小学校受験は、子どもの成長にとって、とてもリスクが高いチャレンジだと思います。
たとえ上手く合格したとしても、プラス面よりもマイナス面の方が
大きくなる可能性があるのです。
それでも受験をさせたいと希望される親御さんはたくさんいますし、
そうしたご相談をいただいた場合、虹色教室でもそのフォローをしています。
その場合、親御さんといっしょに受験という枠を超えた長いスパンで
その子の成長を考えながら、子どもの個性と長所をしっかり捉えて、
小学校受験をすることによる弊害をできるだけ減らす方向で話し合っています。
不合格だったとき、途中で受験をやめたがったとき、
プリントをするのを拒絶したとき、伸び悩んだとき、
不安や怯え、チック、無気力、攻撃性が強くなるなどの問題が起きたとき、
子どものことを一番に考えて対処できるかどうかといったことも、
とても調子が良いときにもしっかり考えておくテーマだと思っています。
いざ、受験勉強をはじめると、さまざまな問題が起きます。
たとえば、プリント形式のテストは得意だけれど、絵は苦手という子がいます。
そうした子に、「人はこう描くのよ」「木はこんなふうに描くの」
「春の絵ならこんなものをこんなふうに描いて、こういうバランスで配置するのよ」
とお受験に受かるための描き方を教えるのは簡単です。
「丸描いて、チョン~♪」という絵描き歌のイメージで教えたり、
ステレオタイプのお手本の絵を暗記させていけば、
絵が苦手な子も描けるようにはなるのです。
受験向けにそうした指導本やDVDも出ているようです。
受験に合格するためならやむえない……受験する子たちは、みんなしているし……
と考えるかもしれません。
しかし、絵というのは、子どもの心身の発達と深い関わりがあるものなので、
そのような絵の教え方をすることは、子どもの成長の核の部分や創造性の育ちを
壊すことにもなりかねないのです。
「たかが、絵でしょう? そんなオーバーな……」と思うかもしれませんね。
絵の教え方だけの問題ではないのです。
小学校受験を目指した働きかけにおいての、大人の教え方や接し方は、
ひとつ間違うと、後々まで、子どもの成長のバランスを崩してしまうかもしれない
危険を含んだものだと考えているのです。
乳幼児から大人まで、誰もが、「自己の充実を求める気持ち」と
「大事な人と気持を繋ぎ合って安心感を得たい気持ち」の二つの欲求を持っている
と言われています。
これらの二つは、人間が抱える根源的な欲望で、
それらのバランスを取りながら、人の思いや行動が生まれてきます。
「自己の充実を求める気持ち」は、「私は私」という心で、
自分の思いを表現したり、自分らしくあることを望んでいます。
その気持ちの中で、自己肯定感と自信が育まれ、
アイデンティティーの自覚に通じているそうです。自己を表出する心です。
「大事な人と気持ちを繋ぎ合って安心感を得たい気持ち」は、
「私は私たち」という心で、相手の気持ちに気づき、認め、周囲の人を主体として
受け止める心です。その気持ちの中で、信頼感と許容する気持ちが育まれます。
周囲と共に生きる心です。
絵は、子どもの内側からの衝動から生まれてきます。
それは自分自身を表現する行為だし、
自由や自分らしさを周囲の人々に宣言する行為でもあります。
でも、そうした創造的な活動が、
最初のスタート地点から、評価を目的とした「教える」ものだとすると、
「私は私」という心を表現する機会を失って、
「これをしなさい」「あれをしなさい」と指示を出してくる大人の願望を
実行していくのが子どもの生となってしまうのです。
ですから、もし小学校受験をさせることを決めたのなら、
がむしゃらに合格を目指して邁進するのではなくて、
子どもの「自己の充実を求める気持ち」と
「大事な人と気持ちを繋ぎ合って安心感を得たい気持ち」が
バランスを崩したり、抑圧されたりしていないか細心の注意をしながら、
自然に愛情をこめて、遊び心をたくさん取り入れながら
受験の準備を進めていく必要があるのではないでしょうか。
他の子の進み具合を見て、心を乱されないよう自分のエゴに気をつけて、
もし受験がうまくいかなくても、子どもにとって、「やってみてよかった」という
すがすがしい思いが残るようにする義務が、
まだ生まれて数年しか経っていない子に受験を強いる親には
課せられると思っています。
(一部に『子どもは育てられて育つ 関係発達の世代間循環を考える』
鯨岡峻 慶応義塾大学出版会 を参照しています)
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<四方からの観察>
今日は年長さんたちのグループレッスンでした。
小学校受験を予定している子たちなので、受験問題から、それぞれの子が苦手な
分野を学びました。
正面、背後、右横、左横からの見え方を推理する問題です。
最初、子どもたちは、どの位置からの見え方も、
自分が見ている正面からの見え方と同じだと考えていました。
そこで、紙箱の4面にのぞき穴を作って、
4面からの見え方の違いを体験してもらいました。
すると、それまで、「わからない」と言っていた子たちも、
しっかり理解することができました。
子どもにとって、『しほうからのかんさつ』の問題は、実物を見せて教えても、
ピンとこないことが多いのです。
横からの見え方を教えていても、本人はどの位置のときも、
上から見ているということもあるのです。
ですから、箱に穴を開けて、見える範囲を狭くすると、
たちまち、すんなり理解する場合があります。
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<歯車の問題>
「一方のはぐるまを赤いやじるしの方向(時計回り)に回すと、
もうひとつのはぐるまは、どのような回り方をするか?」という問題。
応用は、いくつかのはぐるまを並べて、回り方を考えます。
実際、手を使って回しながら、
「あっ引っ張られる~」とか、「髪の毛を引っ張ったらイタイイタイ!」などと、
歯車を擬人化して回るときの様子を表現すると、すんなり理解する子たちがいます。
歯車は、紙皿を何枚か重ねて、外側を切り抜いて作っています。