【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

犯罪の凶悪化

2015-03-31 06:25:37 | Weblog

 少し前のことですが「14歳」とか「17歳」をキーワードとして、日本で凶悪な少年犯罪が増えている、という論調がありました。そのとき「本当に増えているのか?」と警察の統計を見たら、少年による殺人事件は終戦後しばらくしてからどんどん減っているのがわかりました。つまり「今どきの若い者は」と言っている人たちの世代自身が「少年」のときに「少年による殺人事件」は最盛期だったわけです。

【ただいま読書中】『身内の犯行』橘由歩 著、 新潮社(新潮選書314)、2009年、720円(税別)

 凄惨な殺人事件の報道があるたびに「物騒な世の中になった」などと思いますが、上に書いたように、実は日本では殺人事件は減少傾向です。しかしその中で着実に“シェア”を増やしているのが「身内による殺人」。親が子を、子が親を、夫婦間で、など、家族の中での殺人のことです。著者はそのことに心を痛め、実際にどのようなことが日本で起きているのか、まず裁判の傍聴から始めます。
 虐待、DV、代理ミュンヒハウゼン症候群、引きこもり、解離性同一性障害、統合失調症……読みながらため息が出るような単語が次々登場します。しかしそういった「個別の特殊事情」だけに注目していたら、「身内による殺人」は「自分とは無関係な世界の出来事」となります。著者はそうは考えていません。これは「自分が住んでいる世界の出来事」であり、一歩間違えたら自分もその関係者になったかもしれない事件、と考えているのです。そこには著者が「女性」であり、子育て経験者であることも大きいようですが、事件を少しでも深く掘り下げようとする著者の姿勢が、そのように著者に思わせているのかもしれません。
 たとえば「子殺し」を一般化することはある程度可能です。子育ての重圧が親を壊した場合、親は子供に対して殺意を抱くことがあります。もちろんほとんどの人はそれを瞬間的に抑圧しますが、その抑圧に失敗した人は子殺しをしてしまうのです。
 となると、私が気になるのは「介護」です。本書には登場していませんが、老老介護がどんどん増えている現在の日本で、これからは「介護に疲れて」の殺人の“シェア”が増加するのではないか、と。ここにも「個別の事情」だけではなくて「社会の事情」が投影されているはずです。それも、とても色濃く。