【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

宇宙考古学

2021-09-04 06:46:59 | Weblog

 このことばを初めて聞いたとき、私は「宇宙に出かけていって発掘調査をする」というSF的なイメージを持ってしまい、わくわくしました。実際には宇宙から地球を眺めてリモートで考古学的な調査をする学問だったのですが、それを聞いてもやはりそのスケールの大きさに私はわくわく。たぶん私は、宇宙も考古学も、好きなのでしょう。

【ただいま読書中】『宇宙考古学の冒険』サラ・パーカック 著、熊谷玲美 訳、光文社、2020年、2400円(税別)

 たった12ページの「はじめに」でもう私の心は鷲掴みにされてしまいます。著者が出会った「祖父」と「ハリソン・フォード」の二人によって、著者は科学者になることを決定づけられました。科学者の出自がここまでウェットであることは珍しいかもしれません。さらに著者が語る未来の夢(人類が地球を飛び出して宇宙に植民した後、初期の植民地を「考古学者」が調べるかもしれない)は、下手なSFよりも刺激的でスペキュラティブです。また、宇宙考古学(衛星写真によって遺跡を発見する)によって、「過去に対する勝手な思い込み」が訂正され、「過去の人類が持っていた素晴らしい知恵」が学べ、さらに「古代文明がなぜ滅びたのか」を知ることで我々の文明についての考察も深まる、と知ると、この学問に対する興味はどんどん増していきます。なんだかもう本を数冊読んだ気分ですが、ここから話は始まります。これって、「インディージョーンズ」の最初の数分間と同じですか?
 1906年イギリス王立工兵連隊気球分隊のシャープ中尉は気球の上からストーンヘンジ移籍の写真を撮影しました。この写真がロンドン考古協会から発表されて大騒ぎに。周囲の地面に色が変わっているところがあって、そこに古代の遺跡が埋まっていることを示していたのです。第一次世界大戦で飛行機は主に偵察に活用されましたが、その時撮影された写真は戦後に考古学で活用されることになりました。高空からの写真は、遺跡データを示すのです。やがて飛行機から人工衛星に話は発展し、無料の低解像度の写真から有料の高解像度の写真まで、考古学者は遺跡データを求めて活用するようになりました。そして2008年、カラコル遺跡(ベリーズにある1000年以上前の古代マヤ遺跡)で新しいレーザーイメージング技術がお試しで使われた時、研究者たちは腰を抜かしました。グーグルアースでは広大な熱帯雨林にしか見えませんが、その樹冠の下をレーザーで覗き込むと、何百もの遺跡が新たに発見されたのです。
 本書には、著者が実際に体験した様々な発掘やデータ処理の話が登場しますが、一緒に組むのがユニークな人ばかり。時におむつをあてられて大騒ぎをする子供も登場しますが、あ、これは著者の子育ての場面でした。
 本書を読んでいて痛感するのは「何かを(新しく)知る」ということは「自分がそれを知らなかった、ということも知る」ということです。ついつい私は「知っていること」をベースにして色々知らないことについて推察などをしてしまうことがありますが、その時「自分は知らない」ことも忘れないようにしなければならない、と強く思いました。

 



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