トランプ大統領のツイートを見ていると、彼は「洒落た言い回しができることを得意に思っている」のか、と感じることがあります。だけどそれは、無教養な人間が教養ある人間を気取ろうとしたときに陥りやすい罠の一つなんですけどね。
【ただいま読書中】『乱流のホワイトハウス ──トランプvs.オバマ』尾形聡彦 著、 岩波書店、2017年、1900円(税別)
トランプが大統領になる前の段階から「ロシア疑惑」はすでに捜査をされていました。トランプは大統領になると、疑惑を報道したCNNを「フェイク・ニュース」と面罵。ついでFBI長官コミーを解任。さらに「コミーとの会話の秘密テープ」について言及。ところがコミーが会話の詳細なメモがあることを公表すると「秘密テープ?何それ?」。
ホワイトハウスの記者会見には独特のルールがあります。陰でこそこそネタをあさるのではなくて、表舞台での質問(それも臨機応変のもの)でリスペクトを得ることができれば、大統領報道官に名前を覚えてもらえます。高官だけではなくて,下っ端官僚にも名前を覚えてもらうと(もちろん記者の方もインターンの一人一人まで覚えていきます)「裏側の取材」も格段に楽になります。ここでキモなのが「公の場でのリスペクト」である点で、実にアメリカ的ですね。日本とはずいぶん違いますが、私は「情報のやり取り」に関してはアメリカ式の方が好みに合います。ただ、アメリカにも日本の記者クラブ(のようなもの)があり、さらにその中に幾重にも「インナーサークル」が形成されている、というのは、「この国でもか」とちょっとだけ意外でした。人間は国がかわっても結局似たことをするもののようです。
インナーサークルに入れると、高官との1対1のインタビューも可能になります。ただし日本とは違って「オフレコード」にしても厳密な「ルール」があります。記事にするときに、日本語記事が翻訳されて英語になってその高官が読んだとき納得できるかどうか、も考えながら単語一つ一つを選択する必要があります。従うべき「郷」は、なかなかタフです。
トランプの行動の“核"に「オバマに対する強烈な敵対心」が存在しますが、それは実に6年前にまで遡るそうです。「オバマに復讐してやる」でとうとう自分が大統領になってしまう、とは、ガッツは大したものです。あまり健全なニオイはしませんが。「大統領になったらすべて“アンチオバマ"で動いてやる」ですから。
トランプが敵視した「オバマの政策」で、有名なのはオバマケアでしょう。さらに著者は「外交」から「広島訪問」を取り上げますが、これが「安倍首相の真珠湾訪問」と「セット」ではなかった(オバマ大統領は安倍首相が真珠湾を訪問しなくても構わないと腹をくくって広島訪問をした)というのには、心底驚きました。なるほど、これが「オバマ」なんですね。
政治がきれいごとで進まないのは、わかっているつもりです。だけど、その根底に共有可能な理想主義が存在するか、そのかわりに攻撃と侮辱とフェイクとプラフが中核として存在するか、によって、世界の運命は大きく変わってしまうでしょう。「でしょう」ではありませんね、実際に大きく変わりつつあります。