる分にはよくても、

実際、現実の子どもとの関係を改善するにはあまり役立たないものです。

子どもはそれぞれ個性的で、その子の問題は、

他の不特定多数の子どもの問題とちがうのはあたり前。

ましてや、親も環境も子どもの状態をどのように読みとるのかという

感受のあり様(ある親には「わがまま」と映る子がある親には「子どもらしく

いきいきした子」と映ります)もまちまちなのですから、

マニュアル的な対応がうまくいくはずがありません。

それならいったい何を頼りに解決すればいいのかというと、

その子との間に生じている問題をなら、答えは、「その子」にあると考えています。

 

話題をAくんに戻して、Aくんがどのような子か、

優柔不断な態度を取る理由は何か、ぐずる時のAくんの目的は何か、

解決の糸口となるものはないかを探ることにしました。

 

Aくんは争いごとを好まない温和なおっとりした性質の年中さんです。

Aくんのお母さんが私にAくんについて相談をしていた間も、

傍らで静かに遊んでいて、

話がひと息ついたところで、遠慮がちに笑みを浮かべながら、

「そろそろさぁ、いい?もう……」とだけ口にしました。

「そうね。ごめんごめん。Bくん(いっしょにレッスンをしている子)が

お休みだからお母さんとつい話こんじゃっちゃったわね。

もう話はお終いにして、レッスンにするね」と言うと、

うれしそうに大きくこっくりしました。

 

「Aくん。今日はどんなことがしたい?このところ、ほかのお友だちはどんなことを

していたかな……。そうそう、海賊船を作ったり、迷路を作ったり、光の実験を

したりしていたけれど……」。

私が言い終えるのを待っているようだったAくんは、控えめな口調で、

「あのね、先生、ぼくの話をきいて」と言いました。

Aくんの控えめな頼み方にあわせて、こちらも気持ちを落ち着けて、

「ちゃんと聞くよ。なあに?」と答えると、

Aくんはかばんの中からプラスチックの廃材を取りだして、

「これで、潜水艦が作りたいんだよ」と言いました。

「このところが、くるくる回るようにして、

本当に水の中に潜る潜水艦にするんだ」とのこと。

 

私が、

「潜水艦の見本がいるよね。これに潜水艦の絵が載っていたんじゃないかな……」

と言いつつ何冊か図鑑を引き出すと、

Aくんは、遠慮がちに、「先生、ぼくに選ばせて。自分で探したい」と言いました。

といっても、ピンポイントで潜水艦を探している風ではなく、

科学の図鑑をめくりながら、興味がわいた場面を指さしてはあれこれおしゃべりを

していて、最終的に私が差し出した『大図解21世紀大百科』の

『しんかい6500』を目にして、「それにする」と言いました。

マニピュレーターという深海生物などを採集するためのリモコンの腕の部分に

強く心を引かれたようです。

 

 

工作を始める前、Aくんは、

「あのね、先生。水に入るようにするから、プラスチックじゃないとダメだよ。

紙はダメなんだよ」と言いました。

「ペットボトルやプリンの容器があるよ。そうそう、油の空き容器も

水に濡れても大丈夫な潜水艦が作れるよ。作ったら、お風呂で遊べるね」と言うと、

「ダメだよ。無理だよ。だって、ぼくはまだ咳が出てるからお風呂に入れないから」

とAくん。そういえばマスクをしています。

「それなら、風邪が治ったら、お風呂で遊べるよ。だって、ずっとずっと

風邪引きのままで、ずっとお風呂に入れないわけじゃないでしょう?」

「うん。ずっとじゃないと思う。たぶん」

 

 

Aくんは普段は一から十まで自分で工作する子で、形やサイズなどは気にもとめずに

箱や紙をザクザクと切って思いを形にしています。

今回の潜水艦作りは、子どもには扱いにくい素材ばかりでかなり私が手伝うことに

なりました。

それでも一部始終、自分でやりたいAくんは、

穴を開けたり、ビニールテープで固定したりする部分は私に任せているものの、

どこにどんな形のものをつけるのか、マニュピュレーターはどうやって動かすのか、

スクリューをどうやって回転させるのか、細かいところまでこだわっていました。

途中で、Aくんは母体部分の油の空き容器に小石を入れたがりました。

「石を入れたら水に潜るから」と言うのです。

でも、教室にある小石は空き容器の口より大きくて、苦心して押し込もうとしても

ひとつも入りませんでした。

そこで前回のレッスンで色水を作ってペットボトルに入れた話をして、

「水を入れてみたらどう?口をしっかり封するなら、色つきの水を入れるのも

きれいだし」と言うと、

「水も石と同じみたいに重くなるね」と言ってとても喜んでいました。

 

前回の記事でAくんとわたしとのやり取りでわかるように

Aくんは衝動的で自己中心的な性質ではありません。

周囲の空気を読んで慎重に自分の出方を決める自分を抑えがちな子です。

絵が上手なAくんは、園のお友だちから「○○の絵を描いて」と

頼まれることがよくあって、

もう絵を描くのをやめて遊びたいのだけれど、

絵を描いてって言われるから描いていたら

あんまり遊べなかったとがっかりした様子で口にすることがあるそうです。

 

そんなふうに自分を抑えがちな子が、ある時には手がつけられないほど

大泣きしてみたり、あれもだめこれもだめと駄々をこね続けることは

よくあることです。

普段ストレスを溜め気味なので、神経が疲れきってしまうことも

あるでしょうし、もともと過敏な性質だから、周囲の空気に気にして

慎重に振舞っているとも言えるでしょう。

また、こうしたタイプの子の中には、ちょっとしたきっかけで、

過去の嫌な出来事をどっと思いだしてしまう子もいます。

ですからAくんが寝しなにわざわざけんかをふっかけるような真似をして

それをエスカレートさせていくのは、

身体に溜めこんでしまったネガティブなものを吐きだす必要があって

そうしているのかもしれません。

 

ただ、そうとばかりも言えません。

Aくんは内気で他人に対して遠慮がちな子で、

頼まれごとでは相手にあわすことが多いですが、

その一方で、「自分はこうしたい」というイメージが非常に

はっきりしている子でもあります。

毎回、教室では、多少の反対には屈せず、どんなに手間をかけて説得してでも、

自分の意見を通そうとするAくん姿があります。

Aくんは、「これにする?あれにする?」といった選択肢を提示されることを

好まず、自分の中の「こういうことがしたい」を口にするし、

それはとても独創的で、新しさが感じられるものです。

以前、教室で部屋を暗くして影絵や光の実験をするのが流行った際も、

一番最初に「こういうことがしてみたい」とアイデアの火を灯したのはAくんでした。

日常の中で、Aくんの感受性に「これは面白い!」と響いたものを、

どのようにしたいのか、何が必要なのか、どんな手順でできそうか、

誰に何を頼めばいいのかをじっくり練っていて、

今なら口にしても大丈夫そうだという時に、こんなに物静かな子の中に

よくこれだけ言葉が詰まっていたものだと驚くほど、

ああだこうだと事細かに解説し始めるのです。

 

次回に続きます。

 

 


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