【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

新元号(2)

2019-03-31 07:03:44 | Weblog

 昨日「新元号は国民投票で決めたら?」なんて思いつきを書いた後になって、これってけっこう深い話題かも、と思いつきました。
 東洋では「権力者」は「時の支配者」でもあります。記紀を見たら「○○天皇の××年」なんて記述はふつうにあります。また、元号を決めるのは時の最高権力者の特権でしたし、江戸時代には暦の発行は江戸幕府が規制をしていました。つまり「今がいつか」は、権力者が決定するものだったのです。
 ということは、新しい元号を、天皇を差し置いて政府が決めるのは「俺たちは天皇よりエラいんだぞ」という意見の表明です。さらに「民間のアンケートで人気があるものは外す」としているのは「俺たちは国民よりもエラいんだぞ」という意見の表明でもあります。だけど、日本の主権者は現在は国民のはず。ということは、国民が国民投票で決めることに、どんな問題があります?(「天皇が決めるのが日本の伝統」と主張する人は、まずは「総理大臣も官房長官も有識者も、引っ込んでいろ!」と主張しなければなりませんが、しています?)

【ただいま読書中】『チベット旅行記 4』河口慧海 著、 講談社(学術文庫)、1978年(93年22刷)
563円(税別)

 チベットからインドに輸出するもので目立つのは「麝香」です。ネパールへは「羊毛」「ヤクの尾」「塩」「硝石」「羊毛布」。モンゴリアへは「経典」。輸入は主にインドからですが、その主力商品は「無地の羅紗」。輸出入のバランスは輸入過多となっていますが、これまではモンゴリアからの献金が多くて何とかなっていました。ところが日清戦争以来その流れが途絶え、チベットはなんとか輸出を増やす必要があります。だから「鎖国」はしていてもそれはあくまで「政治」だけのことで「経済」はそれなりに活動を続けているのです。商人だけではなくて、遊牧民も百姓も僧侶も、全国民が商売に頑張っているのです。
 著者は経文を買い付けますが、これが大変です。経文(の版木)は、各寺ごとに秘蔵されています。だから、紙を買い整え、金を払って版木を借り、人を雇って版を刷らせます。版刷りは二人一組で、もう一人が刷り上がったものをまとめる役目、それがお茶を飲みながらのんびり仕事をするので、時間と手間賃がどんどんかかります。
 著者はチベット人の不潔さと迷信深さと仕事がのろいことに困っていますが、賃金に関しては男女で同一労働同一賃金であることに感心しています。というか、今の日本人も「ふーん」と思うべきですね。子供の遊び、病人の看護などの日常生活のことから、法王政府の複雑さやチベットの外交などまで、著者の興味は網羅的です。この頃のチベットが親露の方針となったのは、これまで宗主国として君臨していた清の力が弱まってチベットに対する干渉が激減したのを良い機会としているのだろう、という著者の分析は、頷けるものです。ロシアとしては、英領インドをうかがう土台としてチベットが利用できるかもしれない、という目論見があるのでしょう。隣国のネパールは、チベットよりはるかに狭い国土ですが、人口はどんどん増えています。しかし領土拡張を、英領インドや清に向かってするのは困難。ではチベット方向へ? ところがチベットがロシアと組むと、これはネパールには不都合です。ところでネパールがチベットに開戦したら、実はそれはイギリスにとって最大の利益をもたらす、と著者は考えています。だったら、チベットの弱点(人材不足)を“攻め"て、経済界にどんどん人を送り込んでチベット経済の実権を握ってしまうのが、一番平和的で、イギリスには利益を与えず、それをネパールとチベットで享受できるのではないか、と著者は両国にアドバイスをしたいようです。
 もしも著者がスパイだったら、第一級の評価を得ることができたでしょうね。政府の上層部にも見事に食い込んでいるのですから。ただ「スパイしよう」という悪い心がないからこそ、そこまで受け入れられたのかもしれません。
 しかし、ついに著者が密入国をした日本人であるという噂がラサ府に広がり始めます。そろそろ退去の頃合い。しかし問題は、自分に肩入れをしてくれた人びとが後難を得るのではないかという恐れと、大量に購入した経典をどうやって運び出すか、です。著者は自分の身の安全は全然気にしていません。これを気にしないのは、密入国をする前からずっと首尾一貫しているので、私は今さら驚きませんが。




コメントを投稿