雪組「蒼穹の昴」

2022-10-30 20:00:11 | TAKARAZUKA
深読みしなければ普通に良い作品だと思うが、政治的背景を鑑みると日本に亡命することは果たして幸せだったのだろうか…と思ってしまった。

ま、中華民国の創始者孫文も日本に亡命していたことを考えると、咲ちゃん演じる粱文秀は、孫文をモデルにしているとも言えるね。あ、きっとそうなのかもしれんね。←めちゃ適当…(汗)


ということで、雪組公演を観てきました。

冠が付いていないのに、めちゃめちゃ豪華な舞台美術に衣装。昴の星の宿命と孔子の教えに導かれた主人公達の数奇な運命。歴史の歯車に翻弄される登場人物たちの運命を短い時間で描かれた大スペクタクル作品でした!

昴の星の宿命に導かれるまま出世していく咲ちゃん演じる文秀と、昴の星の宿命が偽りだと気付きながらもチャンスを物にして出世していくアーサ演じる春児。

対照的な二人の生き様を描きつつも、西太后、光緒帝、李鴻章、袁世凱といった中国史において欠かせない登場人物の運命も描かれており、世界史のおさらいが出来て楽しめました。っていうか、Wikipediaで検索して勉強することもあった。

西太后を悪女に描いていないのはとても斬新でしたね。というか、ミュージカル「エリザベート」のゾフィもなんだかんだで悪女には描かれてないもんね。

ま、それよりも、

全体的には、生きる、生き続けることがテーマだとは思うが、ぶっちゃけ、日清戦争や日露戦争で勝利し、調子に乗りまくっていた日本の政治的背景を想像すると、ラストは果たしてハッピーエンドなのだろうか…と思ってしまったが、孫文が中華民国建国前に日本に亡命していたことを考えるとめちゃめちゃ腑に落ちた。

と同時に、光緒帝と西太后の時代からラストエンペラーの愛新覚羅溥儀の運命であったり、裏切り者のレッテルを貼られている袁世凱の生き様(Wikipedia参照のこと)にも繋がる展開でもあったので、内容としては悪くないが、なんだか日本を美化し過ぎているようにも感じてならなかった。

まあね、中華民国建国に繋がる物語だと思うので、史実上間違ってはいないと思うが、清国のラストエンペラーである宣統帝の溥儀が退位し、後々、溥儀を利用して満州国を建国した日本のことを思うと、なんだかな〜…とはついつい思ってしまう。

そもそも、縣千君演じる光緒帝がめちゃくちゃ溥儀の人生と被るので余計穿った見方で観てしまっていた。

ぶっちゃけ、それこそ、本作品同様、日本のジャーナリズムを登場させていた植田御大の「紫禁城の落日」は、政治的依怙贔屓を感じさせない見せ方だったので御大の思想に共感してしまった。

だからといって、原田先生や原作者の浅田次郎さんが嫌いと言っているわけではないので悪しからず。

ま、早い話が、歴史を知らない方が素直に楽しめる作品であると言いたいだけです。

歴史的背景を知った方が楽しめるのか?知らない方が楽しめるのかは正直判断しかねますが、

原作ありきの作品ではあるものの、コンパクトにまとめられていると原田先生の手腕に感服しています。

噂通りあまり娘役には活躍の場は少ないものの、代わりに男役はめちゃくちゃ活躍の場が多くて見応えがありました。

主人公の文秀演じる咲ちゃんの秀才ぶりは見た目通りで素晴らしい。ただ、第一部の文秀は文句なく良い人なんだけど、第二部の文秀がやろとしていることは、決して良いことだとも言えないのも正直なところ。やろうとしていることは、結局マリンさん演じる栄禄やマナハル君演じる袁世凱と変わらない。それで日本に亡命って…。モヤモヤする。ま、原作を読んでいないのでなんとも言えないが。

文秀が孫文のモデルであるならば、腑に落ちるが…。

って考えると、アーサ演じる春児と希和ちゃん演じる玲玲の兄妹の存在が唯一の救いになった。

春児もまた昴の星の宿命に翻弄されながらもチャンスを手にして出世していくが、心は貧しい子供の頃と変わらない。

玲玲もまた成長しても昔のままピュアな心を持っている。希和ちゃんの出番は少ないが、希和ちゃんのシーンは、あの政治改革を目指す野郎社会の重たい空気の中で唯一の心安らぐ時間だった。

私にとっては、この二人と諏訪さきちゃん演じる嗣同の存在が唯一の癒やしだった。

アーサ演じる春児がまたピュア過ぎてラストは泣けた。野心があるように見せかけておいて最後までピュアな青年のままだったのも癒やしであり救いでもあった。

それにしても、春児や文秀、そして玲玲にあんな台詞を言わせるなんて!原田先生エライ!!

ここに賛否両論があると思ったが、いやいやいやいや、綺麗事で話を進めない原田先生の決断は素晴らしいと思ったよ。

光緒帝を演じた縣君がめちゃくちゃ素晴らしい!

シティハンターの海坊主が嘘なくらい、幼少期から政治の渦に巻き込まれ翻弄された光緒帝を見事に演じられていました。

とっても純粋に光緒帝を演じられていて、彼の存在が後々の溥儀の運命に繋がる役作りだったので、歴史の歯車を感じる素晴らしい演技でした!

カチャ演じる光緒帝も、出番は少ないが見せ場があってカッコ良かった!

全ツ主演おめでとう!カチャが星組でトップになるとは思ってはいないが、どこかの組でトップになって欲しい!その時は、「ポーの一族」の再演または続編をやって欲しい。さゆみ氏のエドガーに対抗できるのはカチャしかいない!

西太后のヒロさん。ぶっちゃけ、男役にしか見えなかった。声的にはいっちゃんさんが適任だとは思ったが、ま、ヒロさんかの白太太はないな。でも、悪女で名高い西太后ではあるが、光緒帝を想う気持ちや国を憂う気持ちを母のように表現されていたのは素晴らしかった。

そら君がめちゃくちゃカッコ良くてビックリした!最初から最期まで西太后に対して復讐心でいっぱいな役をカッコ良く演じられてました。

いやー、忠兵衛が嘘なくらいええ声やった!ま、確かに、ええ声の忠兵衛はリアルじゃなかったかもね。

マリンさんの見事な悪役ぶり。マナハル君の腹黒い演技も上手かった!

諏訪さきちゃんもしかり、たとえ出番は少なくても、決して周りに埋もれることなく存在していて、芝居の雪組の底力を味わいました。

そうそう、天月翼君も素晴らしかった!専科並みの演技だった。

一人一人、本当に際立ってた!

ゆうちゃんさんの伊藤博文、めちゃくちゃリアル!必見!!

ブロマイド買うべきやった…。

謎の美女ミセス・チャン役のあやちゃん。大劇場では可愛い役ばかりで物足りなさがありましたが、今回は大人な役。やっぱ、あやちゃんは大人の役が似合う!「ボニー&クライド」が楽しみ!チケット取れますように!

今回、娘役の中で、希和ちゃんとあやちゃん以外で際立っていたのが、音彩唯ちゃん。ぶっちゃけトップオーラがあった!これから注目させて頂きます!

最後に、

この作品で希和ちゃんが卒業されます。出番が少なくて非常に残念ではありますが、今回の玲玲は、今までのような男勝りではないピュアな娘役像で、少女から大人へと成長する過程を丁寧に演じられていました。

前にも書きましたが、希和ちゃんの役は、男社会の中で唯一の癒やしの存在でした。それは決して忘れられない存在です。何年か経ってスカステで放送されても観る者にとっては貴重な存在になっていると確信しています。

シティハンターの槇村香役は、希和ちゃんにしか演じられない、役者魂を感じる見事な役作りでした。

世間に言わせれば、希和ちゃんがトップなったことは奇跡だったのかもしれないけど、私には必然だと思っています。若い娘役だけがトップになるなんて夢がなさすぎです。頑張ってさえいれば、新人公演を卒業しても娘役トップになれるチャンスがあることを希和ちゃんが証明してくれました。

あと大劇場公演数日と東宝公演。お芝居のラストの衣装とショーのデュエダンの衣装を着ているときの希和ちゃんの目が、とてもキラキラ輝いてとても印象に残る美しいシーンとして焼き付いています。

東宝のお客様にも同じように思ってもらえると確信しているので、最後まで娘役として輝き続けて下さい!