お母さんに離れていていただいて★くんと過ごすうちに、★くんのさまざまな面が見えてきました。
★くんは手洗い場でも窓辺でも少し高い位置に台があると腕の力だけでヒョイッと上ろうとし、危ないからやめるように注意しても聞こえないふりをする癖があります。
危険な場所でそれをすることや注意を無視するところは問題なのですが、身体の使い方はしっかりしていて機敏な上、注意力や集中力も申し分ないことが見て取れました。
つまり鉄棒などの器械運動の道具を使わせるとすると、注意力にしろ身体の動かし方にしろ、怪我をするような危なっかしいことはしないはずなのです。
また自分にちょうどいいチャレンジしがいのある課題を見つける力があるようだし、とても意欲的でもあるのです。
また★くんは「自分の頭で閃いた!」というアイデアを実行する時は、思いを言葉にしたり、頭で考えたりするのに熱心でした。
たとえば空気圧の水鉄砲を作った時も、その吹き方を工夫したり、吹き出した水で「けんけんぱ」の輪を描くアイデアを実行したりしていました。
★くんはおそらく外向直観型の感情寄りの子か外向感情型の直観寄りの子だと思われます。
普段は、頭を使うような場面を避けたがったり、言葉を使って表現するのをまどろっこしそうにする一方で、それまでにないアイデアを思いついた時には、目をキラキラさせて言いたいことがたくさんある様子なのです。
シャボン玉用のさまざまな道具を作って遊んでいた時も、「袋の端を切ってシャボン玉を作る道具にする」といった奇想天外なアイデアが★くんを惹きつけていました。
(写真は別のお友だち)
また食事の時には、珍しい仕掛けのマーガリンんとジャムの容器に大喜びで、「これをパキッと折るとマーガリンとジャムがいっしょに出てくるんだよ」と周囲の子に説明していました。
「本当?知らなかったわ。先生のもしてくれる?」とたのむと、誇らしそうに、わたしのマーガリンとジャムを出してくれました。
レッスン中の★くんは、他の子たちが熱中している課題に参加したがらず、わたしの問いに答えるのも嫌がっていました。
「どうして?」「どれがやりたい?」といった質問にも答えずに、会話が続かないことも多々ありました。
お母さんとの間でも、じっくりとひとつの興味を追うように会話を続けることはなく、要求だけ出して、お母さんの話は聞かない、という態度も多々ありました。
そうした★くんの態度を見ると、「自己内対話」をせずに、反射的に好き勝手に振舞っているように見えます。
が、★くんとわたしのふたりで過ごしている時、★くんは気にいらないことがあって、一度無視するようなことがあっても、こちらが黙って待っているだけで、自分で決意してきちんと自分のするべきことをやっていたのです。
ですから、★くんは、今まさに「自己内対話」を鍛えている真っ最中で、葛藤の渦中にあると言えるのでしょう。
ただ★くんのお母さんは、母親として★くんを受容して愛情を注ぐことに気を取られて、★くんの内面で「自我」と「第二の自我」が戦っている最中に即座に「自我」の要求を満たしてしまって、
★くんのなかで育ちつつある「規範的自我」や「理想的自我」を、親子で共有していく大切さに気づいておられないようにも見えました。
★くんのお母さんは、心をこめて、★くんの発するものを受け止めようとしています。
でも、受け止めると同時に方向づける、という点で、言葉の世界で「社会的存在として自分がどう行動すべきか」を★くんと共有していく過程を省略しがちなように見えました。