壁際椿事の「あるくみるきく」

東京都内在住の50代男性。宜しくお願いします。

permanently closed

2012年03月29日 | みる

今日の午後、仕事で渋谷に行きました。ついでなので、早めに出かけ、電力館に寄りました。電力館とは、IH調理器や原発などの広報をする、東京電力の体験型施設です。まだ子どもが小さい頃、雨の日など外で遊べないので、電車に数駅ゆられ、利用したことがあります。IH調理器でクッキー焼き体験などができたから。

ある程度は予想していましたが、閉鎖されていました。緑色のプラスチック網で囲いがしてあり、日英両語で「5月31日で閉館」「カメラ監視中」「24時間警備員巡回中」と掲示がありました。通りには大勢の人が歩いていましたが、建物に人気はなし。寒々しい雰囲気です。閉館は10カ月ほど前でした。英語表示は、休館を「permanently closed」としてました。

雑誌の発行を止める場合、休刊といいます。廃刊とはいいません。いずれ予算が取れ、スタッフが集まり、機が熟したら再刊するという願いを込め、実際は廃刊かもしれませんが休刊というのです。慣行ともいえます。

permanently(永遠に)です。なぜ、この一単語を加えたんでしょう。誰が、どんな意味を込めたんでしょう。電力館が再開されることはないのでしょうか。たぶんないでしょう。

ほんの数分、立ち止まり、仕事の目的地へと急ぎました。


『日本を滅ぼす電力腐敗』(三宅勝久著、新人物往来社)

2012年03月29日 | よむ

『日本を滅ぼす電力腐敗』(三宅勝久著、新人物往来社)を読書中です。電力会社と、それら企業へ天下りした役人や政治家とその経歴を、実名を挙げて詳細に調べ上げています。人の異動に焦点を当てた企画が、ユニークかつ斬新、そして効果的です。書中、個人名がゴシック体にしてある。ここからも著者や編集者の工夫が読み取れます。

マスコミ報道では、K俣・東京電力会長や、班M・原子力安全委員会委員長など、今回の事故(事件?)で象徴的な人物が取り上げられます。そして、世間の目も、そちらに引き付けられ、ほかへ向くことは少ない。これでは、いけないんじゃないでしょうか。同書には、市民の目の届かないところで、誰がどんな行動をしていたか。それがつまびらかです。

著者は正直です。3・11後、多くのフリージャーナリストが東北へ向かったが、自分は放射能汚染が怖く、故郷・岡山へ向かったと告白している。そして遠隔地から、ネット上の公開情報のなかから、大切な事実を拾い上げる。

「インテリジェンスで大切な情報というと、何か極秘めいたもののようだが、じつは9割方は公開されたもの。必要なのは目利きだ」。こんな趣旨のことを、元外務省職員の佐藤優さんが書かれていました。同書は、まさに公開された膨大な情報の海から真実をすくい上げる作業。地道で根気のいる仕事だったと思います。

著者は、天下りの当事者の所在も調べ、電話取材するのですが、そのやり取りも興味深い。「先輩もそうして来た、(天下りという)役得があって当然」というスタンスなんですね。

著者は言います。「天下りという『合法的』な形で億単位のカネを電力会社からもらい続ける官僚がいる。そして(中略)自分たちがごり押しした原発がいかに国民を脅かそうとも責任を追及されることはない。」(P99より引用)

官僚だけでなく、判事(裁判官)も公務員を定年後、電力会社や原子炉メーカーに再就職した人がいます。これで「公正な判断」が下せたと胸を張って言えるのでしょうか? ノブレスオブリージュ、李下不正冠、瓜田不入沓の精神は、リーダーに最低限必要な資質なんじゃないでしょうか?

とても興味深い内容で、集中して一気読みしてしまいました。

が、わたし自身も反省しなければなりません。総理大臣や東京都知事の名前と顔ほどには、読後、書中に出てきた人物の名前を覚えていない。輪郭の曖昧な権力者にも、市民はもっと関心を寄せるべきだと思いました。



『乱気流』(高杉良)下巻

2012年03月28日 | よむ

『乱気流』(高杉良)下巻を読みました。下巻は、現実の日本経済新聞の子会社、TCワークスをめぐる不正経理問題を扱っています。小説中は、日本経済産業新聞(日経産)、子会社はKSコーポレーションとなっています。

ほとんどの登場人物と法人が、実在の人物と類似した名前を付けられています。例えば法人だと、リクルートがリクエストだったりします。実在の日経社長、鶴田卓彦は、小説中では誰か? 興味深々で読み進めました。冒頭に登場する野林か? でも名前が類似してないぞ。次の社長、宇野光治郎か? 鶴田と宇野は全く違いますが、文脈上、そのようです。

何かで、「乱気流の亀田光治郎は、日経の鶴田社長をモデルとしている」と読んだことがあります。鶴田と亀田。これは似ています。

(以下、佐高信氏の解説より)
この小説は日本経済新聞社元社長の鶴田卓彦と同社元専務の島田昌幸から名誉毀損で訴えられた。版元の講談社と高杉良に対する出版差し止めと約1億円の損害賠償を求める民事訴訟に対し、東京地方裁判所で判決が下されたのは2007年の4月11日。

翌日付の新聞は、(中略)「高杉良氏側に賠償命令」(日経)などと報じ、一見、鶴田側が勝ったかのような印象を与えた。

しかし、1億円が470万円となり、裁判費用の負担割合が、鶴田側が19/。20で、高杉側が1/20であることからも、そうでないことがわかるだろう。高杉は『朝日』に「経済小説の本質は(裁判所に)理解していただいた。信念と創作に向かう姿勢はいささかも揺らぐことはありません」という談話を発表している。(後略)

小説が、現実世界で裁判沙汰になってたんですね。それで、さすがに「亀田は露骨だろう」ということで、文庫化に当たり「宇野」になったのかもしれません。『週刊現代』連載時や、単行本は、どうだったのだろう? 小説の本論とは多いにズレますが、興味のあるところです。

小説は、あくまで主人公は、倉本や萩原、佐竹ら現場のミドル層です。彼らが「鯛がそうであるように腐り始めた頭」に対して、自浄ののろしを上げる。宇野は、萩原を懲戒解雇、萩原は社員たる地位保全を求めて東京地裁に提訴、と小説は行きも尽かさぬ緊迫の展開を続けます。「水戸黄門」ではありませんが、敵が悪であればあるほど、ドラマは面白くなりますね。

なかなか面白い小説でした。いわゆるホワイトカラー、ビジネスパーソンとならんとする大学生は、よい意味でも悪い例を知るためにも、高杉良の小説を読むべきなんじゃないでしょうか。

不審な自動音声電話

2012年03月27日 | かんじる

3月27日(火)午後、事務所の電話が鳴ったので、出ました。
「こちら○○○○サービス(いきなりなので、社名を聞き取れなかった)でございます。電気料金値上げのアンケートです。値上げに賛成の方は1を、値上げに反対の方は2をプッシュしてください」

テープの音声でした。なにか怪しげなので、プッシュせず、切りました。

それにしても、疑問です。
1)ぼくが聞き漏らしたのも悪いですが、電話の主は、どこの誰でしょう?(自動音声だから復唱を依頼できなかった)

2)なぜ、この小さな事務所に、こんな電話が、しかも自動音声で掛かってきたのか?

3)そもそも、値上げに賛成の人なんていないでしょう。事情が事情だからやむなく受け入れる人はいても(進んで)賛成という人はいない。アンケート項目が不適切といわざるを得ません。こんな作為的なアンケート集計を取って、どうするつもりでしょうか。

その数時間後、事務所の別の電話のベルが鳴りました。出た仲間によると、また「訳の分からない、音声テープだった」と言っていました。彼は、すぐ電話を切りました。

いつも利用している図書館で、返却期限が過ぎると返却催促ハガキが来ます。そのサービスが中止され、代わりに「自動電話連絡サービス」での督促が始まるそうです。たった今、図書館のホームページを見て知りました。

2件は実際に自動音声電話を受け、1件はその告知を見ました。電話会社が新しいサービスを始め、利用が広がっているのでしょうか?

●まとめ●
こちらから掛けて自動音声で案内されるのはまだしも、掛かってきた電話で、いきなり自動音声だとビックリしますね。先にも触れたように、復唱してもらえず、電話の主を確認できない場合もある。要するに、電話を受ける人に、大いに不審感を与えてしまいます。

用途としては、アンケート取り、図書館の返却本の催促のほか、国民年金未納者への催促なども考えられますが、果たして、自動音声の説明(説得?)で収める気になるでしょうか? 単に「催促しました」というアリバイ作りに過ぎない気がします。

こんなサービスに、実質的な意味があるのでしょうか? 今後、このサービスが広く普及するとはとても思えませんが、どうでしょう。


『ホットスポット ネットワークでつくる放射能汚染地図』(NHK/ETV特別取材班)

2012年03月27日 | よむ

『ホットスポット ネットワークでつくる放射能汚染地図』(講談社)を読みました。著者は、NHKのETV特別取材班の面々です。

テレビ番組は見ました。とても緊迫感があり、びっくりしたことを覚えています。ただ、木村真三さんや岡野眞治さんという科学者が番組に出てくる理由が分からなかった。この方々をぼくが知らなかったため、唐突感があったのです。

今回、この本を読んで、3・11以前から、チェルノブイリ取材などでNHKのディレクター陣と協力関係にあった科学者だと理解できました。ドキュメンタリストにとって、日頃からの人脈、ネットワークがいかに大切か。よく分かりました。

この本は、その番組制作の舞台裏が綴られています。立ち入り規制されるか否かのドタバタ時に、現場取材を素早く敢行したこと。原発の敷地の正門まで行っています。勤務先に辞表を出し、すぐさま取材クルーに合流する科学者、木村さんの行動力。上層部の意向で、お蔵入りの危険もあった番組の運命。岡野博士の逞しくしなやかな科学者魂……。

ドキュメンタリストを目指す方は、必読書だと思います。

以下、メモです。長いし、整理できていない断片なので、時間のない方は飛ばしてください。(引用元の漢数字は、算用数字にしています)

「3月15日、福島原発から最も多くの放射性物質が放出され北西方向に飛散したときも、SPEEDIはそれを予測計算ではじき出した。しかし政府は被災地に伝えなかった。その結果、浪江町や南相馬市の住民たちは、まさに放射性物質が向かう方向へ避難することになってしまった。その先の飯館村では、避難民を受け入れるために村民が何も知らずに屋外で炊き出しを行っていた。せめて拡散の方角だけでも伝えていれば、住民の被ばくはどれだけ避けられたことか。」(引用)

炊き出しですよ、炊き出し。知っていて知らせないのは、本当に罪深い。

「取材チームに加わったメンバーは私(増田秀樹)も含めこれまで科学的視点よりも歴史的視点でドキュメンタリーを制作してきた者が多い。」

何か理由があるのでしょうか? 興味深いです。

「水に溺れた時、深さの見当がつかない時こそパニックは起こる。(中略)命に関わる情報を独占してきた政府と一般国民の隔絶という国の矛盾まで浮き彫りにしている。」

まさに。知っているのなら、言って欲しいですよね。水深1メートルですよ、とは言えるけど、30メートルですよ、とはパニックになるから、言えない。これが政府の姿勢です。悲しすぎます。

ガソリン不足のときです。あえて燃費のいいハイブリッド車のレンタカーを借りて30㎞圏に入るとか、無人の村で、夕刻に窓辺の灯をたよりに、人の残った家を特定するとか、臨機応変さも興味深いです。

先日読んだ『権力にダマされないための事件報道の見方』の、元読売記者の大谷昭宏さんもそうですが、「組織内ジャーナリスト」というのは、組織の誘惑があるだけに、微妙な立場に置かれます。NHKも同様のようです。

大谷さんは何度もルールを破り、記者クラブに立ち入り禁止されたとか。この本の七沢潔さんはチェルノブイリ取材などの経験があり、原発についてはNHKきっての事情通ですが、なぜか、放送文化研究所の(閑職?)に追いやられていた。今回の原発事故で、半ば勝手に現場復帰したわけです。「私を気持ちよく現場取材に出してくれた放送文化研究所の○○所長、○○部長にもお礼申し上げる。」(あとがきより)。事後であり、番組が評価されたからこそ言える言葉ですね。もし、急性被ばくでもしていたら、言えない。でも、そんなことを考えず、とにかく現場に出て行ったのでしょう。ドキュメンタリスト魂を感じます。

この辺、番組作りもさることながら、組織と個人という観点からも読み応えのある内容の本です。

「福島出身の音声照明担当、折笠慶輔さんが登場されます。「彼の育った福島市では、小学生のころから社会科の課外授業で原発の安全性を植えつけるビデオを見せられていたそうで、(中略)今でもビデオの中で流されたフレーズ『厚さ60センチメートルのコンクリートの壁に守られて……』云々のくだりは暗唱できるくらいである。」

おお、これって教育勅語みたいなもんじゃないですか。恐るべし、パブリック・アクセプタンスです。

最後に2つ。「ネットワークでつくる」のネットワークとは、3つあります。1つは、科学者同士のネットワーク。現地での測定や土壌の採取は木村さんとNHKのスタッフが担いましたが、土壌の解析は京都大、広島大、長崎大、金沢大の科学者が分担しています。相互に測定し合い、誤差を少なくする工夫もされているようです。

もう1つは、NHKのドキュメンタリー制作者の代々の歴史(縦のネットワーク)です。以前読んだ『仮説の検証』の小出五郎さんも、こうしたネットワークにつながる人なんでしょうね。

最後は視聴者のネットワークです。この番組は、お蔵入りの危険があった。でも、一つ前に作った、ETV特集「原発災害の地にて 対談 玄侑宗久・吉岡忍」という番組の反響が大きく、ネットで話題になり、「その結果、それまで私たちの行動を非難していた局幹部の態度が変わり、『ネットワークでつくる放射能汚染地図』の制作に正式にゴーサインが出たのだ。」(引用)。ブログなどソーシャルメディアを通じて、ドキュメントの作り手と受け手がつながった、というわけです。

ラストの1つ。執筆者プロフィールで、8章を担当した渡辺考さん。「ミクロネシア連邦ヤップ放送局、ETV特集班などを経て、現在大型企画開発センター所属。」とありります。ヤップ放送局だなんて……。恐るべし、NHKの取材網ですね。

長くなりました。失礼します。