【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

アイの言葉

2015-05-30 06:15:58 | Weblog

 アルファベットは「アルファとベータ」、いろははもちろん「いろは」から。すると現在の日本語は「あいうえお」から始まりますから「アイの言葉」なんですね。

【ただいま読書中】『警士の剣 ──新しい太陽の書3』ジーン・ウルフ 著、 岡部宏之 訳、 早川書房(ハヤカワ文庫SF724)、1987年、520円

 セヴェリアンとドルカスはついに目的地のスラックスに到着しました。大瀑布の絶壁に彫り込まれた〈窓のない部屋の町〉へ。そこでセヴェリアンは警士として、刑務所の管理・拷問・処刑を担当します。
 辺境の町スラックスには、辺境の民が様々流れ込んでいました。非常にバラエティが豊かな人種の見本市ですが、これも恐らく伏線でしょう。その中にセヴェリアンは自分の命を狙い続けているアギアを見かけたような気がします。
 スラックスの執政官が開催した仮面舞踏会に参加した夜、セヴェリアンは火蜥蜴(サラマンダー)に追われます。そして、ドルカスの秘密を知ることになります。ドルカスは、愛と死とが複雑なダンスを踊って生まれたセヴェリアンの恋人でした。そして、二人がその愛を自覚した時が、二人の別離の時だったのです。ただし、再会の予感、というか、予告はあります。それが幸福な再会かどうかは予告では語られませんが。
 なんとも不思議な「異世界」です。一つの太陽、一つの(満ち欠けをする)月、歴史の古層を掘るとそこからは「地球の神話の数々」が発掘されます。すると惑星ウールスは未来の地球? 昼間でも星が見えるのには違和感を感じますが、これは太陽が死にかけているためですね。
 スラックスから単身脱出したセヴェリアンは、アギアと再会、また「死」に襲われ、息子を得、またまた牢獄へ入れられます。そういえばセヴェリアンは、各巻で必ず牢獄に入れられているような気がします。ただ、そういった牢獄の中でもセヴェリアンは退屈はしません。完璧な記憶力を巻き戻すことができるだけではなく、ある死者の記憶をおぞましい方法で移植されてしまっていて「自分」と「死者」の対話もできるのですから。
 しかし、本書では、悲しいというかはかない別れが続きます。あまりに簡単に人々は死んでいきます。そして、本書の最後の戦いで、セヴェリアンは愛剣とも別れることになってしまいます。なんだか、すべてを失ったようなのですが、さて、ここから話はどうなっていくのでしょうか。第四巻を早く読みたくなります。