竹原BLOG:奈良民話祭り ― グリム童話・メルヘン・語りの文化 とっておきの話。 

夏の奈良民話祭り:8月5日(金)午後3時より奈良町物語館で4回公演!
奈良燈花会に行きがてら、ぜひ来てくださいね!

大野寿子編『超域する異界』(勉誠出版)が刊行されました!

2013年02月09日 | 日記
私は東洋大学の客員研究員をしておりますが、
同大学の大野寿子先生を研究代表者とする2009~11年度の科研費による共同研究
「超域する「異界」―異文化研究・国語教育・エコロジー教育の架け橋として―」の成果発表の一つです。

まず、本を装丁を見てください。



すごく、奇抜な装丁です。

本体の表面には、「異界」を象徴する絵が描かれていて、書名は背面にあります。
写真の右手にあるのが表紙カバーです。ここには、以下のキャッチ・コピーが載っています。

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なぜ人間は異界を語るのか――

国境を超え時間的制約を逃れ、人間の日常および精神生活の裏、奥、外
に必要不可欠な空間領域として想像される「異界」― the other world ―。
その諸相を、グリム童話から日本の民話、ドイツ・中国・日本における
文学・音楽・絵画表象、言語学からコミュニケーション研究に至るまで、
空間、時間、学術分野の境界を超え、「超域」的に考察する。洋の東西を
問わず、古代から現代に至るまで、人間の精神文化のなかに表現やかたち
を変えながら偏在する「異なるもの」の多面的価値を浮き彫りにする。
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表紙カバーの裏面には下記の「目次」が載っています。

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序章 異界を超域する試み 大野寿子

第一章 西洋における伝統的な異界とその表現―ドイツ伝承文学・比較民話学・音楽学―
 民話における「異界」との交流を可能とする仕掛け 竹原威滋
 ドイツの民間伝承における異界と異人 溝井裕一
 『グリム童話』における「異界」―死者の化身と死者世界をめぐる一考察― 大野寿子
 グスタフ・マーラーにみる「異界」と越境の音楽表現 山本まり子

第二章 東洋における伝統的な異界とその表現―中国古典文学・日本近世文学・美術史―
 洞天の風景―神仙グロットの地誌― 山田利明
 黄表紙における異界表象―山東京伝『箱入娘面屋人魚』を例として― 松岡芳恵
 弥次喜多の旅は異界への旅か―『東海道中膝栗毛』の一つの読み方― 中山尚夫
 描かれた「異界」―江戸時代絵画と異界表現― 藤澤紫

第三章 近現代の日本における総合体としての異界とその表現
    ―日本語学と日本文学の一九―二一世紀―
 句から語へ―「魔ヲ使フ女」から「魔女」への移行を一例として― 木村一
 歴史と「異界」の交錯―中里介山「夢殿」論― 早川芳枝
 現代日本文学における「異界」の諸相
 ―村上春樹から現代ホラー小説、家族小説、戦争文学まで― 石田仁志

第四章 現代日本における異界思想とその超域―言説史・社会言語学・文化原理考想―
 「異界」の諸相―語誌の展開をめぐって― 池原陽斉
 「異なものとの交流」としての異文化コミュニケーション 渡辺学
 超域する「異界」とは何か?―Meta2の冒険― 高橋吉文

おわりに 大野寿子
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私は、第一章の最初に書かせていただきました。

梅花女子大の大学院の授業でグリム童話「いのちの水」のヨーロッパの類話を比較考察した
その苦労の成果でもあります。
(論文の末部の「追記」で一緒に調べて、作表してくれた大学院生に謝辞を述べてあります)

日本の類話は「なら梨取り」です。表2と図2だけでも見てください。
苦労して作図しました。



これは、ヨーロッパの民話における「異界」との交流を可能とする仕掛けを図式化したものです。

ヨーロッパ人は、異界に命の水を取りに行く話を語るとき、世界の果てに在る異界に何日もかけて旅をする。
途中で助言者に会い、魔法の運搬手段を手に入れ、人工的なお城、一時間だけ開くお城、魔法や呪いをかけられた城へ辿り着く。
その城にはライオン(竜、魔女)が番をしており、魔法の贈り物を用いて(外魂を壊すことにより)退治する。
ライオンがなぜか美しい王女の見張りをしている。一時間という時間制限の中で城の中庭の泉から命の水を手に入れる。

一度、本書を手にとって見ていただけると、ありがたいです。