壁際椿事の「あるくみるきく」

東京都内在住の50代男性。宜しくお願いします。

『デフレの正体』、なるほど!

2010年12月21日 | 読書(文芸、フィクションほか)


『デフレの正体―経済は「人口の波」で動く』(藻谷浩介著、角川oneテーマ21新書)を読みました。テレビでも大活躍のジャーナリスト、池上彰さんが大絶賛している本です。確かに面白かった。

経済学の教科書を読んで、モヤモヤしている頭の中を、スッキリしてくれました。他の経済学者を批判する口調は余計と感じましたが、「富裕な高齢者の抱える資産を消費に向かわせよ」との指摘で、「オレオレ詐欺だけにこの市場を開拓させておくというのは、余りに惜しいことです」(引用)と述べるなど、ユーモア(?)もあり、飽きさせません。一気に読み切りました。

要点は、人口、特に生産年齢人口(15~65歳)(この年齢は現役世代であり、消費が旺盛な層でもある)の増減によって、景気(内需)は変動する、ということです。一般的な景気指標とされる、企業の設備投資や在庫投資、公共政策、貿易収支などは、人口の波に比べれば枝葉に過ぎない。これら指標をいわゆる波とすれば、人口の波とは潮の干満のようなもの。上げ潮時の波は勢いがあり(人口ボーナス)、下げ潮時の波は勢いがない(人口オーナス)。日本は、2000年の歴史にして初めて迎える、現役世代減少社会に突入した、というのです。

事実、いざなぎ景気は、団塊の世代が就業し、新たな消費者として社会に参加し始めたころ。バブル経済は、団塊の世代が住宅取得適齢期にさしかかったころ。時点をずらして同じグラフを掲載しているのは、定点観測しているみたいで、変化が一目瞭然です。なるほど。

ひょっとして、国境や県境は、半透膜でないか。そんなことを思いました。半透膜とは、濃度の異なる液を、この膜でへだてると、長期的には膜を通して濃度が均一になる。しかし一方に圧力をかけると、そちらは濃度を濃いまま保てる。何層にもして圧力を一層かけると、反対側を真水にまでしてしまえる。そんな膜です。

例えば教育水準、例えば資本蓄積、例えばノウハウの秘匿、そんな圧力で自国の富を守ってきた先進国も、グローバル化の時代には国を開かざるを得ない。国境を越え、資本も情報も人も移動する時代です。いわば、コーヒーカップ内の溶けない角砂糖のように先進国に集中していた富が、溶け広がってカップ内に行き渡る。ただし、ダマ状態だというのは、同じ国内でも日本にワーキングプアがいたり、中国に富裕層がいることを見れば明らかでしょう。少しの凸凹を伴いつつもフラット化するのは、地球の宿命なのか。たぶん、そうなのでしょう。

この本には、経営指標を見るとき、失業率など「率」より、絶対数を見ることが大切だ、ということも学びました。例えば、生産年齢増加時(例えば、団塊の世代の学卒時)は、一気に求職者が増えるわけですから、職に就けない人が増え失業率がグンと上がるが、それ以上に就業する人の絶対数も増えている、というのです。そんな時代は、失業率が高いからといって、不景気ではない。確かにその通りでしょう。

論より証拠、まず読まれることをお勧めします。霞が関や永田町の住人に、ぜひ読んでもらいたいと思いました。