【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

ばけもの

2021-09-05 09:01:46 | Weblog

 「化け物」と書くのは「人ではない」という意味でしょうが、人から変じたバケモノの場合には「化け者」と書いた方が正確なのではないでしょうか。

【ただいま読書中】『化け物心中』蟬谷めぐ美  著、 角川書店、2020年、1650円(税別)

 舞台は文政の江戸、芝居小屋が集まる芝居町。ペットとしての小鳥を商う鳥屋の籐九郞は、身体はでかいがチキンハートで、惚れた女おみよの芝居狂いに巻き込まれ、元人気役者田村魚之助(ととのすけ)にいいようにこき使われています。といっても、これまでは足が不自由な魚之助を負ぶって買い物に付き合ったりの子供の駄賃仕事でしたが、今回は、芝居小屋での鬼退治、というとんでもない依頼です。
 しかし、証言をする者はすべて役者。その証言がどこまで信用できるのか、保証は全くありません。素人探偵の籐九郞の体と心は、あっちに行ったりこっちに来たり、うろうろうろうろするばかり。人を表面的にだけ眺めていたのが、その裏に「本性」が隠れていることや、役者が「うそ」と「まこと」のはざまできわどくバランスを取りながら生きていることも知り、籐九郞は急激に成長していきます。
 役者だけではなくて花魁もまた「うそ」と「まこと」のはざまで生きていました。それを知ることで、読者もまた「うそ」と「まこと」のはざまに身を置くことになり、「鬼」と「人」の境界は不鮮明になっていきます。というか、「誰が鬼か?」という謎ときはある意味もうどうでもよくなってしまいそうです。
 昼と夜のはざま、逢魔が時に辻で出会うのは、人か魔か見ただけではわかりません。江戸の心の闇の中で出会うのも、人か鬼か……そもそも人と鬼はまったく違うものでしたっけ?

 



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