【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

批判に対する耐性の低さ

2015-03-02 06:53:56 | Weblog

 ネットで自分の意見に反対をされると、血相を変えた文体で「対案も出さずに批判をするな!」などと書く人がいます。それってレストランで「この料理はまずい」と言ったらシェフが包丁を握りしめて血相を変えて「まずい」と言った客に向かって「自分でこれ以上美味い料理を作って見せろ!」と怒鳴ることに、どこか似てません?

【ただいま読書中】『オデッサ・ファイル』フレデリック・フォーサイス 著、 篠原慎 訳、 角川書店、1974年

 ケネディが撃たれた日のドイツで本書は始まります。著者は最初から、ナチスの戦犯たちを保護する組織「オデッサ」について書くぞ、と宣言しているので、私はむしろ意表を突かれます。
 やり手のドイツ人ジャーナリスト。救急車。ガス自殺をした老人。“イスラエル寄り”のケネディが殺されたことに祝杯を挙げる人たち。その中に混じっているイスラエルのスパイ。短い文章で、まるでオペラの序曲のように、本書の全体像がちらりちらりと示されます。そして、老人の遺書。そこで短く的確に、SSがユダヤ人に何をしたかが語られます。それと同時に、1963年の西ドイツ人が“自分たちの過去”から目をそらしている“現実”も。「西ドイツ人」から見たら過去の蛮行は「ナチス」が行なったことでしかも「過去」の話なのです。今の日本を見ると、これは“他人ごと”ではありません。
 オデッサにバックアップされているSSの残党(とその支持者)は、イスラエルに大損害を与えるために、ドイツ人科学者を集めてエジプトでロケットを作ろうとしていました。弾頭は、放射性物質(コバルト)とペスト菌。アメリカと組んでイスラエルに軍事援助しようとしていた西ドイツは、しかしイスラエルの情報機関が西ドイツ内で勝手に誘拐や殺人をすることには不快感を持ちます。
 その“大きなドラマ”と平行して、西ドイツ内のジャーナリストが、大量虐殺の責任追及から無事逃げおおせているSSの元大尉を追跡するドラマが始まります。ここで伏線となっているのが、ジャーナリストの動機ですが、これがまた小さくて大きな「謎」となっています。

 著者の『ジャッカルの日』を初めて読んだときには、その取材の綿密さと国際情勢がマクロとミクロで動いていることを生き生きと描写しているリアリティに衝撃を受けました。ただ、今こうして“昔の作品”を読むと、やはりいくらかの“古さ”は感じます。たとえば『ミレニアム』シリーズと比較して、ストーリー展開のスピーディーさとか暴力描写とか人の深層心理分析への言及とかがちょっと緩やかです(音楽で言えば、4ビートと8ビートの違い、といった感じ)。ただ、フォーサイスがいたからこそ犯罪小説などが大きく進化した、だから『ミレニアム』などが登場できた、とも言えるわけでしょう。なんだか『ジャッカルの日』も読みたくなってしまいました。