【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

性差

2018-03-09 07:32:36 | Weblog

 女:好きだからセックスもできる
 男:セックスができるから好き

【ただいま読書中】『翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった』金原瑞人 著、 牧野出版、2005年、1500円(税別)

 翻訳家になって20年、訳した本は222冊以上、のベテラン翻訳家のエッセー集です。私個人の思いなのですが、この人が訳した本にはハズレがとても少ないので、私は訳者のところに「金原瑞人」があるとそれだけで“信頼"して本を手に取っています。
 大学を卒業して就活に失敗した著者は、家族と屋台のカレー屋をすることにしましたが、そこでばったり会った大学の教授に大学院に誘われ、そこから「ひょんなこと」の連続から翻訳の仕事が舞い込んできて……といつの間にか「翻訳家」になってしまったのだそうです。
 そういった「金原瑞人さんの人生」についても面白いのですが、「翻訳」そのものについての「思い」が私には興味深いものでした。たとえば「『原文の方が面白い』のは当たり前」とか「翻訳は『間に合わせ』であり『その場しのぎ』にすぎない」とか「鴎外の小説はいま読んでも少しも変ではないが、鴎外訳の『マクベス』はかなり変だ」とか。翻訳にどっぷりつかっているからこそ感じている実感や、著者が見抜いた「翻訳の実相」といったものが、さらりと披露されます。そういえば「自分が子供時代に面白かった本」を自分の子供に勧めるのは良いけれど、翻訳は新しいもの(今の時代に合ったもの)にした方がよい、という提案には、考えさせられてしまいました。私にとって子供時代に刷り込まれて「デフォルト」となっているものは、すでに「時代遅れ」(今の子供たちにとってはまるで「古文書」)なのかもしれない、と思ったからです。
 ただ、「昔の原文」が「古典」として残ることがあるのと同様に、「古い翻訳」もまた「古典」として残ることもあるのではないか、なんてことも私は思います。できたらそういった翻訳もがんがん生まれて欲しい。