【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

恩を返さない、の勧め

2020-07-18 07:28:28 | Weblog

 「恩返し」だと「一往復」で話が完結してしまいます。これが「恩贈り(送り)(頂いた恩を別の人に別の形で“返”していく)」だったら、話は「拡大再生産」していきます。「恩着せがましい人(恩返しを期待する人)」以外には、こちらの方がありがたいのでは?

【ただいま読書中】『女嫌いの平家物語』大塚ひかり 著、 筑摩書房(ちくま文庫)、2012年、780円(税別)

 『平家物語』は基本的に「男の物語」です。たまに女性が登場しても、なんだか話のスジが無理やりいじられていたり不自然だったり、なんだか変、ということで、その「変」さを楽しもう、という本です。
 「二代后」は、先代天皇の皇后を見そめた二条天皇が、無理やり自分のお后にした、というお話です。つまり二条天皇は「悪者」役。ここから著者は「後白河院と二条天皇の対立で、後白河院は平氏を使うことで自分が有利になるように画策をしたこと」を背景に、その歴史的背景を説明するためと安直な道徳観を主張するために、このエピソードが平家物語にあとから挿入された、と考えます。
 平家物語には「女院(にょういん)」と呼ばれる女性が何人か登場します。これは「朝廷から院号を受けた女性で、待遇は上皇に準じる貴婦人」のことです。その中で、平家物語で極めて対照的に扱われるのが「建春門院」(平清盛の妻の時子の異母妹、高倉天皇の母)と「八条女院」(後白河院の異母妹)です。平家物語で建春門院は「そねみの女性」としてきっぱり否定的な評価をされていますが、八条女院は平家が都から落ちる際に「情け深さと義侠心との両方を持ち合わせている態度を示した」と実に肯定的に評価されています。本書の著者はそこに「平家物語の“意図”」を感じます。
 さらに、子供に対する親の態度に関して、「平家物語では、ダメ母には厳しいがダメ父には共感を示す」と。そういえば確かに「息子を思う父」はけっこう登場するけれど、「子供を思う母」は影が薄いですね。だから「生涯独身」だった八条女院を好意的に扱うのか、と著者は見ています。
 これはたぶん、女性でないと気がつきにくい事でしょうね。さらに著者は、平家物語の作者は男性同性愛者(女性嫌悪者)ではないか、と推定しています。このへんはもうちょっとほかの人の話も聞いてから、私は判断したいと思っています。
 『平家物語』は史実ではなくてあくまで「物語」ですから、楽しみ方はいろいろでしょう。本書を参考にしつつ、私は私なりの楽しみ方をしたいと思っています。