壁際椿事の「あるくみるきく」

東京都内在住の50代男性。宜しくお願いします。

『わしの眼は十年先が見える』(城山三郎著)読後記

2013年05月31日 | よむ

『わしの眼は十年先が見える』(城山三郎著)を読んでいます。

CSRも社会起業も、メセナという概念すらない時代。明治から大正、昭和にかけて、時代を先取りして活躍した経済人、大原孫三郎の評伝小説です。

彼は、倉敷紡績(クラボウ)や倉敷レーヨン(クラレ)の社長を務めながら、一方で、孤児院を運営する石井十次に財政的支援をした。大原美術館をつくり、美術品を収集した。国家主義に傾斜する時代にあって社会科学の研究所をつくり、研究費を気前よく出した。研究者を洋行させもした。600町歩の土地の200町歩を提供し、農業研究所をつくった。東洋一を目指した大病院を作った……。すごい社会事業家なんです。

扁額には「自得」の文字。自得せよ。自業自得というと、悪い印象を受けるけど、そうでない。自らの行いが自らに帰ってくること。だから「自得」。

でも、いま辞書を引くと、仏教語で、悪い行いの報いとある。やはり悪いことなのでしょうか。

孫三郎は、10代後半、生まれ育った倉敷から東京に遊学中、取り巻きにたかられて借金を作ります。その額は、1万5000円(現在の価値で10億円を超す!)。それを尻拭いするわけですから、大原家の財産たるや、すごい。

青年期の孫三郎は、そんな屈折した心を持ちます。資産家の家に生まれた運命を恨む。が、長じるにしたがい、しっかりした経営者になります。いろいろな社会事業に首を突っ込みますが、一本筋が通っている。

倉敷紡績は、紡績の会社です。新規事業で、人絹(人造絹糸=レーヨン)に乗り出します。「倉紡の役員会にはかると、役員一人を除き、全員が反対した。(中略)『役員会で10人中3人が賛成したらやる』というのが、これまでの方針であったが、今回は賛成1人でもやる、と押し切った。」とか。

取締役のうち3人が賛成なら、やる。8~9人が賛成なら、やらない。時代遅れだから。そんな方針だったのが、今回は自分ひとりでもやるのだ、と。

満州事変について調べに来たイギリス人中心のリットン調査団が、倉敷に立ち寄って、その美術品収集に度肝を抜かれたとか。それで「クラシキはブンカの街」という評が欧州、米州に広まった。

太平洋戦争末期、そんな理由でクラシキは空襲を免れます。いまでも美しい街並みいがあるとか。ぜひ行ってみたいと思いました。

解説者が触れていましたが、砂田の存在も面白い。砂田とは、孫三郎と同じ倉敷の地主階級ながら、考え方は正反対の人物です。確かにスパイスになっています。「理想だ、主張だと、相変わらず窮屈なことばかり。人生は短いというのに。人間はこの世にちょっと立ち寄っただけんだ。とにかく気楽に、楽しく過ごすことじゃ。」(砂田)。悟っているのか斜に構えているのか。

そんな砂田は、後年、デモ隊に迫られ、後ずさりして川に落ち、半身不随に。3人の息子が遺産を巡り醜い争いをします。この辺りは実話でしょうか。孫三郎の生き方を際立たせるための創作でしょうか。

僕のつたない読後メモなど参考にならない。ぜひ直接、同書を手にしてください。感動すること間違いなしです。




『燃ゆるとき』読後記

2013年05月27日 | よむ


『燃ゆるとき』(高杉良著)を読みました。

「赤いきつね」で有名なマルちゃんブランド、東洋水産の創業社長、森和夫氏の実名小説。

作中、カップラーメンのライバル会社、日清食品とその名物社長、安藤百福氏が悪く書かれていました(作中では日華食品、安東福一)。安藤百福氏といえば、カップヌードル開発秘話が有名で、立志伝中の人物です。

わたし自身『ロングセラーの舞台裏』という本で「カップヌードル」の項を書いたことがあります。当時、下調べでいろいろ資料を当たりましたが、礼賛するものばかりでした。

先日、『男の貌』読書中、ヤマト運輸の小倉昌夫氏を高杉氏はあまり高く評価していないことを知りました。高杉氏は『男の貌』を読むまでもなく、かなり信用できる方と思います。その方の評価ですから……。

人の評価は、特にその人物を直接知らず、マスメディア等の情報だけで下す評価は、ほんとうに危ういと思いました。




『プロ野球戦力外通告2010』の続き

2013年05月27日 | よむ

『プロ野球戦力外通告2010』(オークラ出版)の続き。

数字は、1981~1990年に在籍した選手の平均値で出しています。この時代の巨人は、優秀な投手が多かった。(以下引用)「槙原博己、斎藤雅樹、桑田真澄、木田優夫、吉田修司とドラフト1位組の多くが20年前後も長持ちしたことが大きい。(中略)大穴狙いをせず、ある程度完成された実戦向きの選手を中心に手堅くスカウトした結果といえるが、投手王国という恵まれた環境が酷使の緩和につながり、(投手の)選手寿命が延びる一因になったことも見逃せない。」

とくに巨人が、政策として、投手に優しくしていたわけではないのですね。いい投手ががっちりローテーションを守っていた、だから新人の付け入るスキがなかった、よって長年活躍できた、ひいては投手の選手寿命を延ばした、ということです。

1チームが抱えられる選手数は決まっているし、毎年、ドラフトなどで補強するわけだから、その分だけ選手は辞めざるを得ない。

実力者が正ポジションを長く務めている場合、若手は芽が出なければ、早めに辞めざるを得ない。逆に、固定レギュラーがいない場合でも、競争が激しく、実力勝負に敗れた者は早く辞める。どっちもどっちのようですが、巨人の投手の例を見ても、前者のほうが、選手に優しいといえそうです。

そのチーム所属の選手の寿命を、何が左右するのか。なかなか難しいですね。




『プロ野球戦力外通告』読後記

2013年05月27日 | よむ

『プロ野球戦力外通告』を読んだよ。2010年版。

工藤公康、今岡誠らが大きく取り上げられていました。誰にも起伏の富んだ人生があるもんだけど、プロ選手は、頂上が高いだけにドラマチック。いろいろな第二の人生があることが分かりました。

ポジション別平均在籍年数なんて巻末企画も面白かった。
もっとも選手寿命の短いのは投手で、平均8.18年とか、球団別投手の平均年数が長いのは巨人で、9.75年とか。逆に短いのは中日の6.97年。小見出しにいわく「投手王国・巨人の長さと酷使されまくりの中日」とか。一般の認識とは逆だと思うが、データはそうなんだって。

同テーマの、東山紀之がナレーションするTBSドキュメントも見ごたえがあって興味深いね。

今年は、谷茂、中村紀と2000本安打達成者がいました。またどんなドラマが見られるか、楽しみです。







『心を整える。』(長谷部誠著)を読んだ

2013年05月17日 | よむ

『心を整える。』を読みました。著者は、サッカー選手の長谷部誠さん。

何か判断を迷ったときは、名前に恥じないよう、誠になるような道を選ぶとか。寝る前の1時間は、お香を焚いたり、心を落ち着けるための儀式をしているとか。

飲みに行っても、「明日、練習だから」と、あらかじめ決めた時間で切り上げるとか(サッカー選手になりたての頃、カズさんに食事に誘われた際、カズさんがそうだった)。ゲームでピッチに入るときは、「じいちゃん、宜しく」と心で念じるとか。

彼が「心を整える」ためにしていることが、具体的に書かれていたよ。なかなか続けられないこと。まだ若いのに立派です。日本代表キャプテンを務め、同書がベストセラーになるのも分かるね。

10代後半の若者、そして10代の子を持つ親御さんは、ぜひ。